BIMにおける分類体系の使い方を考える
2021.11.11
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
BIMオブジェクトに様々な情報を入力することで、基本計画から維持管理・運営に至る建築生
産プロセスにおけるBIMデータ活用の幅が広がる。しかし、BIMオブジェクトのカテゴリが不
足していたり、建築要素や部品・資機材の名称が共通化されていなかったりするなど、データ
の相互運用に対する課題があることも事実である。この課題を解決する鍵が
分類体系(classification system)である。ただし、分類体系は、その番号を付与するだけで
何かを自動化できるような魔法の呪文ではない。そもそも、MasterFormat®やUniclass2015
は、建築仕様書の作成を効率化するために整備されてきた。欧米のようにプロジェクトに合わ
せた仕様書を作成する商習慣のない日本で、分類体系がどのようなことに役立つのかを考えて
みたい。
1)情報の検索
建設業界には、部品や資機材のカタログ、建設物価や建築コストの情報、公共工事設計労務単
価、修繕・更新単価係、環境負荷原単位など、建設に関する多様な情報が様々な機関や組織か
ら有償無償を問わず提供されている。しかし、それらの情報の分類や名称が不揃いなため、情
報がWebで公開されていても検索に手間がかかる。様々な情報に同じ分類体系の番号をタグの
ように付与していけば、部品や資機材の横断的な検索や、それを比較するサービスの提供が可
能になる。また、『公共建築工事標準仕様書』や『公共建築改修工事標準仕様書』などもXML
化するなどして、そこに記載されている工法の部品や資機材にそれらの分類番号をタグ付けす
れば、仕様書とBIMデータを連携したり、そのBIMデータを通じて見積り徴取をしたりするこ
とができるかもしれない。
2)言葉のトランスレート
オブジェクトや部品・資機材などの名称を業界で共通化することは難しい。企業や組織の内部
で長年にわたり利用されてきた「言葉」は文化であり、その「言葉」が図面や見積りの表記や
業務システムに組み込まれている。しかし、「言葉」が意味する実物は企業や組織を超えて同
じである。企業や組織間の「言葉」をトランスレートできれば、BIMデータの相互利用がやり
やすくなる。各々の企業や組織が自身の「言葉」にMasterFormat®やUniclass2015のPrテー
ブルの番号をマッピングしたデータを共有すれば、分類番号を介して「言葉」をトランスレー
トできるかもしれない。そのためには、自身のマッピングデータを自由にアップロードして、
トランスレートの結果を自由に取り出すことのできるプラットフォームの構築が重要である。
3)BIMオブジェクトに含む部品や資機材の明示
図は、外装窓と屋上防水をUniclass2015の分類体系を用いて定義してみた例である。窓は国
土交通省の標準詳細図に記載されている「引き違い窓2枚建」、屋上防水は国土交通省の建築
工事標準仕様書に記載されている「屋根保護防水密着断熱工法」を想定した。窓の形状や防水
工法の細分類は、Uniclass2015で分類されていないので、BIMオブジェクトの名称などで表現
してみた。そのBIMオブジェクトが建物のどの部分に該当するのかをElements/functions(EF)
の分類で定義した。窓は「建具」、屋上防水は「屋根」に該当する。Systems(Ss)のテーブ
ルはオブジェクトの分類で、窓は「外部窓システム」、屋上防水は「アスファルト防水外断熱
システム」とした。そのオブジェクトを構成する部品や資機材は、太線枠の中にPrテーブルの
番号を列記している(意訳は筆者によるもので間違いはご容赦いただきたい)。資材ごとに、
材質、厚さ、枚数などの仕様を追記すれば、窓の形状や防水工法の細分類に対応する。重要な
ことは、そのBIMオブジェクトが含むと考えるべき部品や資機材を明示することである。それ
らの多くは工種をまたがるが、窓や屋上防水として統合的に仕様を設計すべきだし、そのBIM
オブジェクトから数量を算定できる。このように分類番号を付与した部品や資機材の情報の
セットを共有できるとよい。
上記に述べたような、ある有用な情報と別の有用な情報を結合して利用することは、データの
利用者が自ら実施することで様々に発展する。タグ付け、マッピング、セット化などを、誰で
も自由に作成・付加できるようにしておくことで、多様なユースケースが積み重なっていく。
そのためには、有償無償にかかわらず、公開されている情報のオープンデータ化が必要である。
情報の提供者は、データの再配布や改編を禁じるのではなく、クリエイティブ・コモンズ・ラ
イセンスで著作権を維持したまま誰でも許可されたルールの範囲内で自由に複製・加工や頒布
などができるような工夫をしておかないと、建設業界のDXを妨げる。情報は誰かが消費して価
値や量が減少するものではない。情報の利用者がその利用価値を自由に発展させることが、情
報の提供者のビジネスを発展させることに返ってくるのではないだろうか。