プラント建設における図面レビュー業務DXの
全社展開<東洋エンジニアリング>
2023.03.20
高度で複合的な要素が集約される設計図面の確認や共有また修正では、行き違いやミスはつ
きものといえるだろう。立場や国籍の異なる多数の人が見る場合は、なおさらのこと、伝達
やコミュニケーションの面で齟齬が生じやすい。
石油・石油化学プラント、発電プラントなどの大型施設の設計から調達、建設までをワール
ドワイドに行う東洋エンジニアリングでは、設計図面のレビュー業務にパナソニック
ソリューションテクノロジーが提供する「Bluebeam Revu※」を活用している。
Bluebeam Revuの導入の経緯や背景と活用の実際、また全社的に普及させる取り組みにつ
いて、プロセスエンジニアリング部の栃原平祐氏に伺った。
※Bluebeam社製
P&IDの作成にBluebeam Revuを組み合わせる
東洋エンジニアリングは、大規模なプラント設備の設計、調達、工事までを主力の事業とす
る大手エンジニアリング会社である。その中で栃原平祐氏が所属するプロセスエンジニアリ
ング部は、P&IDを扱う部門だ。P&ID (Piping & Instrumentation Flow Diagram) という
のは、プラントに設置される機器、配管、計装品の構成を示したプラントの基幹設計図を指
す。設計エンジニアとして入社20年目の栃原氏は、2017年からはP&IDの図面を作成するツ
ールを取り扱い、設計エンジニアをサポートする担当となった。
「当時は、紙の図面に手書きで修正内容をマークアップし、スキャンして原稿をやり取りし
ていたのですが、設計者はみんな大変そうで、なんとかしたいと考えていたときに
『Bluebeam Revu』のことを知りました」と栃原氏は振り返る。実は東洋エンジニアリン
グでは、2014年頃にマレーシア向けプロジェクトでBluebeam Revu(以下、Bluebeam)
を導入した経験があった。協業していたインドの子会社のスタッフ間では好評であったもの
の、日本の設計者にとってまだデジタルでの入力に馴染みが薄かったため、その時点で本格
的な運用はされなかったという。しかし、栃原氏は展示会やセミナーでBluebeamに触れ、
PDFファイルの図面上に簡単にシンボルやコメントなどを記入できる「マークアップ機能」
の有効性を体感。日本の若手社員の数名に実際に使ってみてもらったところ「Bluebeamは
操作性が非常に良く、とても楽でいい」「特に、文書作成の汎用ソフトのようなユーザーイ
ンターフェースで直感的に操作できること、記号や部品などのシンボル登録が簡単にできる
点が非常にいい」との感想をもらった。これに手応えを感じ、社内に本格的に導入するべく
活動を開始した。
導入を加速したのが、コロナ禍の2020年4月からのリモートワークだ。リモートでファイル
を共有しながら業務を進めるのにBluebeamはとても適していた。P&ID作成は基本的にチー
ムで行うが、リモートワークでは紙の図面を設計者同士共有できない、また、そもそも大量
の印刷やスキャンをする機器が自宅にはないことが多い。リモートワークをきっかけに設計
者はペーパーレスの必要性、それを実現するBluebeamの良さに気づくこととなった。
多くの社員が扱うことで、カスタマイズシンボルの準備も急速に進んで活用しやすい環境が
整っていった。栃原氏は「特にリモートワーク中は、Bluebeamがなければ仕事が成立しな
かったのではないか、というほど重宝しました」と語る。
「ペーパーレス推進のためにもう一つ有効であったのが、ハードウェアの充実です。設計部
門では、業務のペーパーレス化を進めるために設計部門全員に新しくPC用サブモニターを配
布しました。従来のPCモニターでは、画面の不明瞭さ、画面の小ささにより、設計図面を画
面上で扱うには不便でした。そこで、配布するモニターは4Kの仕様を選択しました。これに
より紙と変わらない感覚でA3の図面を画面で閲覧できるようになりました」これにより、図
面を紙に印刷する機会が激減したという。
マークアップ機能を活用した円滑なコミュニケーション
