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コラム

日本の建設分類体系はどこに、、、

2022.12.20

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

自分の不明さを恥じるばかりだが、まったく迂闊だった。しばらく前の話だ。BIMのデータ連
携で使う建設分類体系(OmniclassやUniclassなどのシステム)についての話である。例え話
だが眼の前に川があり、向こう側には道路も鉄道も電気などのインフラが整備され電車も走っ
ている。自分の手元には旅行のガイドブックのように、それらについての多くのレポートがあ
る。あとは「橋」を渡ればそれを利用出来ると思っていた。しかし、いくら探しても、こちら
側から向こう側に渡る「橋」(BIMで使えるこちら側の分類体系)が見つからない。そんな馬
鹿なはずは無いと、いろいろ聞きまわってみたが結局無かった。日本ではまだ個人の研究者に
よる調査研究の域を出ず、こちら側から「橋」を造る組織や資金の話は存在していないことが
分かった(もし進めている組織をご存知なら、教えて頂ければ有り難い)。
では、日本の建設会社がBIMを活用して大量に生み出し続けているデータは、今後どうなるの
か。分類体系がなければ多くの利用者間に流通する構造化されたデータにはならない。せいぜ
いその企業の関連会社の範囲内でしか、連携できないことになる。また大手の建設会社が、奇
妙な事になぜか似たようなソフトを多額の資金を投入して作り続けている。これを無駄と言わ
ないのだろうか。その背景に、情報インフラの基本ともいえるこの分類体系の不在(つまりは
思想を含めての社会システムの不在)が有ると思うのは、私だけだろうか。更にこの分類体系
が出来た暁には、準拠していないそれらのソフトやデータはゴミの山(ガラパゴス化)になっ
てしまうのではないか。それとも準拠させるためのデータ変換ビジネスが盛況になり、ビジネ
スチャンスとして喜ばれるかもしれないが(苦笑い)。
 
日本のBIM環境が、何故こんなことになってしまっているのだろう。最近、BIM関連の会社経
営者と話している時に、現状の日本のBIMの閉塞感の話になった。要はやっていることが、前
に進んでいることになっていないと。
私は以前からそれはBIMの問題ではなく社会システムの問題だと思っていた。そして、次の
三つの不在が原因ではないかと話をした。
①BIMデータ活用における建設産業の生産性革命のビジョン・戦略の不在
②BIM教育における高校生・大学生・社会人に対する教育システムの不在
③BIMデータ活用の場における発注者・市民の不在
つまり煎じつめれば「日本社会におけるBIMを戦略的な武器とする『意志』の不在」と思って
いる。
では、その戦略はどう表現されかつ実行されるべきだろうか。英国に良き先例があり、とても
参考になる。それは11年以上前の2011年5月に発表された『英国政府建設戦略2011-2016』
である。その概要が田澤周平氏他7名の建築学会論文『英国のBIMに関連する社会システムに
関する研究 その1』で述べられているので引用しておきたい。
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この戦略の目標は15〜20%の建設コストの削減である。目標をサポートするために以下の4つ
の項目が具体的に書かれている。「①コスト削減と工期短縮」「②ビルやインフラの長期の運
用コストの削減」「③英国の建物が目標とする二酸化炭素削減」「④英国のデザインと建設産
業をグローバル市場で競争力を持つこと」。この戦略はプロジェクトを対立的に進めるのでは
なく協調的な関係にすることや、政府の建設資産を設計、施工、運用、メンテナンスする際に
ITを高度利用することを要求する。その鍵となる部分が「2016年4月までにすべての政府調達
プロジェクトが(建築もインフラも両方)“3DBIMを用いたコラボレーション”を利用すること
を必要条件にしたこと」であり “BIM Level2 Mandate” と言われている部分である。
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この戦略に沿って行われてきたのが、英国のNBS(National Building Specification)の現状
でありBIM普及活動なのであろう。米国も母体となる組織形態は異なるかも知れないが、おお
よそ同じ状況と思われる(参考 NBSのYouTubeの1例“クリクするとYouTubeへリンクしま
す”
)。
 


一方、我々のBIM-ECコンソーシアムで進めていることを具現化するには、建設分類体系・分
類コードが必須である。しかし、日本に未だない以上、直輸入的にUniclassやOmniclassなど
を取り入れて進めるしかない。
コンソーシアムでは、この12月初めに会員33社による臨時総会を開き、実証実験(PoC)を
行う準備に入った。今回予定しているのは主に、BIM-ECシステム上で複数のBIMソフトから
抽出したIFCデータの連携確認、英米の分類体系をベースにした数量集計及び内訳書の作成、
マーケットプレイス上のViewerと内訳書のリンクの確認等である。
PoCがひと通り終わるのに1年、本開発で2年ほどかかる予定である。その間に日本でも
ISO19650や英米の先例を参考にして、国際的にも通用する分類体系をマネジメントする組織
が設立されるよう働きかけをしたい。残念ながら今のところどの扉を叩けばよいのか分からな
いが、やれるだけやってみようと思う。そして分類体系作りがゴールではなく、英国のNBSが
行なっている分類コードにリンクした情報化された標準工事仕様書なども必須で、それを使い
易くするためのソフト開発やBIMの普及を助ける教育も恒常的にやっていくことが、その組織
に求められる。
今回はここまでとし、別の機会に更なるビジョンを語りたい。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長