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コラム

データベース、終わりなきBIMへ

2021.05.25

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

国土交通省が主導する3D都市モデルの整備プロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」
が話題になり、各所でBIMモデルという言葉も建設以外の人からも聞くようになってきまし
た。
BIMを今すぐにでも使いたい、活用したいという相談も受けました。私は主にRevitのコンサ
ルティングをすることが多いのですが、Revitを社内で整えていくという計画を立てる際に、
いつまでに整備が終わるかという話題になることが多いです。「終わり」つまり、「完成」
を意味することの概念こそが、日本でBIM元年といわれてから10年経つにもかかわらず、現
場は楽にならないという理由の一つだと思っています。もちろん、実際の特定のBIMプロジェ
クトに関しては必ず始まりと終わりがありますただBIMの整備に関しては終わりがないも
のだと考えます継続的にできる限り頻繁にアップデートし続ける種類の仕事だと思うので
す。今回のコラムでは、BIM整備に関して考えをまとめてみたいと思います。

BIMの技術やノウハウはどこに蓄積すべきかという話を考えてみましょうデータの形式や、
技術は日進月歩です。情報を扱う媒体、ウェブサイトをイメージするとわかりやすいかもしれ
ません。数年前に新しく見えていたウェブサイトが今は古い、遅いなどと印象を受けたことは
ありませんか。また、自分でブログサイトを立ち上げていて、しばらくほったらかしにしてい
たら、動かないなんて経験もあるかもしれません。
Revitで言うならテンプレートとファミリ整備それに付随するツル開発の3つが常にセ
になってきます。そのテンプレート作成や、ファミリ作成、ツール開発を外部に委託すること
もあれば、内製でつくることもあります。
では、どちらが良いかという話ですが、この選択についてもウェブサイトをイメージすると判
断しやすいです。テンプレートやファミリ、ツールも販売されていますし、無料で手に入るも
のもあります。ウェブサイトを自分でつくる道具が用意されているのと同じです。

その前に、そもそもテンプレートはどのようなものが必要なのでしょうか。BIMの標準化は、
会社で1つ、いや業界で1つにまとめることが大切だ、それこそが真のデジタル活用という思
想もあるかと思います。それは正しいでしょう。ただイメージしてほしいです。会社全体の
ウェブサイト、部署のウェブサイト、グループのウェブサイト、同じ会社でも複数のサイトを
持つことが当たり前です。それは、なぜか。理由は簡単でステークホルダーが多いと更新が難
しいからです。小さなチーム用のサイトの方が、自分たちでどのようなサイトをつくるかとい
う合意形成に時間がかからないためカスタマイズもアプデートも容易で小回りが利きます
それを1つどこでも使えるウブサイトのテンプレトはあるかというとたとしても使
えなくはないけど本当に欲しいものではないという状況になるのではないでしょうか。
自分たちのテンプレート整備の規模を部署なりチームなりに設定して作るというのを始める
しかないです最初から大きい規模のテンプレートよりも小さなものを複数持っているほうが
都合がよいことが多いです。
それでは、作ること自体を内部でやるか外注するかですその問題もウェブサイトでもBIM
でも同じです。どちらがいいかはケースバイケースです。

内製は、本当に必要としている人たちの声を確実に拾いやすいという利点があります。また、
ノウハウが会社に蓄積されるという意見もありますが、どうでしょうか。自分の経験では、
BIM整備がかなり進んでいた会社がBIM専門職を無くしていったことで、またトレーシング
ペーパーで紙ベースの設計に戻るということも見てきましたまた担当者が抜けたら他にでき
る人がいない、個人に任せすぎて組織的に育っていなかったという話もありますそうなると
整っていたものが急に更新されなくなり、バグが多くなり誰も見なくなり情報から離れて紙
などの旧媒体に戻っていきます。内部でやるなら組織的に、技術は人に宿ります。
外部委託は、要望を伝える能力が担当者にあり、かつ委託先の選定も重要です経験がある会
社に頼むことができるので、内部での教育コストを下げて始めることができます。5年、10年
の経験を買うことができるのです。ただ先ほどの話でもそうですが、技術は人に宿るため、評
判がよかった会社に依頼したのに、担当者に恵まれずできあがったものが思ったものと違うと
いうこともあります。しかし、専門会社ならいきなり人が誰もいなくなると言うことは少ない
ですし、担当者が転職したらその転職先に頼み直すこともできるという利点があるかもしれま
せん。
ただ両方に言えるのは長期的にみて手を加え続けるもの、終わりのないものということです。

ウェブサイトは立ち上げてからそこから始まり、メンテナンスがかかるものなのです。ウェブ
アプリやアプリなども同様です。常に新しい技術によってアップデートされ続けるというパラ
ダイムの中に情報に触れる以上、無意識のうちに置かれているのです。
作って終わりで保存ではなく、作ってアップデートし続ける、変化し続けてメンテナンスをし
続けるという情報というバーチャルでも、建物をメンテナンスするように、データのメンテナ
ンスをする時代に生きています。
それでは、BIMを導入してちっとも楽になっていない、大変になっただけではないかという意
見が聞こえてきそうですが、YesでもあるしNoでもあります。BIMで楽になる、楽にならない
の議論は、またウブサイトやアプリのユと開発者(制作者)に分けて考えてみて下さい
今や隙間時間に証券会社に行かなくてもアプリで投資もできるような時代です。ウェブサイト
やアプリに訪れる人は楽にデータが取得できますし、色々なことが便利に楽になったといえる
でしょう。ただそれらのツールをつくる技術者に求められる専門性は日に日に深くなり、かつ
範囲が広がっているために、細分化されていっています。

あなたはユーザーですか、それとも制作者ですか、どちらが優位という話ではなく、ユーザー
ならユーザーの声を届け続ける義務、制作者ならその声を聞き、アップデートし続ける義務を
両者持った上で、BIMという壮大なビジョンに向かい続ける忍耐と持続が必要です。不動産や
建設業をアップデートできるのか、それとも他の業種が建設業の仕組みを解体して担うのか、
大きな問いはどちらがその根気と誠実さをもっているかにかかっている気がしてなりません。


 

石津 優子 氏

GEL 代表取締役