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コラム

BIMによる設備概算の実現に向けて目指すべき道

2021.12.09

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正
 
設備でBIMを利用しようと考えた時に、真っ先に期待されるものに、概算や積算への活用を挙
げる方が多かったように記憶しています。
筆者も8年前に最初にBIMプロジェクトに関わった時一番のBIM活用の目的がこの「BIMによ
る積算」でした。
 
このプロジェクトは、大規模で複雑な建物だったこともあり3Dによるおさまり調整が最重要
課題で、設計の最終版までおさまり調整を行わざるを得ず、しかも設備図だけではなく積算書
も納品する必要があてんこ盛りの物件でしたそのためおさまり調整が済み設備図の完
成を待ってから、積算に着手するのでは到底間に合わず、設備図の作成中に積算の仕込みを同
時に進め、積算期間を大幅に短縮する必要に迫られていました。このような事情から「BIMに
よる積算」を実現せざるを得なかったので、やむなくこの無謀な一番難しいことに、しかも、
最初のBIMプロジェクトでぶっつけ本番で、踏み切ることになったのです。
 
積算に耐えうるBIMモデルの作成は、単なる干渉チェック用の3Dモデルや設備図を作成する
ためのBIMモデルよりも、正しく入力すべき情報量が余りにも多く、その管理が尋常じゃなく
大変で、積算担当に積算のいろは(・・・)を伝授してもらい、それをBIMモデルへの入力ルールに落と
し込み、さらに、根拠となる拾い図の作成や拾い書への書き出し、集計表や内訳書への反映と
いう一連のプロセスをデジタル処理できるような仕組みも構築する必要がありました。
設備図を読み解いて積算書類にするまでの、今まで人を介して実現していたこれらのプロセス
を、できるだけデジタル化して短時間で自動数量算出できるようなプログラム開発も同時進行
で行うという、この無謀な取り組みを、茨の道ではありましたが、様々な方々の協力も得て、
どうにかやりきることができたのでした。
 
しかし、こういう特殊事情がない限り、気軽に「BIMによる積算」には手を出してはいけない
と、その時に思い知りました。
 
それから8年の月日が流れBIMの標準化もだいぶ進んできたので、このような苦労はしなく
ても良くなってきてはいるのですが、現状の積算基準が紙で出力された2次元の設備図を前提
にしていることもあるので、もう少しBIMに寄せた運用が可能になるまでは、やはり「BIMに
よる積算」は、まだまだハードルが高い活用目的であることに変わりはないと思っています。
 
やはり、取り組むなら「BIMによる概算」に留めておくべきでしょう。
 
さて、設備の概算を考えた時に、設備工事費の中で何が多くの金額を占めているのかを意識し
ておくことがとても重要です。設備で数量を拾おうとすると、ダクトや配管、配線といった部
材系の方に行きがちですが、全体工事費に占める割合は、これら部材系のものよりも、機器が
占める割合の方が大きく、概算精度を上げるなら、まずは機器の概算に取り組むべきです。
 
また、ある積算ソフト会社の方は、内訳書を作成する上でも、ダクトや配管、配線といった部
材系の項目は、どのプロジェクトでもほぼ同じような構成であるのに対して、機器は物件ごと
に異なり1台ずつ内訳書に記載する必要があるため、意外とこの機器情報を連携することが、
効率化に繋がるのだという、目から鱗の意見を仰っていました。
 
そういう意味でも、まずは機器の概算連携を目指すべきだと思っています。その上で、次に、
大口径配管など単価の高いものを抑える。そのようなステップでBIMと概算連携を実現してい
くべきだと考えています。
 
概算レベルであれば(保温等は歩掛で事足りるはずなので)、下図のように、BIMで機器やダク
配管をモデリングすれば、連動して集計表で数量拾いができる仕組みは構築できてきてい
ます。


とは言え設備で概算をするには 描かない(モデリングしない)ことには拾いようがないため、
設計途中だと無理して暫定的な概算用の下図を作成して拾うか、できなければ実例を基にした
床面積あたりの単価でざっくり計上するか、両極端のやりようしかない状況です。
そのため床置の機器やインフラルトのモデリングしかできていないS2基本設計ではS1基
本計画とそれほど精度が変わらない床面積あたりの単価で計上せざるを得ず、S3実施設計1の
全ての機器とメインルートをモデリングする段階で、ようやく概算精度を高めることが可能に
なります。ただし、この段階でも末端までの部材全てをフルBIMモデル化している訳ではない
ので、BIMから全てを拾える訳ではないことに注意しておく必要があります。
 
一応、積算や概算を主目的に、S4実施設計2で末端まで全てをフルBIMモデル化する選択肢も
なくはないのですが冒頭に触れたように余りにも大変過ぎる割に、その見返りになる効果が
少ないため、慎重に考えておく必要があります。

特に、小口径配管やフレキシブルダクト、配線の数量など、全体工事費の中でそれほどコスト
インパクトがないものに、正しくモデリングする労力をかけるのは、合理的であるとは思えま
せん。
それよりも、これらのコストインパクトの少ない部材類は、今までの実績から内訳書を分析し
て、建物用途別の概算データベースを整備しておいた上で、各設計ステージでBIMデータから
算出できない数量を補完可能な仕組みを構築した方が現実的であると思っています。
BIMで概算数量を算出するのは、設備工事費の中でコストインパクトの高い、床置の機器や大
口径配管、角ダクトなどに的を絞ること。そのメリハリが、無理のないBIMでの概算を実現す
る上で、重要な視点です。
 
そしてもし、この用途別ステージ別概算データベースを、各社でカスタマイズされた独自単価
コードや、物件ごとに集計単位の異なる科目構成に基づくものではなく、各社の垣根を越えた
共通の分類体系(分類コード)を元に整備できれば、飛躍的に合理化がはかれるのではないかと
期待しています。
単なる海外コードのローカライズに留まることなく、概算データベース整備もセットで実現し
ていくことが分類コードをBIMに仕込んでいく意義なのではないかと思っているところです。
 
BIMによる設備概算の実現は、魔法の飛び道具にすがって過剰な期待を抱くのではなく、実務
に即した現実的なアプロチで実現していく必要があるのではないかと思っている今日この頃
です。

 BIMによる設備の概算

 BIMによる設備の概算

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長