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コラム

一人一人の「武器」としてのBIMネットワーク

2021.10.07

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

1.私の懸念: BIMの社会化に向けての3つの不在
よく言われていることだが日本の社会経済の停滞が言われて久しい既に30年以上がこの
状態だから40歳以下の多くはこれが当たり前の世の中だと思ているのも当然かも知れない
そんな見方をしていた私だが、少しホッとした出来事があった。
8月に行われた建築情報学会のイベント「BEYOND BIM」にパネリストとして参加した。最終
コーナーで主催者・パネリスト・参加者でのオンライン懇親会が開かれた時だ。その中に地方
から(この言い方は変ですね。オンラインで繋がる時代に中央も地方もないのだから)周りに
教えてくれる環境が無いためBIMの現状を知りたくて、個人で参加しているという人と話が出
来た。新しい学会に個人で参加するその意欲が、私にはとても新鮮だった。それによって「一
人一人の“武器”としてのBIMネットワーク」という着想を得た。
そもそも日本でBIMに関わる仕事をしようとしたら、基本的には独学しかない。それに努力し
て継続的に勉強し続けなければ、あっという間に流れからおいていかれてしまうのが現実だ。
残念ながら(?)、私が話したような参加者が多くいて当然なのだ。

私がこのイベントで話したことのひとつに、「BIMの社会化に向けての3つの不在」がある。
3つとは、以下のことである。
① BIMデータの連携のための情報インフラの不在 
② BIMについての全国レベルでの社会人に対する専門教育の不在 
③ BIMデータ活用の場における発注者・市民の不在
何故このような大事なことが不在になるのだろうか社会環境が行き届かない発展途上国でも
ないのにと思うが、これが不思議な国ニッポンの現実なのだ。

 BEYOND BIMでパネリストとして使用したシート

 BEYOND BIMでパネリストとして使用したシート


この参加者との会話は、私の懸念する「3つの不在」克服への一筋の灯りに思えた。
現在BIMに関する情報の発信元は、多くはスーパーゼネコン・ハウスメーカー・国交省・ソフ
ト開発会社である当然であるが大手企業またはその従業員を前提とした情報発信である。
特にこの2、3年は、スーパーゼネコンをはじめとして大金をBIM関連に投入しているその結
果マスコミ上は、BIMを取り囲む状況の変化がより激しくなっている。日々発信される情報を
理解し、この変化のスピードについていこうとすると、その為のインフラ(上記①②)が無い
ため、組織・個人共に大変な努力(汗と時間と金)が必要になっている。私は現在、経営と
BIMについて、いくつかの企業のコンサルティングをしているので、それがよく分かる。そし
てその高速列車に乗れるものと乗れないものとの差が、個人間・組織間で一気に拡がっている
のを感じている。乗り切れなければ、ターゲットとする領域を狭めざるを得なくなる。その結
果事業戦略への影響が発生する。それ故BIMリテラシーの向上は組織の事業戦略決定にとって
も重要なのである。
これを個人の側から見れば、BIM環境の変化への対応も、個人ネットワーキングのスキルも共
に、自らの人生を切り開く「武器」として役立つことを意味する。特に多数のアプリケーショ
ンや外部システムやデータベースをBIMとつなぐスキルが、「武器」としての性能を高めるこ
とになる大企業が方的に情報を吸い込んで行く世界を私は良いとは思わない武器を持
た個人が組織と対等に、やりたい仕事の領域を広げるには、今はこの分野が旬である。

2.つなぐシステムの宝庫〜次のステージに向かうBIM-EC コンソーシアム
この10月1日に第4期目の総会を開き、BIM-EC PLATFORM構築への準備会発足を決議
した(ArchiFuture Webコラム <2021年8月3日掲載>参照)。

準備会で行う主なことは以下の通り。
①  ビジョン・事業計画の明確化
②  組織形態の検討(会計機能の保持及びコンソーシアム方式から法人化へ)
③  会員拡大(従来は一業種一社。これから募集を始める)
④  BIM-ECシステムのOS開発計画策定

これまでのBIM-ECの実証実験を踏まえ、さらなる実用化への試みが今年度の国交省BIMモデル
事業に採択され、④の開発に進むための第一歩を踏み出すところまで来た。その為には組織の
安定性・信頼性及び資金も必要になってくる。つまり、そのステージに見合う組織に脱皮する
段階になったということである。
まだまだやることは沢山有る。「BIMの社会化」の基本的な部分(組織の枠を超えたデータ連
携と支払決済を扱う)をBIM-ECが担うという意味では、インフラの構築でもあり、情報格差縮
小のための方策でもあるこれまでの経過をみていて重要なことはいかに多くのデータやアプ
リケーションを連携させPLATFORM化していくかである。

3.まとめ:自らをキーストーンに育てること
今まで若い人に自分の体験をふまえて「人生は企画だ」と言てきた今回付け加えたいのは
「“武器”としてのBIMネットワーク」を持ち自らをそのキストンに育てる戦略を持とうと
いうことだ。そして、日本社会全体にも言える「3つの不在」を是非克服してもらいたい。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長