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コラム

クライアント/ユーザーサービスと
維持管理BIMのこれから

2022.09.01

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

楽しく維持管理BIMを進めていますか
デジタルデザインを進めてきて感じることは、次々に新しい発見に接することができる楽しさ
である。
私たちが接するクライアントの多くは事業や社会貢献を常に考えている。ゆえに社会の変化に
も敏感である。したがって私たちも常に社会や技術の進化・変化に目配せしながら、スピー
ディーかつ明快なエビデンスとともに、新しいアイディアを研ぎ澄まさなければならない。
クライアントにとっては、「事業=コストバランスによる価値の創出」である。昨今の環境問
題などの社会背景を踏まえ、その関心は建築生産プロセスよりも、むしろ維持管理フェーズの
Cost & Valueに視線が向いていると感じる。こういった多様な変化の中で新しいしくみにチャ
レンジできることは、とてもワクワクする。
先日、Webで国交省のBIMモデル事業の報告会が行われた。
実プロジェクトを舞台にした維持管理の報告は、多くの発見があり、多様な知見を得ることが
できた。また同時に、様々なステークホルダーが関わってきたことで、事業の中での維持管理
BIMのポイントも見えてきたように思う。

クライアントはどこに注目しているか
この分野は、建築や維持管理には専門ではない総務系の人たちが担当していることが多いのだ
が、彼らは会社の経営側から維持管理を見ているといってもよいだろう。したがって、直接対
話からは「技術的に何ができますよ・・・」よりも「このようなサービスができますよ・・・
といった、いわゆるユーザー目線=経営視点がとても重要であることがわかる。それでは、
どのようなサービスの視点か?
❶社員サービス〈社員貢献の視点〉:快適性の可視化や、社員クレームに対してのスピー
 ディーな対応サービス
❷日常サービス〈短期的な視点〉:日常維持管理によるリスク回避、空調・照明の効率運用
 サービス
❸誰もがわかり易いサービス〈利便性の視点〉パソコンやタブレット端末を利用した
 サービス
❹費用対効果の高いサービス:投資費用に対して明確な効果を発揮できるサービス
❶~❹はいずれも「可視化」が伴っていることが重要な点である。つまり、これらに対応でき
るサービス機能を持つことが、「クライアントが求める維持管理BIM」に近づくことになる。

どこに力点を置くか
私たちが検証している維持管理BIMの特徴は、ビル管理会社設備台帳データベース⇔
BuildCAN機器情報DBを連携させて運用しているところにある。このしくみは、台帳とビジュ
アライズ化されたBIMが一体になることで、様々な「可視化」を促進するメリットがある。問
題発生傾向や運転時間による耐用年数を感覚的、短時間に把握し、予防や計画、LCRC(生涯
修繕費用)に反映できる従来の「修繕・維持管理」分野での効率化やコスト削減のメリットも
見えてきている【図1】がむしろクライアントにとては「建物運用」分野での活用【図2】
に大きなメリットがあると捉えている。上記の❶~❹がこれに当たるのであるが、センサリン
グと分析・評価により空調、照明などの光熱費の大きな低減が期待でき、同時に炭素量やエネ
ルギー使用量削減効果も可視化できるため、社員の環境リテラシー向上への効果や投資家への
レスポンスにも透明性をもたらすことができる。さらにWELLやバイオフィリック分析機能を
付加することで、個々の快適さを向上させ、また、防災・セキュリティ機能と連動させること
で、個人ニーズへのサービス向上を図ることができる。というわけで、今後は、クライアント
の視点が集中するだろう費用対効果の高い「建物運用」サービス分野への維持管理BIMに、よ
り注力してシステムを整えるべきと考える。

「建物運用」サービスに必要なものは
ズバリ統合と可変性である。ネットワークの統合化とそのオープン化により、利便性の高い
アプリケーションとの連携を可能にすることで社会ニーズの変化にも柔軟に対応できるしく
みになる。維持管理システムやBIMそのものももはやデータベースのインターフェースの
一つになりつつある。
先に述べたように、「維持管理はサービス」では多くの人が関わる。したがって、まずはわか
り易いしくみにすることが必須である。社会背景を考慮すると、維持管理の知識を持ったアナ
ログな高齢者人材を活かす入力やシステムであることも必要だろうし、一般社員が感覚的に快
適さを読取りモチベーションにつなげること、さらに総務系管理者が日常の社員サービスに気
軽に利用できることも必要だろう。更に、社会課題となっている脱炭素やエネルギー低減を組
み込み、可視化することでESG投資やSDGs経営の促進にもつながるだろう。今まさに、この
ような付加価値の高いしくみを持つ維持管理BIMが求められている。

一つ先を意識するしくみ
このしくみをつくり、運用して感じることは、「人が関わっている維持管理フェーズでは想定
外の様々なことが起こる」ことである。まさに「生き物」のようであり、都度発見がある。
一旦上記のようなしくみの整理はできており、次のステップも見通してはいるが、今ここで、
もう一つ先を見ておく必要性も感じている。ARとタブレットによる現場での快適性や機器情
報の可視化や、煙降下×避難経路実体験、3D建物利用説明書はクライアントやユーザーサー
ビスを一段レベルアップできるし、PLATEAUデータを活用した複数建物維持管理BIM連携に
よる地域エネルギーマネジメントにも有効性がうかがえる。とはいえ、それぞれのビジネス化
にはもう少しクリアしなければならないハードルがある。ただし、確実にかつ論理的に実証を
積み上げることで遠くはない未来に「クライアントが求める社会が満足する維持管理BIM」
の姿が見えてくるはずである。

 図1

 図1


 図2

 図2

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員