BIMと省エネ計算連携の実現で、設備BIMの
普及フェーズへ
2021.10.05
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
BIMのオブジェクト標準整備が佳境を迎えている中で(私も設備分野でその整備に関わってい
るのですが)、このオブジェクト標準の重要性は理解されつつあるように感じるものの、実感
としてその効果を味わっている方は一体どれほどいるでしょうか。
ややもすれば、オブジェクト標準で定められつつあるパラメータの、穴埋め地獄に陥っている
だけで、その後には大して活用もされていない。そんな虚しい状況に陥ってはいないでしょう
か。
オブジェクトの標準化を進める過程においては、様々な可能性を想定してパラメータ数が肥大
化しがちなものですが、後から何度も何度も新たなものが追加される混乱を考えると、やむを
得ない進め方であると思っています。ただし、ここで定められたオブジェクト標準すべてのパ
ラメータを、どのような建物でも毎度毎度穴埋めすることをBIMの目的にしてしまうと、それ
はさすがに疲弊してしまいます。
必須の必要最低限のパラメータと、必要に応じて取捨選択しながら利用するパラメータとをメ
リハリをつけて運用する、そのような柔軟なBIM活用を目指すべきだと思っているところです。
では、設備にとって、必須の必要最低限のパラメータとは何なのでしょう。
将来を見据えると、グローバルで標準化されたコード体系などについては具備しておくべきだ
と感じているのですが、残念ながら日本での具体的な活用事例が見えていないのが悩ましいと
ころだったりします。
また、ユーザーニーズを掘り起こして、最大公約数を見定めたいところですが、建物用途や立
場の違いによって千差万別で、なかなか標準化を定めることが難しい状況にあったりで。
そう考えると、国内では、設備で確実に利用することになる、建築確認申請や省エネ計算で必
要になるパラメータ、このあたりが、必須パラメータになるのではないかと考えられます。
特に、省エネ計算については、一定規模の建物の新築時や改修時に適合判定が求められ、既存
建物も含めて、カーボンニュートラル実現に向けた「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」
普及のための「ZEB Oriented」や「ZEB Ready」などのBELSの認証制度活用の広がりも予見
されることから、BIMと省エネ計算連携の実現や、省エネ計算に必要なパラメータの標準化は
重要なテーマだと思われます。
また、この認証でより良い評価を得るためには、標準入力法などの詳細な計算を行う必要があ
り、そのために現状1~2ヶ月といった期間とそれなりの経費をかける必要があるため、これを
合理化するニーズは高いはずです。
さて、このBIMと省エネ計算の連携について。
設備では、設備機器を中心にオブジェクト標準の整備が進んできていて、省エネ計算の標準入
力法等で必要となる詳細なパラメータもある程度定義されているので、これをBIMに実装して
BIMと省エネ計算の連携を実現することが可能な状況にあります。
これを実現したのが下の画面キャプチャーで、これは、意匠モデルの部屋情報と外皮情報、設
備モデルのスペース情報と機器情報などを活用して、WEBプログラムにAPI(Application
Programming Interface)で接続し、外皮性能のBPIだけでなく、設備の省エネルギー性能指
標のBEIを取得することもできるRevitのアドインソフトになります。
ちなみに、省エネ計算の標準入力法はモデル建物法とは異なり、詳細な設備機器等のパラメー
タだけではなく、空調対象室などの部屋と機器との関係のような複雑な情報を入力する必要も
あるのですが、これについては、前回のコラムで記載した「スペースと設備オブジェクトを紐
づけるパラメータ“対象機器記号”」で解決していたりします。
これらの、BIMを設計プロセスで活用する中で必要となるパラメータが、省エネ計算でも再利
用可能になることで、今まで省エネ計算を行うために新たに入力し直していた膨大な作業を効
率化することが可能になるはずですし、省エネ適判においても、審査側の負担を減らし審査の
合理化に繋げることも可能になると思われます。
現在、大手空調メーカーや照明メーカーから続々と提供され始めているメーカーオブジェクト
には、オブジェクト標準で定められている省エネ計算で必要となる設備機器情報についても、
ある程度格納されています。今後、BIMと省エネ計算連携の普及が進めば、メーカーから提供
されているBIMオブジェクトの有効活用も進んでいくものと期待しています。
BIMと省エネ計算の連携。
この実現が、設備でBIMを活用するきっかけになり、本格的なBIM普及に繋がるのではないか
と期待しているところです。