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コラム

なんとなくわかった気にならない

2022.03.29

パラメトリック・ボイス         SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎
 
私がSUDAREと言う立場で仕事をし始めて2年が経とうとしております。思えば初めての緊急
事態宣言の中立ち上げて以来ずっとコロナ渦での業務しか知らない会社です。
時々対面の打合せがありますが、一緒に仕事をしてくれる方々ともオンラインでのやり取りが
ほとんどなので、実際には会ったことがない方もおり、場合によっては一度もお会いせずにプ
ロジェクトが終わることもあります。
個人的にはずっと家で作業をしていて、チャットやオンライン会議でコミュニケーション自体
は気にならないのですが、建築では現地、現物を見ながらのコミュニケーションは必須だと思
います。
ある程度経験を積んだ方ですら実際に見なければわからない事が多いので、経験値のない方は
なおさら理解が出来ず、本来積むべき経験による蓄積がないまま、なんとなくわかった気に
なってしまう事が最も問題になるのではないでしょうか。
 
この問題は建築業界でどれだけ長く働いているかという事ではなく、課題に対してどれだけの
経験があるかという意味です。
例えばBIMを導入する場合、新たなシステムの導入経験がなければ、これまでのやり方に合わ
せてBIMというツールがどう使えるのか、BIMで入力すればどこのコストが下がるのか、と考
える方が多いと思いますが、経験があれば初期入力の手間をかけて情報をつないでいく様なフ
ローや体制を考える事ができ、コストを下げる事以上に効率や価値の向上を目指すのではない
でしょうか。
 
前回のコラムではDXについて書きましたが、(本質ではない)デジタル化が進むなかで、な
んとなくわかった気になっている人が増えた気がします。
建築業界はブラックボックスと言われることがありますが、さらにデジタルというブラック
ボックスが出来つつあるという印象です。
ブラックボックス同士で理解が進まないまま表面上の会話をして、全体がなんとなく分かった
気になって進んでいませんか?
 
実際に建物が建つ建築業務においては答え合わせができる機会があります。
現場や工場でできたものを見る機会があれば、考えていたものがその通りにできているかどう
かがわかります。作ている工程を聞くことができれば、作るために重要な項目がわかります
建物が使用されてから見る機会があれば人の動きやメンテナンスのしかたがわかります。
逆にデジタル側がどのような過程で進めているかを聞く機会があれば、重要になる項目を伝え
ることができ、しっかりとそれらの情報をおさえた入力ができます。
3Dプリンターなどの中間を補う技術を使えば、やりとりの精度もあがりデジタル空間の建築
を正として製作や施工の工程を変えることも可能なはずです。
 
なんらかの問題に対して取り組みっぱなしではなく答え合わせをすることがいかに重要かは少
なからず経験があるはずです。お互いがブラックボックス化してしまう事はデジタル化のメ
リットの一つである答え合わせの機会を増やすことを無くしてしまい、なんとなくわかった気
になる人を増やしてしまうので、積極的な情報のやり取りと実際に建った建築から答えを導き
出して欲しいと思います。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長