ボタンがない「我慢」を越える
2021.11.05
パラメトリック・ボイス SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎
ボタンがあると押したくなる人って意外と多いと思います。
エレベーターのボタンを全て押してしまう子供を見かけたことや、自分がそうだったという方
も少なからずいるのではないでしょうか。
八王子にある島田電機製作所というエレベーターのボタンなどを製造するメーカーでは、工場
見学者向けに「1000のボタン」という展示があり話題になっています。
壁一面に1000個(厳密には1048個)の様々なエレベーターボタンが並んでいて、全て押す事
ができるそうです。
この展示の人気もあって完全予約制のなか残念ながら来年6月まで予約が埋まっているとのこ
と。手で押す感覚が人間の潜在的な欲望に繋がっているのかと思ってしまいます。
このように人間の身体感覚というものは様々な感情に繋がっており、デバイスによる触覚の
フィードバックなどは、あと一歩のところで感情にうったえられていないのではないかと思い
ます。
ここのところFacebook関連で話題が多い「メタバース(インターネット上に構築される3D仮
想空間)」では、その世界にアバター(ゲームのプレイヤー)として入り込み様々な体験をす
ることになるのですが、物理的な自分とアバターをつなぐのはコントローラーデバイスで、こ
ちらが行うのはコントローラーそのものを動かす、ボタンを押す、ジョイスティックを倒すと
いう行為で、フィードバックとしては画面からの映像とコントローラーの振動というのが一般
的だと思います。
この物理的なボタンや物理的なフィードバックはまだ多くの人が触覚に返ってくる感覚を欲し
ているという事に繋がっている気がします。
HoloLensの様にハンドジェスチャーでの操作は視覚にしか返ってこないため物足りなく、数回
やっても操作が苦手な人がいる原因ではないでしょうか。
ゲームのように非日常性のあるコンテンツであれば、コンテンツそのもののゲーム性と世界感
に没入しているので体験として多少のズレがあっても気にならないのかもしれませんが、例え
ば建物をVRで確認したり、MRでモデルを重ね合わせたりする場合は日常の延長で体験するた
め、感覚的なズレがすごく気になるのだと思います。
とは言え人間はいい加減で適応力が高いため、スマホやタブレットくらい毎日使っていると違
和感がなくなるものです。
小さいころから3Dゲームや場合によってはVRにも慣れている世代になれば、身体感覚に近く
なり、当たり前のように検討に使う時代がくると思いますが、問題は今慣れていない人たちが
どのように慣れるまで「我慢」して使ってくれるかです。
私もまったくゲームをしないのですが、必要に迫られて日常的に3Dで検討していると「慣れて
いない」ことに気付くときがあります。特に頭の中で3Dを構築できる方はその感覚とのズレが
気になるのではないでしょうか。
デジタルツインやコモングラウンドの様な仮想空間が物理空間と結びつき物理空間を補う、も
しくは拡張される情報を得る事の必要性に迫られる世界が「我慢」をする理由になるのだと思
います。そんな時代がすぐそこまで来ていることを期待しつつ、その一翼を担えるようコツコ
ツとやる毎日です。