Bluebeamを利用することで、図面のクオリティが向上することを栃原氏は実感している。
「Bluebeamでは、誰がいつマークアップをしたのかという履歴が全て残ります。もし間
違っていた場合、誰が間違えたかがわかるので、その理由や背景を聞くことができ、品質向
上につながっています。また、クライアントとのミーティングでコメントをメモすると、そ
の内容をそのままコメントリストにcsv形式で出力できます。これまでの、手で書き込んだ
コメントをタイプし直すという手間が省略されました。そして、フィルター機能も社員に好
評です。例えば特定の日付以降の表示に絞ることで、どのコメントをP&IDに反映したかが
わかり、進捗の把握に役立ちます」。
プロジェクトによっては海外の担当者と協働し、P&ID図面を共有し共同で編集する。この
時、マークアップしたPDFファイルを共有フォルダーに入れておくことで一元管理ができ
る。「例えばインドの担当スタッフたちと協働する場合も、メールで図面を送付することが
一切なくなりました。フォルダーにPDFを入れておけば、インド側が作業してくれます。そ
して今度はインド側が進めたものもフォルダーに入れてもらえるので、進捗がリアルタイム
でわかります。そもそも以前の手書きでは、国が違えばアルファベットの書き方が異なった
りするので、お互いに理解が不明瞭なことがありました。以前はインドに原稿をメールで送
った後に問い合わせが毎回来ていましたが、最近ではほとんどなくなりましたし、間違いが
格段に減りました」と栃原氏は説明する。
なお、栃原氏はBluebeamを運用するうえでの細かなルールを事前に決めて運用を始めたと
いう。「例えば、色はこういうふうに入れましょう、描いたコメントはグルーピングで一体
化させましょう、といったことです。こうしたルールは実際に現場で書くスタッフの声を聞
きながら決めていきました」。
若手スタッフから積極的にBluebeamを活用しはじめ、その例を栃原氏は部内で紹介し、だ
んだんと拡げていった。現在、P&IDに関わる社員の9割ほどはBluebeamを活用している。
栃原氏は「作業時間は、トータルで30%ほどの削減になったのではないかと思います」とい
う。
クラウド機能でさらに効率的で確実に
Bluebeamに実装されているクラウド機能についても、東洋エンジニアリングでは活用が急
速に進んでいるという。これはクラウドを介してファイルをリアルタイムで共有でき、入力
したコメントもリアルタイムに図面に表示されるという機能である。「一つのファイルに複
数のスタッフがアクセスし、共同で編集できる『セッション機能』を使い出したところ一段
と便利で、業務が大きく変わりました。これまでは、P&IDに対するコメントを配管や機器
設計など多くの部署からばらばらに受領したコメントをマスター図面に転記していました。
Bluebeamを使うと、最新のマスター図面にみんなでアクセスするようになって、コメント
が簡単に集約されるようになりました」と栃原氏は実感を込めて語る。
栃原氏は、ペーパーレスを一層促進するため、全社員向けのトレーニングをDX推進チームと
計画。「他の設計部署や工事の部署にもBluebeamの使用を進めるため、トレーニングを
2021年12月から開始しています。Bluebeamを使用した図面の共同レビューの手順は、全社
の標準業務手順書に記載しました。P&IDに限らず全ての図面のレビュー業務に適用を進めて
います」という栃原氏は、協力会社にもBluebeamの使用を推進している。
「今後は海外拠点も含めて全ての協力会社に導入することが目標です。さらに、これまで紙
に埋もれて蓄積できなかった設計図面のレビュー結果の情報が、Bluebeamを活用したペー
パーレス実現によりデータとして蓄積することが図面レビュー業務DXとしての狙いです。蓄
積したデータを活用し、例えば図面の変更ボリュームの予測、コメントのフィードバックに
よる設計品質の向上といったさらなる改善につなげていきたい」と栃原氏は期待を込めて展
望を語った。
「Bluebeam Revu」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。