BIM進化に必要なBIM現場の工夫!
2023.03.24
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
生活に密着するBIM
急速に進んでいるデジタル化、精度が高まるAI技術・・・これらを駆使して、私たちは社会や
クライアントの課題に対して何ができるか?どのような貢献ができるか?が問われている。
私たちの仕事は人々の生活〈経済、くらし、環境、防災・・・〉に常に密着している。例えば、
経済の分野では、設計やコスト(例えば、企画設計モデルを作成し、配置と面積情報を連動さ
せ、瞬時に事業費用を算出するなど・・・)における自動化により、省人化が進み、全体コス
トの削減や合理的プロセスの運営につながっている。時には、〈図:バーチャルショールーム〉
のようにクライアントの事業の中にも深く入りこみ、利益の獲得に寄与するケースもある。
くらしの分野では、街やインフラ、そして建物データを統合、あるいは連携することで、快適
な「場」や「交通動線」をつくりだすとともに、「健康や福祉」、「環境」を効率的にコント
ロールできる仕組みが出来上がりつつある。これらをマネジメントすることで、当然、省エネ
ルギー化が進み、人々の暮らしにも直結する省コスト化が実現する。
さて、環境の分野は、これまでも話してきたが、ZEB指標やカーボンエミッション指標などで、
確実に「数値化」「可視化」が進んできている。ZEBに関しても、計画段階はもとより、オー
プンネットワーク化が進み、運用後のエネルギーコントロールが定着しつつある。
そして、防災分野は、3Dを活用した様々なシミュレーションが可能になってきている。特に
人の目線に立ったリアルなシミュレーションは、防災への啓蒙と同時に、理解しやすい災害対
策を人々にアナウンスする効果がある。
このように人々の生活にもBIMが浸透し始めてきていることは確かであるが、更に歩を進める
ためには、先進的アイディアをプロジェクトなどに実践投入し、AI技術を導入しながら、学習
データを増やし、高速・高精度でかつ、汎用性を高めていくことが必要になってくる。
プロジェクト中心のBIM活用の進化あれこれ
私たちの組織であるDDW(デジタル×デザイン ワークス)ではプロジェクトを進化させるた
めに何ができるか?を日々研究・開発している。その活動のなかで、人の生活に密着するBIM
を利用した取り組みについて、いくつか紹介したい〈イメージは図を参照されたい〉。
◆「いろいろ」レイアウト
様々な敷地や建物形態に対して、「駐車場」や「場」などを瞬時に計算し、自動配置する。
勿論、人の手により修正は可能ではあるが、量・数的算定についてはほぼ正確に抽出できる。
ということで、計画初期段階でのシミュレーション利用とともに省力化にはとても有効に使
える。また、Revitベースで動くところに、このユニークさがある。
下図はマロニエBIM設計コンペティションで実際に活用したもので、短時間にあらゆる可能
性を検討した例である。明らかに従来方法・人力では困難なプロセスである。人の手による
比較検討を省きつつ最適解をだせる仕組みは、設計者の時間の使い方にも良い影響を及ぼし
ている。
◆現場の人の視点に立つ防災シミュレーション
建物からの避難などは、机上では理解しているものの、人が「実際」を感じることが大事だ
と思う。あるプロジェクトで、実際に火災を想定し、煙の降下と合わせて、光の環境なども
実際どのようなことになるのかをシミュレーションしてみたが、避難時に起こる障害、誘導
灯の見え方、人の混雑など、通常見えていない問題も数多く見えてくる。人の安全をハイレ
ベルで確保するための重要な訓練ツールとしても有効であることが理解できる。
◆利用が広がる点群データ
点群データは、かなり広い分野と方法で利用が進んでいる。私たちも、数年前から敷地周辺
の点群データを活用して景観や環境シミュレーションを行ってきている。樹木ボリュームの
把握とともに、実際の緑が光や影、卓越風にどのような影響を及ぼすのかを数値化できる。
これによって、樹木の影響を最大限、建築計画やランドスケープデザインに取り込み、より
創造的バイオフィリック、WELLな環境空間づくりを実践できる。今後はドローン点群+AR
を組み合わせたプレゼンテーションやワークショップへと展開し、メタバースとの組み合わ
せなどで、コミュニケーションツールの主流になっていくだろう。
◆設備制御とBIM
私たちは、BuildCANというBIMとセンサーの連携による維持管理ツールを開発し、ここ数
年検証とアップデートを繰り返しているが、最近、これに制御系を加え、実際の複数の建物
で実証した。今後、これが展開されると、センサリングと制御との組み合わせで、近い将来、
建物管理や維持管理などの分野で、これまで課題であった統合ネットワークによる施設管理
が可能になる。また、クラウド型であるため、論理的には、日本中、世界中の特定建物を同
時群管理することも可能になる。
今回は我々の生活に関わるBIM関連技術について、事例を交えて、その現在と進化をお話した
が、日頃から感じることは、プロジェクトなどの「現場」で積み重ねることである。AIの進化
と同じように、学習し、データを増やし、精度を高めることで、高速かつ汎用性の高いツール
になっていく。
最近はBIM加速化事業も進んでいるが、いろいろな分野、そしてフェーズでデジタルやAI活用
のアイディアや視点を持った人たちとの接点を増やすことは、必然的にユニークなBIM関連技
術が生まれ進化することにもつながる。 このようにBIMを取り巻く新しい風景は、社会やクラ
イアントの課題を解決できる期待感とともに、私たちのモチベーションをも高めてくれるだろ
う。