中小企業はどこまでBIMを信じればいいのか?
2022.05.12
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
広工大のデジタルデザイン教育や『ヒロシマBIMゼミ』の活動を通して「広島をBIMの街に!」
を押し売りしている私ですが、2020年に始めた『ヒロシマBIMプロジェクト』以降、これから
中小企業がBIMとどう向き合っていくのかを常々考えています。建築BIM推進会議のモデル事
業の一つとして進めた『ヒロシマBIMプロジェクト』のフェーズ2を終え、この先中小企業が
BIMとどのように付き合っていけば良いのかを私なりに整理してみます。
簡単に『ヒロシマBIMプロジェクト』の説明をしておくと、これは『ヒロシマBIMゼミ』に集
まるBIMユーザーが、横断的で実践的なコラボレーションを通して実プロジェクトの実現を目
指して始まったプロジェクトで、2020年に進めたフェーズ1では、設計事務所・構造事務所・
建設会社が、仮想プロジェクトの計画から見積までを半年間かけてやってみました。2021年
に進めたフェーズ2では、上記に加え設備会社が加わり、意匠・構造・設備の統合や連携など
も検証してみました。詳しい内容については、それぞれの報告を『ヒロシマBIMゼミ』で行っ
ていますのでそちらをご覧ください。
ヒロシマ BIM ゼミNo.16 「ヒロシマBIMプロジェクトレポート01」(クリックすると
YouTubeへリンクします)
ヒロシマ BIM ゼミNo.23 「ヒロシマBIMプロジェクトレポート02」(クリックすると
YouTubeへリンクします)
『ヒロシマBIMプロジェクト』では、異なるプラットフォームを繋げた協働や異業種によるコ
ラボレーションを強調していますが、これは中小規模の設計事務所や建設会社がBIMを活用し
て仕事を進めていくことを想定した設定であり、ここを乗り越えないと中小企業によるBIMの
活用は不可能だと考えています。いろいろと試してみた感想として、この壁は結構高い。『ヒ
ロシマBIMプロジェクト』のメンバーは、うまくいかないことが普通と捉えていて、あの手こ
の手でその壁を超えることに快感を覚えているような集まりだからこそいろいろな検証が進め
られているのだけど、普通の設計者や施工者ならまず速攻あきらめると思う。中小企業での
BIM普及はすこしずつスピードを上げながら進んでいくと想定されますが、当分の間は各企業
内でのBIM活用に留まると思います。それはそれで良いと、今の段階で割り切ることが重要。
置いて取り組むべきだと考えています。
・各業種におけるBIMのメリットの明確化
・異なるプラットフォームや業種をつなげる更なる検証
・BIMを使った協働のノウハウの蓄積
最も重要かつ急務だと感じるのが「各業種におけるBIMのメリットの明確化」です。例えば設
計段階におけるBIMのメリットは、作図作業の合理化や図面の不整合の解消など、一般的に理
解されやすい利点が共有されつつあります。実際はもっと設計業務自体が変化するようなメ
リットを見つけていかないと行けないと感じていますが、中小規模の設計事務所がBIMに移行
するモチベーションとしては十分だと思います。問題はそれ以外の業種です。建設段階や維持
管理でのBIM活用が叫ばれますが、まだまだその領域でのBIMのメリットははっきりしていま
せん。生産側のメーカーもスーゼネにBIM対応しなさいって言われてやってる感が強く、まだ
自分たちに還元される利点を見出していないケースがほとんどではないでしょうか。まずは
やってみようという心意気でBIMを始めるのは重要だけど、そろそろそれぞれのBIMのメリッ
トを本気で見つけに行かないといけない時期ではないかと思うのです。
私はどの業種であってもBIMを信じて移行するだけの価値は見つかると思っていて、新たなメ
リット探しを始めています。『ヒロシマBIMプロジェクト』のメンバーであった杉田三郎建築
設計事務所、下岸建設、横山工業所の3社は施工段階におけるBIMの新たなメリットを明らか
にすべく実物件での検証を始めました。実際に始めてみると、意匠図と施工図を描く上での
BIMの活かし方の違いなど、設計と施工では根本的な捉え方が違う部分が多く、設計のほうで
考えていた利点が、そのまま施工では通用しないことが分かってきました。これまでの仕事で
は、建築を実現させるためにお互いの焦点を合わせることを意識していましたが、施工者の視
線に近いところまで行かないと施工でのメリットは見えてこないなと感じます。同様の試みを、
維持管理会社とも始める準備を進めており、建築全体におけるBIMのメリットを俯瞰できるよ
うになることを目指しています。
将来、企業を繋げたBIMの活用が進む段階では、個々のBIMのメリットが守られながら協働が
進められる形が理想的になるでしょう。お互いの利益を守るように、ある種利他的に個々の働
き方を補完しあいながら建築が実現されていく姿がBIMの先にぼんやりと見え、このような変
化こそが情報技術による最も大きな変化になるような気がしています。
前述の通り、「異なるプラットフォームや業種をつなげる更なる検証」や「BIMを使った協働
のノウハウの蓄積」は今すぐに必要になるわけではありませんが、個々を横断的に繋げるネッ
トワークや先端的なデジタルスキルが絶対的に足りていないのが現状です。今後の実務を考え
る上では避けては通れない部分であり、研究対象としても重要な領域だと思うので、今後は企
業だけでなく大学などでも研究のテーマとして扱われるようになるのではないかと考えていま
す。我々も『ヒロシマBIMプロジェクト』などを通して粛々と検証を続け、その知見を蓄積し
ていくことに注力していきます。
「広島をBIMの街に!」をキャッチフレーズに『ヒロシマBIMゼミ』を始めた当初は「広島で
BIMを使っている人集合!」くらいの軽い気持ちでしたが、そこで生まれたコミュニティが広
工大での教育や学生の就職と繋がることで、様々な副産物を生むことになりました。それが今
度は、建築業界の将来を見据えた実験の場へと進化しており、我ながら目標は高く持つべきだ
と感心するのです。