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コラム

ChatGPTの出現と現在地

2023.05.30

パラメトリック・ボイス                   GEL 石津優子

様々なAIサービスが毎日のようにニュースに取り上げられています。私個人としては、2月
からChatGPTを使用して、仕事をするようになりました。日々進化する技術に対する感動
一緒に仕事をしながら見えてきた普遍的だと思えるものについて述べてみたいと思いま
す。

私にとってChatGPTは、何でも答えてくれるスーパーアドバイザーのような存在で、正しい
答えが返ってくるかはわからなくても、やわらかい物腰で丁寧に答えを返してくれるという
だけでも、登場初期から存在価値を感じています。そんなChatGPTの登場とともに、自分自
身に起きた変化と、周りのエンジニアたちが使いながら仕事をしている現状を記しておきた
いと考えました。

この現象は、私の誤解かもしれませんし、数年後に読み返したら恥ずかしく思うかもしれま
せん。しかし、この技術が手に入るようになったことは、私にとって衝撃的な変化であり、
新しいAI技術を使用したサービスが毎日のように登場し、一方で自分がついていけていない
ような戸惑いも感じています。

画像生成AIのように、何かを生成するためのAIを使うよりも、私はアプリを実装する際の
技術周りの質問や自分のコードのデバグをChatGPTを用いて行うことを選択しています。

2月の時点でChatGPT3を使用していた際には、業務で行っている領域に近い回答は出てく
るものの、正解へと導くのは難しい印象でした。それでも、実装へ向けてのステップを示し
てくれるので、対話しながら整理をできるのは有用だと感じました。4月から有料版の
ChatGPT4を使用するようになったところ、回答の質が格段に上がり、業務で実際に書いて
いるコードについても、ChatGPTに質問した方が効果的だと感じ始めました。特にWeb系
のプログラムに関しては自分で調べるよりも確実にChatGPTに質問した方が早いと感じる
ほどでした。

一方自分が学習途中だった新しい技術であるWebのフレームワークもチュートリアルと併
用し、今までにない速度で学習が進みました。ただし、RevitやRhinoという、取り扱うエン
ジニアの人数が少ないものに関しては、まだ存在しない関数を示されるなどの問題がありま
した。それらは自分で書いた方が確実だと感じていました。しかし、5月になり、ベータ版
のプラグイン機能でWeb上にAPIがあるものやPDFでベストプラクティス的なプログラムを
ChatGPT上で読み取れるようになりマイナーな技術や一般的ではない知識に関しても回答
の確度が上がるようになりました。自分が以前に書いたコードを改変してもらいながら、リ
ファクタリングするということもでき、デザインパターンを使用しながらデータ構造の設計
から試行錯誤で進めることができました。

2月から5月という短い期間での進化をどのように受け止めていいのか、喜びと戸惑いの両
方があり、自分の認識をいかに更新するかという行為をAIから要求されていると感じる機会
が増えました。また、2月から数カ月で自分の技術力や知識に関しても劇的に向上したと実
感しています。

プログラムを書かない人々からは、「仕事が楽になって、効率的に働けてそれ以外の時間が
増えてよいですね」と言われます。しかし、2月から5月の生活を振り返ると、年度末とい
うことを考慮しても働いている時間やPCに向かっている時間が減ったとは言えません
しろその逆で、かじりつくように机に座っている時間がむしろ2割ほど増えました。夜中で
もいつでも相談できるしかもコードも書いてくれるChatGPTが手元にあることそして今
まで知ることが難しかった技術についても答えてくれるため、それを実際に試して書くとい
うハードルが下がり、常に何か新しいことを試したくなりました。その結果、テストコード
を書いたり、昔のコードを改善したりと、今まで「面倒くさい(時間がかかる)」からまた
今度やろうとしていたものに取り組むようになり結果的には長時間労働につながりました。

この現象は、交通機関が発展して移動時間が短縮された現代を見ると理解できます。移動時
間が短縮された分ゆっくり過ごしているとは言えず、目的地へ行くまでに余計な時間がかか
る方法を取る平安時代の「方違え」のような価値観は持てない程、スピード感を求める社会
になっています。また、日が暮れたら仕事を終えるという生活とは異なり、電気を使い、夜
まで働く現代の働き方が浸透しています。

AIによって効率が上がり、働かなくてもよい生活が待っているというストーリーになかなか
同意できないのは、この3か月間の自分の変化や、周りの技術者たちが様々なプロトタイピ
ングを毎日のように公開している流れを見ているからです。彼らもまた、この数カ月で技術
に熱狂していると感じられます。

2月からの数カ月でChatGPTによって技術力が向上したと感じるのは、毎日の勉強時間や
技術向上にかける時間が増え、生活スタイルをそれに合わせて改善した結果だと見ることが
できます。

知識を知っているかどうかでアウトプットが変わるというよりも、そういう小さな積み重ね
で変わるのだなとAI活用の話なのに何とも古典的な感想を持つことになりましたそして、
日々の焦りに関してはAIをはじめとする最先端の技術がどのような仕組みで動いているの
かを理解できないということです。しかし、自分はその理解に向けての土壌を今まで開拓し
てきたのかと自問し、理解したいなら地道に少しずつ学ぶしかないと気づきました。

学びの民主化が進んでいる現状を理解しています。そこで、今まで「面倒くさい(時間がか
かる)」からやっていなかったことにChatGPTというコーチをつけて挑戦することをお勧
めします。


 

石津 優子 氏

GEL 代表取締役