ARX移転顛末とレイト・ワーク
2022.02.15
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
第14回“Archi Future 2021”が開催された昨年の秋、以前より模索していた事務所の移転を本
格的に始めた。集中型から「拠点分散+ネットワーク型の“チームARX”」を目指してのことだ。
この背景にはインターネット環境の整備とコロナ禍、働き方改革推進とが相俟っての判断と
なった。併せ、メンバーの高齢化も一因であったが、懸案事項でもあり3年前から準備を始め
ていた。このコロナで2~3年実行が遅くなったが、いざ始めて見ると想定以上の大作業となっ
た。移転した後の片付や整理は未だに続き疲労感はやっと抜けたが、半導体不足による新機種
複合機導入の遅れやノートパソコンとインターネットの不具合などの影響もあり、落ち着くの
にあと2~3か月くらいは掛かりそうだ。
33年前の移転とは異なりデジタル環境での対応が複雑化し、デジタル系を含む移転関連内容の
理解に時間も要した。インターネット環境の地域格差や解約と新規手続の煩雑さにも気付かさ
れた。電話回線などは、電話会社の親と子と孫会社や多くの業者が闊歩したことの名残があり、
親のMDFに子と孫、他の機器類が重なっていたことでの処理の困難さやプロバイダーと光回
線・電話業者の関係と契約の複雑さも手続きに時間が掛かる一因があった。新契約にはケーブ
ルテレビ事業者が加わった。
不要の本や図面・スケッチ類・材料・資料・機器類・ルーター・PC・USB・HDとデータなど
の処理、これに伴う産業廃棄物や本の搬出、運搬、移転、解体、原状回復などの対応は、4~5
社に分けて協力をお願いしたが、仕分などに想定以上の難題とコスト、労力と時間が掛かった。
建築士法による書類の15年保存義務や個人情報保護法による処理など、書類整理も大きな負担
となっている。デジタル情報と紙情報の混在も仕分作業が煩わしかった一因。それにも増して
膨大な量のカタログやタイル、石・他などの見本材料・品であり、これらの処理専門業者の方々
には大変助けられた。移転先は築50年になる建築であり、情報化対応設備に限界があった。電
気やガス、電話回線の事業自由化により何社かがグループで繋がっていることにも気付かされ、
これらを経験したことで中小企業の移転と移住や業務承継には、スタッフや友人に加えて公的
支援策が必要との思いも重なり調べてみたが国や多くの市町村には、地域活性化を目指した地
方移住などの補助金、承継支援策や制度があった。
今後、更なるデジタル化やリモートワーク、在宅ワーク、サテライトオフィス、地方移住など
が進むと建築設計事務所の業務スタイルが大きく変わると考えている。ARXは、4~5年前から
構造・設備設計とパースなどは、九州や北陸、青森などの遠隔地の事務所と協同しているが、
中小事務所の地域への移転時の労力がより多大になることも肝に銘じておく必要がある。
創設1年後の33年前に一度だけ移転したが、その時に比べて今回の作業量は膨大であった。
当時はデジタル化の初期であり遠隔地との情報交換は電話とFAXが主であった。個人情報保
護法もなく産業廃棄処理法も今ほど厳しく整備された内容ではなかった。
33年間を振り返ってみると、バブル・崩壊、オフコン、PC、MPU、COREプロセッサー、
ハードディスク、MO、データベース、IP電話、光回線、光電話、E-mail、スマートxxx、
ドメイン、パスワード、パスコード、プロバイダー、Wi-Fi、テザリング、ルーター、IT、
アルファベット・アマゾン・アップル、LAN、SE、スマホ、クラウド、コンテンツ、3G・
4G・5G・6G、MB・GB・パケット、SNS・SMS、LINE、フィッシング、チャット、ホーム
ページ、4K・8K、PV・UU、CG・プロジェクションマッピング・メディアアート・NFT、
アート思考、STEAM、インスタグラム・ユーチューブ・ツイッター・フェイスブック・ティッ
クトック、ポケモン・マリオ、プリクラ、eスポ・ゲームなどの各種アプリ、Excel・Word・PowerPoint、各種CADソフト、PDF、AR・MR・VR、仮想空間・メタバース、Teams・
Skype・Zoom、スパチャ・オヴィス、フェイク・ファクト・闇サイト、リアル・バーチャル、
アバター、デジタルツイン、電動自転車、PHV・EV、MaaS、コネクティドカー、DMV、
電気自動車、自動運転、モビリティ、ウーバーイーツ、サブスク、ギグワーカー、プロッター、
3Dプリンター、スキャン、複合出力機、液晶CRT・有機EL、LED、タブレット、スマー
トウォッチ、デジカメ、ドローン、リニア、ICT、IoT、DX、サプライチェーン、省エネ、ソー
ラー・風力・バイオマス発電、ダイバーシティ、コーポラティブハウス・スケルトン・イン
