ShareworthyなBIM
2016.02.04
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 石澤 宰
先日シンガポールで、大学生を対象にBIMについて講義する機会に恵まれました。冒頭で、
「BIMはまだ新しく、系統立てて教えられるほど確立されたものはまだ少ないことに改めて気
づかされました。そこで今日は、私がBIMに関して経験したことをシェアするためにここに来
ました。私はまだ若くて皆さんと同じFacebook世代ですから理解していただけると思います」
と始めたらそこそこウケました。この導入もシェアしますので何かの時には使っていただけれ
ば。
BIMはシェアという概念に助けられるところが多々あります。例えば私が使うRevitについて
新しく学ぶとき、動画サイトからは操作の解説が、様々なブログから使い方のTipsや新機能の
紹介が、多くのサプライヤーから製品モデルデータが入手でき、大いに助けになります。こう
した情報へのアクセシビリティは、学習だけでなく実務の効率も左右します。ちょっとした技
術的な問題解決でも、積み上げると実は意外なほどの時間を要しているからです。
こうして得られる情報は誰かが公開しているものです。利用するだけでなく、持っている情報
を発信することは、シェアコミュニティの精神に沿い、限界費用を大きく押し下げてゆくこと
に貢献します。BIMに関する有益な情報を積極的に公開するという動きは、継続すれば究極的
には建物コストの合理化にまで必ず繋がります。
日本でもBIMライブラリを構築するコンソーシアムが発足したというニュース*1を聞き、嬉し
く思いました。国全体で広く使えるモデルデータの整備は、オーストラリアやノルウェーなど、
いくつかの国ですでに進んでいます。コンポーネントレベルを超えて、もし仮に、完成した建
物のBIMデータ全体がオンラインでシェアされ活用されれば、ムーブメントは一気に加速する
でしょう。しかし私が作ったモデルを実際にそうしてしまうといくつか問題が発生します。
一つは著作権です。シンガポールで標準的に使われるBIM Particular Conditionsでは、竣工後
のモデルの使用権は著作権と別に定めることができる、とあります。従ってプロジェクト契約
によっては、モデルが自分の著作物であっても、プロジェクトの範囲を超えて活用することは
できない場合があります。
もう一つはセキュリティの問題です。例えば、発電機や受水槽などの情報はメンテナンス計画
上重要で、BIM for FMの活用が期待できるエリアです。しかし一方、建物の安全性を重視する
と、誰にでも公開できるとは限りません。これは先日山梨さんの書かれたギブアンドテイクの
関係、利便性とプライバシーのトレードオフです。たとえば電子カルテなども、共有できれば
便利ですがプライバシーへの配慮も求められるという同様の事態が想像されます。
「限界費用ゼロ社会」*2は、IoT(モノのインターネット)やMOOC(大規模公開オンライン講座)、
3Dプリントなどの技術が、「コミュニケーション」「エネルギー」「輸送」のインフラを変え、
ありとあらゆるものが「ほとんどゼロ」のコストで手に入る社会へ導きつつあると指摘します。
これは人間社会が市場資本主義の誕生以前に長らく前提としてきた「コモンズ」「シェア」と
いう考え方にやがて立ち戻ってゆく大きな変革の端緒であるとする、エキサイティングな本です。
それによると、「シェアする」という文化についてはミレニアル世代*3が年長世代より有意に
活発であることが分かっているそうです。「シェアする価値がある」を意味するshareworthy
という造語も一般化してきています。BIMに関してはモデルがすべてではありません。私は
2000年に成人した、ミレニアル世代最年長ではありますが、ここに書く機会をいただいたこと
によっても、私なりに何かをシェアをすることができればと願います。あ、もし気に入ってい
ただけたら、上の「シェア」ボタンをぜひ。
*1 「BIMライブラリーコンソーシアムが10月に発足」 ArchiFuture Web
*2 「限界費用ゼロ社会<モノのインターネット>と共有型経済の台頭」、ジェレミー・
リフキン、2015
*3 ミレニアル世代 ―Weblio