Good evening, this is AIS Channel!
2021.12.14
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
今年も年末に差し掛かりみなさんお忙しくされていると思いますが、木曜日の夜はいつも何を
してお過ごしでしょうか?ArchiFuture Webのコラムを読まれているのなら、建築情報学会の
活動についてもご存じの方が多いと思いますが、昨年の建築情報学会の発足前から隔週で
木曜日の22時から建築情報学会のYouTubeチャンネルにて配信しているのが『建築情報学会
チャンネル』です。初回のホスト役は会長の池田靖史先生、そしてゲスト役は副会長の豊田啓
介さんからスタートし、次の回ではゲストがホストになって次のゲストを招くというバトン形
式でここまで36人の方々に出演頂きました。
ArchiFuture Webのコラムニストの方々も多く登場して頂いておりますが、第24回以降は外国
人のゲストにも出演頂いており、アメリカやヨーロッパで活躍する若手建築家が、建築や情報
について何を考えながら活動しているのかについて話してくれると同時に、Bartlettや
SCI-Arcといった海外の大学で現在どのような教育が行われているのかについて紹介してくれ
ています。
やり取りが英語なので少し躊躇されるかもしれませんが、彼らが見せてくれる作品の画像や映
像には毎回驚かされます。私も2010年まで海外の大学院にいたので、彼らの活動や作品がど
ういった文脈の上で展開されているのかが何となくわかりますが、それが10年前とは大きく変
化していることを感じています。今回は彼らの『建築情報学会チャンネル』を通して見えてき
た、一歩先の建築情報について考えてみます。
まず初めに、彼ら若手建築家が建築のバックグラウンドを持ちながら、建築以外の様々なフィー
ルドで活躍していることに注目しています。その筆頭がJose Sanchezさんでしょう。
Sanchezさんはいち早く建築教育にゲームを取り入れた1人で、実際にBlock’hoodや
Common‘hoodといったゲームを開発してきたゲームデザイナーでもあります。彼はジェネラ
ティブデザインを通して蓄積してきたアルゴリズムをゲームの中に埋め込むことで、プレー
ヤーが建築をデザインしたり設計することに繋がっていると述べています。ゲームの中で動き
回るエージェントや、セルラーオートマタのような振る舞いをする建物のパーツなど、10年程
前には建築の形態創生として用いられていたものが応用されているといいます。また彼は
Plethora Projectというサイトを立ち上げ、早い段階から様々なソフトウェアのビデオチュー
トリアルを公開してきた人でもあります。正直Unityのチュートリアルが公開された時には、
なんでゲームエンジンなんて使ってるんだろうと不思議に思いましたが、その後の建築教育に
おけるゲームエンジンの広がりを見ると、Sanchezさんのアカデミックでの活動やゲーム開発
が大きな影響を与えたように思います。
ゲームを取り入れた建築教育を展開している若手建築家としてもう1組挙げるとすれば
PAREIDでしょう。スペイン出身のDeborah Lopezさんとアメリカ出身のHadin Charbelさん
によるユニットで、以前は2人とも東京大学の小渕研に在籍していたこともあります。彼らの
回のホスト役だったYou+Peaと同じく、Bartlettのスタジオで教えています。地球レベルで起
こる環境変化に着目し、cli-fi(Climate Fiction=気象フィクション)をテーマに研究を行う2人は、
「フィクション」が今後起こりうる大きな変化に対処できる唯一の方法であると話します。そ
のフィクションをインタラクティブな環境で再現するために、ゲームエンジンを使って様々な
情報を扱いながら建築を作る試みをしています。インタビューの中でも、これまでの建築の概
念からかけ離れた課題について議論していますが、作品が語り掛けてくる物語やストーリーテ
リングは、見る人に新たな視点を与えるインパクトがあります。映画でもなく、ゲームでもな
く、建築とも言い難い(いつかはこれが建築なのだとはっきり言いたい)、まだ名前もないよう
な作品を建築の学生たちが作っていることを考えるとドキドキします。
第36回には仮想空間と現実空間が繋がったハイブリッドなフィールドで作品を作っている
Leah Wulfmanさんが登場してくれました。彼女は仮想現実と物理現実がどんどんミックスさ
れていると話し、その結果デザインや体験の領域が拡張していると主張します。彼女の修士設
計ではVRを使って洞窟の中を泳ぎ進んでいくことでAIが話しかけてくれる作品を作っていま
すが、ユーザーはバスタブを改造した装置の中でHMDを装着し、手で水を掻くジェスチャーを
しながらVR内を移動します。まさに現実と仮想が補完し合う作品と言えるでしょう。その他に
もARやアバターと映像合成の技術を組み合わせ、現実空間の中に作られたパビリオンをインタ
ラクティブな作品にするスタジオプロジェクトも紹介してくれました。彼女は「デジタルオー
バーレイ」と説明していましたが、これもこれまでにない全く新しい表現として見ることがで
きます。学校でこんなことやってるなんて面白すぎるでしょ。
まだまだ他のゲストについても紹介したいところですが、是非実際にアーカイブ映像を見て頂
けたらと思います。これからも海外の若手建築家たちを含めた様々なゲストの思想に触れる貴
重な資料として蓄積され続けて行きます。最後に裏話を1つ。海外に飛び出してからは建築情
報学会の存在も知られていない訳ですが、ゲストのみなさんはこのリレー形式をえらく気に
入ってくれて、ゲストとして登場することや、ホストとして次に相応しいゲストを探してきて
くれます。こうやってどんどんとバトンが渡されながら、2週間に1度まだ見たこともない世界
を味わえるのは『建築情報学会チャンネル』だけ!次はあなたにバトンが渡る番かもしれませ
ん!