フィル、制震・免震構造、東日本大震災、熊本震災、トンガ諸島大噴火、木造高層建築、CLT、
リノベーション、ウーブンシティ、LED、ウッドショック・半導体不足、COVID-19・デルタ株・
オミクロン株・フルロナ・変異株・PCR検査・抗原検査・抗体検査・ココア、パルスオキシ
メータ、mRNA・ファイザー・モデルナ、モルヌピラビル・パクスロビド、トリアージ、マ
イナンバー、オンライン診療、COVAX、ロックダウン、クラスター、特措法、緊急事態宣言、
三密、CO2センサー、エッセンシャルワーカー、エビデンス、ディスクロージャー、コンプ
ライアンス、各種ハラスメント、スイカ・パスモ、ICチップ、バーコード、QRコード、ア
ルゴリズム、パラメータ、ビットコイン・暗号資産、ブロックチェーン、国際宇宙ステーショ
ン、H2A、衛星:ひまわり、探査機:はやぶさ・イオンエンジン、スペースワン、ロフテッド
軌道、HondaJet、量子コンピュータ、AI、センサー・センシング、 シンギュラリティ、
M&A、スタートアップ、ジョブ型、インバウンド、ベンチャー、ウィンウィン、AtoB、
BCP、クラウドファンディング、デジタルサイネージ、顔認識・防犯カメラ、スケボー・ス
ノボー、リスペクト、コンフリクト、東京夏季オリンピック・パラリンピック・北京冬季オリ
ンピック・パラリンピック、プロボノ、Z・M世代、共通入試・国立大入試「情報」、23区初
転出超過、気候変動、カーボンニュートラル・COP・パリ協定、木質ペレット、ZEB、BEMS、
RE100、SDGs、ヒトゲノム、DNA、IPS細胞、BIM、コンピューターシミュレーション、
ナラティブ、清掃・配送ロボなど、枚挙に暇なく多くが生まれ消えていくが、ざっと挙げただ
けでも現代用語辞典が必要の感がある。
言葉は歴史だともいえるが、前回、1988年の移転時は、この全てが登場前。世界初のノート
ブック型の東芝Dynabook J-3100SSやNECのヒットとなったPC-9801が売り出された初期
の頃であり、移転も1~2日間くらいで完了したが、今回は、準備も含めて2~3ヶ月に亘る作業
であった。一方、引越前の整理や準備作業に半年位の期間が必要だったアトリエ系事務所も複
数あったと聞いた。先日、知人の北山恒氏から組織替えの案内が届きネットワークに重きを置
くとの内容であった。何はともあれ所在の都道府県を変えると建築設計事務所の廃業と再登録
や会社の移転登記変更、年金、雇用保険、銀行などの住所変更も意外と面倒な手続きとなる。
話は跳ぶ。生まれて小学生時代を過ごした南紀白浜では、NTTデータ経営研究所のワーケー
ション施設が実証実験され成果があったという。他にもいくつかあるようだが、そこで、戦時
中に東京から白浜へ移り住んだ親が残した敷地に、温泉付きでノンビリと滞在出来るワーケー
ション木造建築か、シェアハウス、サテライトオフィスはどうかと構想を練っている。最後の
移転を経験した今は、更にこの意を強くした。白浜は「ブラタモリ」でも「南紀白浜~“一大
リゾート”への道のりとは!?~」のタイトルで昨年12月に取りあげられたが、春の磯釣り、
夏の海、秋の幸、冬の温泉などサーフィンやウインドサーフィン、海水浴、スキューバーダイ
ビング、キャンプ・オートキャンプ、グランピング、花火大会、盆踊り、秋祭、夕日の景、遊
覧飛行、歴史と熊野古道、そして美味い伊勢海老やクツエビ、鮑、鯛、鰹、勝浦港の水揚げ日
本一のマグロ、珍味で美味いウツボ・亀の手、クエなどの豊富な魚介類。BBQや釣りが楽し
める“とれとれビレッジ”もある。四季の息抜きメニューや海の遊びには枚挙に暇が無い。積雪
があったのは50年間で1~2回程度。温暖で豊かな自然だけでなく、温泉と海、家族の方にとっ
ては多くのパンダやイルカ、ライオンとアドベンチャーワールドで逢うことも叶い、大自然と
温泉の町でのリモートワークが実証体験だけでなく楽しめる。近くの本州最南端の串本町に、
キャノンやIHIなどが出資し建設中の民営ロケット発射場“スペースポート紀伊”が、今年末
の初打上げに向けて準備中。余談だが、幻の日本の有人ロケット戦闘機“秋水”の燃料を構成す
る希少な物質を温泉の蒸気圧力利用で海水から抽出する特殊任務のトップとして戦時中に白浜
へ赴任したのだと父親の急死後、人伝に聞いた。当時を思い出すのか親父からは一度も何も聞
かされなかったが縁を感じる。この白浜までは東京からは飛行機で約1時間と時間距離も短い。
最後に、事務局長を務める大学の7万余の会員を有するMSB!校友会事務局は、コロナ禍で実
践した在宅・テレワークを通常化することとした。一方、弱毒性と見られるオミクロン株での
第6波が爆発的な拡がりを見せている。今年のW/コロナの生活もまだ始まったばかりであり揺
れ動いている。油断をせずに注意を払いながら落ち着くことと大江健三郎氏の示唆に感化され
たコロナ後のレイト・ワークを自分なりに冷静な状態と新環境でメタ咀嚼してみたい。