少しのことにも、先達はあらまほしきことなり
2022.03.08
パラメトリック・ボイス
スターツコーポレーション / Unique Works 関戸博高
BIMを始めた9年前から「先達」が無く、手探りで色々やって来た。生成されるBIMデータを
建築関係の外側の事業領域とつなぎ、初めは建物の維持管理をターゲットに、
「BIM-FM PLATFORM」のブランディング及び商標も登録した。近年は更にその外側の領域で
活用を広げつつある。その直近の全体像を『スターツのBIM DATA活用〜現在と将来』(図1)
としてまとめてみた。
図が示すように、現在いくつかのプロジェクトが同時進行している。それぞれの項目を全て説
明することは、紙幅上出来ないが、全体感としては、当初のデータを活用して仕事の生産性を
上げることから、最近はいかにしてデータ活用をサービス・ビジネスに結びつけていくかとい
うことに重点が移って来ている。
このサービス・ビジネスの具現化には、<①なんとかしたい現状の把握>と<②それをなんと
かするシステム>が必要である。そして①と②を繋ぐのが、<③BIMデータ群>である。初め
は個別対応のサービスから始まり、実施数が増せば①〜③をルーティン化し、一定のマーケッ
トが作れれば、プラットフォーム化の可能性が生まれる。図中の「近い将来」のプロジェクト
は試行中で、最終的にサービス・ビジネスとして実現できるものがどれになるかは分からない。
しかし、この「先達」のない試行作業を抜きにしては、新しいビジネスが実現しないことだけ
は確かだ。言い方を変えれば、古の「少しのことにも、先達はあらまほしきことなり」(徒然
草)という吉田兼好のつぶやきは、我々のつぶやきでもある(一方でもし先達がいたら、面白
みがないから着手しなかったかもしれないが~笑)。
ここで「あらまほしき先達」について、もう少し触れておきたい。
ことの発端は「BIM-ECコンソーシアム」に関連して、芝浦工大の志手一哉教授から示唆的な
報告書(一般財団法人商工会「2020年度産業と技術の比較研究 報告書」)を紹介して頂いた
ことから始まる。その中で私が注目したのは、「Cyber-Physical-Systems(CPS)のアーキテ
クチュアー」についての研究報告である。ここに書かれていることが、BIM-ECプラット
フォームに即して言えば、そのオペレーティング・システム(図2)の構成を考える際のテン
プレート(先達)として使えることに気付いたからである。
聞きなれない「CPSのアーキテクチュアー」とは何か。この報告書から以下に引用する。
「生産現場や建設現場等の現場では、複数のメーカーが提供する多種多様な製品が混在してお
り、接続方式や通信プロトコル、そしてデータフォーマット等が多数存在している。そのよう
な現場を全体最適化しようとすれば、メーカー単体で閉じているCPSのループでは不十分なの
である。現場に存在するあらゆる機械や設備からデータを収集して、全体最適の観点から分析
して現場にフィードバックするCPSのループを作らなければならない。 それがまさにオープン
なCPSのアーキテクチャーなのである。
(図3)はCPSアーキテクチャーの概念図を示しているが、それによれば、CPSアーキテク
チャーは3つの階層から構成されるモジュラーなアーキテクチャーとして表現できる。まず、
実領域(Physical domain)とサイバー領域(Cyber domain)の丁度中間に位置して、2つの世界
を媒介する IoTプラットフォーム階層が中央に存在する。実領域とサイバー領域間でやりとり
される多種多様なデータを共通したデータフォーマットに変換してデータベースとしてこの階
層に蓄積する。 」(p.29)
として、以下の概念図(図3)が提示されている。ここでの「IOTプラットフォーム階層」とい
う表現は、BIM-ECプラットフォームにとっては、「BIMデータの蓄積とその変換の階層」と
置き換えて理解すれば良いと思う。
ここでCSPアーキテクチャーを「先達」として紹介したのは、BIM-ECコンソーシアムのオペ
レーション・システムの構築の際に、「先達」のように理解とコミュニケーションに役立つと
思ったからだ。このようなモデルと言えるものがあること自体を知ることが出来たことは、専
門分野が異なる者にとっては、検討課題が整理できて大変助かると思った次第である。現時点
では勉強不足でよく分かっていないが、この分野は更に「ビジネスアーキテクチャー」と言っ
たものにつながっているようである。よくよく見れば「先達」は、まだまだ沢山ありそうであ
るが、今回はここまでとしたい。