Magazine(マガジン)

ユーザー事例紹介

トップが自ら先導し推進する、デジタルツールの
有効活用による建設業の工業化<ヤマト>

2022.01.26

北関東最大手のサブコンであり、建築設備工事会社として70年以上の長い歴史をもつヤマト。
同社は、いち早くNYKシステムズの建築設備専用3次元CAD「Rebro(レブロ)」を採用する
など、デジタル化を積極的に推進しており、サブコンにおけるコンピュテーション活用のトッ
プランナーとして広く知られた存在だ。
同社がデジタルツールの有効活用を推進する目的や、配管加工の実務における具体的な取り組
みとその成果、そして、建設業の工業化へ向けた熱い想いまで、同社の代表取締役会長の新井
孝雄氏と企画推進部 副主幹の莅戸和之氏にお話を伺った。

建築生産プロセスにツールとしてCADを活用
サブコンの中でも、トップレベルのデジタル化の取り組みで知られるヤマト。同社が1,000人
近くの従業員を抱える組織でありながら、先進的なデジタル化を実践できるのは、トップであ
る同社代表取締役会長の新井孝雄氏が自ら先頭に立って、意欲的にデジタルツールの導入を推
進していることが大きい。
新井氏は、「建設業をもと合理化して、業から産業への転換を目指しています。具体的には
建築物を製品という概念で捉えて製造業のようにものづくりプロセスにデジタルツルを
使い“工業化”をすべきだと考えています。私がなぜ建設業の工業化を考えるかというと、労働
集約産業からの脱皮のためです製造業ではプレス加工に金型という治具が使われていますが
型の製作に40年ほど前からコンピューターによるNC付き加工機で、手作業を7割方機械に置き
換えています。建設現場は過酷な自然環境の下におかれる労働環境です。現場で働く人達の作
業環境を整えるのは多難ですが、作業を機械に置き換えることは可能ですので結果的に改善に
つながります。このことをミッションに取り組んでいます。

   株式会社ヤマト             株式会社ヤマト
   代表取締役会長 新井 孝雄 氏         企画推進部 副主幹 莅戸 和之 氏

   株式会社ヤマト             株式会社ヤマト
   代表取締役会長 新井 孝雄 氏         企画推進部 副主幹 莅戸 和之 氏


このような想いの中、ヤマトの業務プロセスにデジタルツールを取り入れた始まりは、お客様
に納入させていただいた施設の維持管理を遠隔からサポートするサービスからスタートしまし
CADの導入は1991年に初めて手書きから機械で線を描くお絵描きツルとして導入した
のが始まりですその後、CADの活用を続けていき、2008年に3次元の表現で仮想空間を表現
でき、プロパティ情報を持ったCADということでレブロを導入しました。この時に、いわゆる
BIMの概念に近づいた感があります」と新井氏は語る2次元CADの導入も3次元CADの導入
もサブコンとしては格段に早い時期であった。
同社には、CADの活用の前提条件にも信念がある。「当社では、建築物を製品という概念で捉
えていますので、市場原理の経済活動が行われている社会では、消費者の価値判断は『もの+
サービス』をベンチマークとして、商品が選択されると考えております。特に成熟した社会で
は、サービスのウエイトが高まっていると感じています。具体的には、建築製品の意匠、空間、
動線、快適、利便性、オペレーション、資産評価…などから生み出される価値観は、消費者の
嗜好により、各々のウエイトは異なりますが総合的な判断の下、評価されます。この前提条件
で建築生産プロセスにCADをツールとして活用しています」と新井氏。
 

 レブロで作成した設備3Dモデル

 レブロで作成した設備3Dモデル


3次元化の推進による大幅な生産性の向上
現在の同社でのCADを中心としたツールの構成について新井氏は、「当社で現在建築生産に活
用しているCADソフトとしては、設備にレブロ、意匠、空間、動線のモデル作成に国産の建築
CAD、鉄骨製作にも国産の専用CADを使ってデータの相互連携を行っています。建築設備関連
で設計、施工、現場管理など生産プロセスに携わる多くの方々が活用されているレブロは、利
便性の高い設備CADで、図面作成における操作性、数量拾い、ユーザー部材登録などで使用者
から高い評価を受けています」と語る。

