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コラム

バークレーからの学び③:人間行動変容の促進

2022.04.14

パラメトリック・ボイス
                 明治大学 / 川島範久建築設計事務所 川島 範久

 
環境配慮・省エネルギーは、その重要性を頭では理解できても、なかなか自主的に行動に移し
づらいものである。この事実を認めた上で、技術の普及を促すことが重要であり、
前回のコラムで紹介した環境政策は、そのための方策のひとつと言えるだろう。しかし、ハー
ドな技術の普及による効果にも限度がある。そのハードな技術を使用する人間の行動が変わら
なければその本来の効果は得られない。そこで、人間行動の変容を促すソフトな技術について
の議論が重要になってくる。そのような議論がカリフォルニアでは盛んに行われていることを、
2012年11月にサクラメントで開催された「Behavior, Energy and Climate Change(気候変
動・省エネルギー行動会議,以下BECC)」というカンファレンスに参加して知った。BECCは
2007年に始またもので社会科学者、実務家、公益事業者、学者、政府、企業、非営利団体
が一堂に会し、エネルギーと炭素削減のための行動変容を促すためのベストプラクティスと研
究を共有し、普及させるために開催されてきた。その後、この研究分野の重要性が日本におい
ても認識され2014年からBECC JAPANというカンフレンスが日本でも開催されてきている

例えば、近年はLED電球の普及により、人工照明のエネルギー効率は非常に高まってきている
が、それでも使っていない場所でつけ続けてしまっていては意味がない。それに対して人感セ
ンサー等を導入し人がいなければ自動で消せるようにするという方策もあるが、全ての場所に
そのようなセンサーを導入するにはコストも時間もかかる。その前に、ほとんどのユーザーが
「使っていない場所の照明を消す」という省エネ行動を毎回自主的にしてくれれば、そもそも
センサーなども不要なのであるが、そうなるにはどうすればいいだろうか。家族や仲間同士で
声を掛け合ったり、貼り紙で注意を促したりすればよいだろうか。それとも、消し忘れたら罰
金など厳しいルールをつくるのがよいだろうか。照明を消し忘れることの積み重ねで、日々ど
れだけのお金をドブに捨てているか、または、それにより南極の氷をどれだけ溶かしてしまっ
ているかを明示すればいいだろうか。日々の省エネルギーの実績を近隣同士で競わせるゲーム
を企画し、順位を発表したり上位者を表彰するなどするのも効果があるかもしれない。やはり
小さな頃からの教育が大事なので、教育プログラムに組み込んだらどうか、などこのような
環境配慮・省エネルギーに繋がる人間行動を促進しうると考えられるアイデアと、その実践・
評価についての情報交換議論が、建築設計者設備エンジニアや工学系の研究者だけでなく
行動研究に身近な社会科学分野の専門家も交え、分野横断的に議論が展開されているのが
BECCである。

ここから建築家として何を学び、何を考えるべきだろうか。建物や設備といったハードな対策
のみに拘らず、社会科学分野の専門家とも協働してソフトな対策にも積極的に取り組んでいく
べきことは学ぶとして、それと同時に、建築・設備にできることはないかを改めて考えてみた
いと思った。最も重要な学びは、これからの環境時代における建築・都市に求められるのは、
これまで通りのライフスタイルを変えない前提でその環境・エネルギー効率を高めていくとい
うことではなく、日々の人間行動を変えていく=新しいライフスタイルを作り上げていくこと
なのではないか。日々の生活の場としての建築・都市空間は、人間に多大な影響を与える存在
であり、人間の価値観に揺さぶりをかける。つまり、建築は人間行動を変容させる力を持つは
ずだ。そのような建築の役割を再認識することになった。

 BECC ConferenceのHP
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川島 範久 氏

明治大学 理工学部建築学科 准教授 / 川島範久建築設計事務所 代表