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コラム

デザインとシステム

2021.06.17

パラメトリック・ボイス         SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎
 
複雑な形状を建てることに関わっていると、デザイナーはコンピューターの中だからこんな形
を作るけど、実際に作ることを考えていないよ、というような話が出ることがあります。
では、実際に作ることを考えたデザインとはどういう事でしょうか。
 
本コラムニストにも「複雑な形を(デジタル技術を活用しながら)実際の建物にする」という業
務に関わている方が多くいらしゃいますので皆さんの考えも聞いてみたいところですが、
私の場合考えるのは、理論的・技術的にできることをベースに当該プロジェクトの条件の中で
できることを探っていきます。
例えば斜めに立つ鉄骨柱があるとします。杭から含めて先端まで斜めに立っている柱はあまり
ありませんので、基本的にはまっすぐ立つもしくは異なる角度で立つ柱とつながることになり
ます。また、多くの場合梁は水平になるため、それらの接合部は異なる角度の鉄骨が数本交差
することになります。
この場合、基本ジオメトリ的には複数の線が一つの接点に集合していますので、それらの角度
を計算して角度毎の接合を考えることになりますが、仮にすべての角度が同じであれば果たし
て作りやすいでしょうか。
 
現実の部材にはボリュームがあり、柱と梁では断面の形状が異なります。形状的に最も簡単な
のは接合部を一塊のボリューム(鋳物や削り出し)とすれば良いのですが、重量やコスト等の制
限により鋳物を多く使うことはできない場合、いくつかの部材を溶接した接合部になります。
構造的には部材が途中で切れていると力が伝わらないため柱にいくつもの板を溶接することに
なるのですが、溶接をするための隙間があるか、溶接が多すぎて柱そのものが曲がってしまわ
ないか等を考慮した結果、本来の部材芯を多少ずらすことも多いです。
その他にも、すべてを一体で持ってくることができない場合はそこに継手ができ、建てる順番
というのも検討する必要があります(この検討ができていないと先につけた部材が邪魔で次の
部材がつけられなくなったりします)。
このように一つのディテールを決めるためには材料の調達、重量、溶接にかかる工数・技能、
製作の工数・費用、施工手順、現場での計測方法、等々プロジェクトによって条件が異なるた
め、関係者が集まってよりバランスの良い結論を出すための検討をしているのです。
 
ここまで考えるともともと同じ角度にしていたはずのジオメトリはだいぶ変わてくるので
統一したはずの角度がずれていたり、そもそも角度の統一に意味がなかったりすることに気づ
くことも少なくないでしょう。
もちろんこれらの検討を先にできれば、もしくは、これらの検討結果をすぐにフィードバック
してジオメトリに反映できれば理想的で、多くの方がこの理想を目指して日々努力をしている
と思います。
とはいえ前述したように多くの人が多くの知恵を臨機応変に出した結果の形です。デザインに
システムを組み込むとはそれほど難しいことなのだと思います。
 
デザインとシステムの融合に関しては様々な取組がされており、実際のプロジェクトになる事
例も増えてきています。いつかそんなデザイナーも建築業界を代表する一人になる日を期待し
つつ、今できる事をコツコツと積み上げていく日々です。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長