 CADデータの連携イメージ

 CADデータの連携イメージ


また、同社では新井氏が語たNC加工を配管加工で実践している「配管路構築の労働力減少
を補う手法として、当社では製作の工業化を40数年前から進めています。現在般的に採用さ
れている配管路構築手法とは異なり、当社では管路構築を『モジュール部材』の組み合わせに
より行っています。これによって、作業工数の低減と管路構成部材数を大幅に減らし、品質確
保を図っているのです。生産管理においては、レブロデータから当社で開発した中間ファイル
を介して各モジュール部材にIDを付与し、プロパティ情報を紐付けることで日々の出来高管理
の可視化や数値化を行い、デジタルツインによる管理手法に取り組んでいます。今後は、工業
化の基本となるモジュール部材などの登録機能をレブロに付加することで、図面作成の手法は
大きく変わりますが、標準部材の活用が可能となり、モジュール部材製作の工業化が飛躍的に
高められ、生産効率をより高めることを目指しています」(新井氏)。

 スパイラルダクトの加工図

 スパイラルダクトの加工図


配管加工がレブロの活用を中心とした取り組みによって合理化されたことについて、企画推進
部副主幹の莅戸和之氏は、「配管加工の生産性が大幅に向上したのは、CADソフトの3次元
化(BIMが進んだというのが番大きいと思いますレブロで属性情報を保持した3次元モデ
ルを作成できるようになったことにより、このデータを加工に利用する、施工に利用するとい
う使い分けが、レブロデータを基軸に行えるようになってきました。何百件という物件の配管
加工をほぼすべての現場で実施、加工管の再加工率は1%台で対応できています。これだけ当
社が進んで来られた理由としては、事前準備、検討、作図、図面の描き方、物事の決め方や進
め方の精査、改善を行ったことと、生産設計図という施工着手前に加工・納まり等を考慮した
図面の作成を行っていることも大きな要因になっていると思います。

 加工センター(朝倉工場)

 加工センター(朝倉工場)


また、建物および構造の3Dモデル化、意匠CGパースの作成もグループ内で行っており、早期
の意思決定、納まり、取り合い、設備支持部材の工業化も進めています」。
その具体的な効果は、「加工管を使うことによて、施工品質の向上、現場作業の大幅な軽減
現場に残材が出ない、人出も少なくて済む等、工業化することによって、現場の方でもメリッ
トが非常に多いと感じています。また、各デジタルツールで作成したBIMデータを利用するこ
とで、現場での納入・出来高管理、資材・加工管単品の管理システムの開発も進めているとこ
ろです」と莅戸氏は語る。
 
デジタルデータによる情報の一元化で建設業の工業化を実現へ
そして、いま、新井氏はこう強調する。「BIMを本格的にやりたい。BIMを実践するというこ
とは当社として設計からものづくり、FMまでの情報を元化したいということです、当社
は設計・施工案件に積極的に取り組んでいますが、理由はBIMによる情報の一元化を図り、工
業化しようとしているからです。
現状、『建築のマーケット』の“ものづくり”は設計と生産を分けた分業生産体制が前提条件に
なっています。そのことを発注者も供給者も当たり前の商習慣と考えていますが、建築製品に
デジタルツールを活用し、デジタル情報の一元化を図る上では大きな障壁になっています。業
務のフロントローディングは生産設計段階で意匠、空間、動線、機械・電気の納まりと位置情
報を確定させることが前提条件になります。このことを実現するための枠組みの方法はいくつ
か在りますが、垂直分業に変えていくべきだと思っています。生産プロセスにおける情報の一
元化は製品のPLM、トレサビリティー、品質保証を進める上で不可欠になります。

 イメージパース(天井レス)

 イメージパース(天井レス)


今後、CADをツルとした展開モデルの“ToBe”は、デタベースの蓄積と活用です一品製品
の建築生産においても大量のデータが集まれば、企画・計画・生産・オペレーションにおける
生産性は飛躍的に高められると確信しています。また、環境負荷軽減のプロセス評価を可能に
する取り組みを考えています。これらのことを進める上で最大の課題は、垂直分業における業
務プロセスのコントロールと情報の一元管理を行うマネジャーの育成になります。育成には時
間がかかりますが、ポイントは育成するリーダーが目標を明確にし、手法のフレームを伝えて
任せるトレーニングです。失敗は糧になるので、責任は育成リーダーが負うという組織文化を
定着させることです」。
新井氏は、「国土交通省が以前に発表した資料で2015年に340万人だた日本の技能労働者
2025年に110万人減るという話が出ています2025年もうすぐですよねこの問題
に対応するためにも建設業はデジタルデタを有効活用することによ合理化工業化を
進め生産性を上げることが大変重要だと思います」と締めくくった。BIMやデジタルデータの
有効活用による建設業の工業化は、数年先には“Must”だという印象を強く受けたインタビュー
であった。

「Rebro(レブロ)」のさらに詳しい情報は、こちらのWebサイトで。