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コラム

ヴァーチャル建築

2023.02.16

パラメトリック・ボイス          隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏

今回は、オンライン教育の高校と知られる角川ドワンゴ学園N高等学校、S高等学校の校舎
についてご紹介したいと思います。
ネットの高校なのに校舎と思われるかもしれませんが実際には通学を希望する生徒や
スクーリング用のキャンパスが全国各地にありオンラインからリアルVRまで多くのチャ
ネルで非常に先進的な取り組みをされている高校です。
こちらの高校の生徒さん達に私たちの母校だ!と思っていただけるようなヴァーチャル
校舎の設計の依頼を受けました。
敷地も決まっていない構造的な制約もない予算も気にしなくてよいという夢のような
条件なのですが、実はそれが一番難しいということに気がつくのに時間はかかりませんでし
た。
建築は制限だらけのクリエーションです。建築設計を仕事にする我々は常にその制限をどの
ようにクリアしていくか、ベストなアイデアを見つけるかに注力しています。それが、いき
なり何の制限もありません、となった途端に肩すかしというか、設計の手がかりを見失って
しまうことになります。
唯一のヒントが、バベルの塔のイメージでした。クライアントに提示して頂いたそのイメー
ジを元に隈との打ち合わせを重ね、出てきたのが、「らせん」と「水」でした。
「らせん」は現実の隈作品にもたびたび登場するモチーフです。単純ならせん形状であれば、
大抵の3Dソフトにプリミティブとして最初から用意されていますが、今回は重力すら無視で
きる環境下ですので、よりアグレッシブな形状を求め最初からグラスホッパーを組みました。
大きな一筆書きのらせんということで言うと以前こちらのコラムでもご紹介した
「Breath/ng」の時にも挑戦していましたが、今回はさらにそれを発展させ、分岐するらせ
ん形状のスタディを進めました。
3Dソフトの作業ではよくあることですが画面を見ているだけでは、空間、スケール感が全
く掴めません。わかりやすい建物の形状をしていればまだしも、今回のような特殊な形状だ
と余計にスケール感を把握することが難しく、手のひらサイズのオブジェにも見えるし、富
士山のような山にも見えてしまいます。
そこで助けになったのがもう一つのモチーフである「水」でした。隈がイメージする「溢れ
出るような滝」を再現すべく、色々な「水」を空間上に散りばめました。
すると、水が入ってきた途端に、何か人が触れても良さそうなものがある、という居心地の
良さのようなものが生まれました。いわゆる身体感覚的なものを手に入れることができたこ
とで、この大きな塔のスケール感が決まってきたと思います。

この作品は発表されたのちも入学式にヴァーチャル会場として活用されるなど、今後もアッ
プデートを続けていく新しいタイプの建築になっています。
 
余談になりますが、このプロジェクトの一つの目玉と言えるのが模型です。ヴァーチャルな
のに模型?という話ですが、だからこそ、建築模型の凄さを再認識しました3Dプリンタを
駆使して制作された模型ですが、その繊細な位置合わせや各素材の表現は高い技術を持つ人
の手無くしては作れないと思います。ある意味、ヴァーチャル建築と現実の我々を繋いでく
れる一番大事な役目を果たしてくれているようにも思います。

©Kengo Kuma & Associates

©Kengo Kuma & Associates


©Kengo Kuma & Associates

©Kengo Kuma & Associates


©Kengo Kuma & Associates

©Kengo Kuma & Associates

松長 知宏 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長