ブルガリア(1)CGイベントと建築大学
2021.02.12
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏
みなさん、ブルガリアと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?おそらく大部分の方がヨーグル
トを連想されるのではないでしょうか。また相撲好きの方は鳴戸親方(元大関琴欧洲)を思い
出されるかもしれません。南にトルコやギリシア、北はルーマニアと国境を接するブルガリア
共和国は社会主義の時代には農業国として栄え、バラの生産でも有名です。EU加盟後はIT産業
に力を入れており、コンピュータグラフィックスやゲーム産業も盛んで、V-Rayで有名な
ChaosGroupがあったりします。
もう2年前になりますが、実はそのブルガリアを年に2回も訪れる機会がありました。
一度目は5月、先述のChaosGroupが主催するイベントに登壇する機会をいただいたのがきっ
かけです。V-Rayは建築パースを書いたことがある人ならだれでも知っている有名レンダラー
の一つですが、その開発元が世界中からユーザーを集めて行う一大CGイベントに幸運にも
お招きいただきました。こちらでは映画やゲーム、広告といった業界の第一線のクリエイター
達と共にイベントに参加することができ、当時建築CGを描き続けることに不安を感じていた
私にとって大変な刺激になりました(この「建築ヴィジュアライゼーション」についてのお話
はまた別の機会にさせていただきたいと思います)。
実は5月のブルガリア訪問ではもう一つ任務がありました。それはブルガリアの建築大学の
ミレーナ教授との打ち合わせです。ちょうどその教授から隈宛てに講演と展覧会・ワークショッ
プの依頼をいただいていた関係で、会場の確認などの詳細を伺う必要があったためです。
個人的にはワークショップにとても興味がありました。特に学生とのワークショップが実現す
れば、実験的なパビリオン制作などに挑戦できる可能性があります。パラメトリックデザイン
を用いて実験的なことを検討していても、当然ながら実際の建築物に採用されるまでは時間が
かかります。一方、パビリオンやインスタレーション作品であれば、そのアイデアを短期で実
現できる可能性があります。とはいえ、それまでご縁のなかった土地で何かを作るのは簡単で
はありません。このプロジェクトも在ブルガリア日本国大使館はじめ、本当にたくさんの方々
にお世話になり実現しました。
特に運命的だったのが、ブルガリア在住の日本人建築家の山崎揚史さんとの出会いでした。偶
然にもChaosGroupのイベントに参加していたブルガリア人の方から「紹介したい日本人建築
家がいる」と声を掛けられ、ご紹介していただいたのがご縁です。短い時間でしたが山崎さん
からソフィアの歴史やブルガリアの建築、さらには建築教育に至るまで沢山のことを教えてい
ただき、個人的にも何としてもこの街でワークショップを実現したいという思いを強くし5月
のソフィアを後にしました。
話は少し脱線してしまいますが、ブルガリアの首都ソフィアについて簡単にご紹介したいと思
います。書店にいっても旅行ガイドも少ないややマイナーな都市かもしれませんが、緑豊かな
歴史ある魅力的な街です。おそらくソフィアにいるどのガイドさんよりもソフィアの街の成り
立ちに詳しいであろう山崎さんからご案内頂けば、だれもが夢中になると思います。ソフィア
中心部には古代ローマ時代の遺跡からオスマン帝国時代に作られたモスク、さらには社会主義
時代の共産党の建物など様々な時代の建物が残り、それも比較的狭いエリア内に密集していま
す。文字通り歴史が地層となって積み重なったような成り立ちをしているのも特徴で、地下鉄
を降り地上に上がる過程で古代ローマ時代から現代までの歴史を感じることができます。また
中心地には温泉も湧いていて、自由にのめる水汲み場があったりもします。実はこの温泉を
利用した立派な公衆浴場があるのですが、残念ながら現在は閉鎖され市の博物館になっていま
す(こちらについては昨年コンペが開かれ、山崎さんと弊社の共同で温泉を復興させる案を
持って参加しております)。
次回も引き続きブルガリアで行ったワークショップについてお話したいと思います。