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コラム

Computationalな思考と意味

2022.03.15

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

4月中旬にBNN社から「Computational BIM with Dynamo +Revit」という本の出版が決ま
りました。本の企画が一昨年の11月から始まり、発売まで約1年半少しずつ執筆をしてようや
く発売されるにあたり、なぜこの本を書いたのかというモチベンであるComputational
な思考と意味について考えをまとめたいと思います。

「Parametric Design with Grasshopper」という本は、2017年1月末に初版が発売され、
それから約5年後に2冊目であるComputational BIM with Dynamo +Revitが完成しました。
Parametric Design with Grasshopperが建築デザインなど新しいデザインの可能性の本なの
に対して、Computational BIM with Dynamo +Revitは、建設ワークフローといったより建
築や建設にまつわる情報をどうコンピュテーショナルに処理するか、今まで抽象化できていな
かった概念をどう抽象度を上げて整理するかというところに着眼しています。

Dynamoの解説書を書くということは、単にソフトウェアの解説をしてソフトウェアを使える
人を増やしたいというモチベーションではありません。使い手や概念を知る人たちが増えるこ
とによって、より多くの人たちで建設の知識やノウハウをより高度に抽象化して、新しい働き
方や価値を日本の業界全体で作りたいというモチベーションから書いています。コンピュテー
ショナルな思考は、ある概念を抽象化し、クラスや属性など、概念がどこに所属するかを整理
し、整理することでより本質的な問いを考えることができるようになるところに意味があると
考えています。それは、古代から業界に携わる人たちが長年考えている課題であり、新しいこ
とではありません。

技術の発展と継承という大きな枠の中に、このコンピュテーショナルな思考への移行があり、
知識を蓄積してきた古い歴史の中に流れがあります。コンピュテーショナルな思考は、コン
ピュータを使った何かということではなく、コンピュータがわかるもの、つまりより抽象度の
高い思考で、私たちが思考するためのものだと感じています。あくまでも思考の主体は私たち
であり、コンピュータが分かる形に変換する抽象化のプロセスこそが、創造性にあふれ、そし
て次の世代に残せる思考の結果なのだと思います。例えば、数学の方程式のようなものです。
数学者は方程式を使ってより複雑な問いに挑戦していきます。その際に、方程式が合っている
かどうかを毎回確認するのではなく、方程式が合っている前提で次のより複雑な問いに挑戦し
ていきます。この抽象化の繰り返しが、技術発展と継承という個人から取り組みの集合体とし
ての大きな流れを生みます。

技術書を書くことで、個人の取り組みがより活性化され、母数を増やし、社会としての技術発
展と継承の流れの一部になれることを期待しています。実務でDynamoを使う人も、使わない
人もBIMに関わる人も関わらない人も色々な方にお手に取てもらいコンピュテーショ
ナルな思考とは何かを感じとってもらえることを願っています。
 

石津 優子 氏

GEL 代表取締役