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コラム

建築BIMの時代17 
BIMは建築の価値向上に貢献できるか

2022.05.19

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

先日、白井屋ホテルを藤本壮介さんに案内していただくという機会を得た。正に僥倖である。
白井屋ホテルは前橋に古くからある廃業したホテルを、藤本さんの設計でリノベーションした
もので、さまざまなところで紹介されている。詳しくはそちらをご覧いただきたい。スタッフ
の心のこもった接客と素晴らしい空間があいまった素晴らしいホテルであった。特に、馬場川
通りという歩きやすい街路にも面しているのだが、馬場川通りやその周辺を心地よい空間に導
くような柔らかい影響力を感じた。“建築”の持つ力、価値を再認識した経験であった。白井屋
ホテルという“建築”が、馬場川通りや前橋のまちの価値向上に貢献していると感じた。蛇足だ
が、“建築”とはかたちとしての建築だけではなく、白井屋ホテルのスタッフはじめ関係する人
たちのおもいや時間を包含した総体という意味である。
 
白井屋ホテルを見て、あらためてBIMが建築の価値向上に貢献できるのかを考えている。建築
のライフサイクルにわたって、建築のデジタル情報を作成、更新し、さまざまな用途で活用で
きることがBIMの効果だといわれており、私自身もそう思っている。その積み重ねが建築の価
値向上につながるはずだと信じている。総論では間違いないと思うのだが、具体的にどのよう
な効果があり、それがどのように建築の価値向上に貢献できるのかを的確に説明できないでい
る。2012年にJFMAのBIM・FM研究部会が活動を開始した直後の議論で、部会員から同様の疑
問が呈せられていた。BIMの意義は何なのか、維持管理の効率化だけでは、建築が完成した後
にはBIMが利用されることはない、もっと本質的な効果を示さないとBIMは建築をつくる段階
だけのものになってしまうという指摘であった。10年経ってもその答えを出せないでいる。
幸い、さまざまな分野で数多くの方がBIMに関わるようになってきた。疑心暗鬼の方も多いだ
ろうが、BIM活用の効果を出そうとさまざまな活動がなされている。納得できる答えが出てく
るはずである。BIMが単なる便利なツールに留まらないよう、何とか答えを見つけ出したいと
思う。
 
鍵はデジタル情報である。建築のデジタル情報は、その建築の価値を向上させてくれる。どの
ようなデジタル情報が建築の価値を向上させるかは、BIMへの取組の成果が導いてくれる。
BIMだけが建築のデジタル情報ではないが、BIMがその起点になると考えている。最近読んだ
本に、BIM活用が進んでいるといわれている北欧、シンガポール、米国のBIM活用の背景を解
説しているくだりがあった。いい着眼点だと思った。建築生産システムは国や地域によって異
なっている。それはBIMへの取組にも影響を与えている。海外の事例を参考にする際は、その
背景をきちんと押さえておく必要がある。一方、共通点もある。ICT、デジタルを活用して建
設産業を高度化しようとしていることである。産業、人材のデジタル対応能力を高めることで
価値を生み出す能力を向上させようとしているともいえる。建築のライフサイクルにわたって
建築の価値向上に貢献する、デジタル情報の活用が求められている。

白井屋ホテルHP

    白井屋ホテル 馬場川通り側外観

    白井屋ホテル 馬場川通り側外観


    白井屋ホテル 内観

    白井屋ホテル 内観

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長