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コラム

ハコじゃない建築とは

2023.07.21

パラメトリック・ボイス          隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏

今回は今までのようなコンピュテーショナルデザイン系の話題からはちょっと離れた?プロ
ジェクトをご紹介したいと思います。

コロナ禍真っ只中の2020年8月に、雑誌ハーバードビジネスレビュー上に「いまこそ地球の
OSを書き換えよ」というタイトルの隈のインタビューが掲載されました。
このインタビューの中で隈は、「建築という大きな箱の中に人間を閉じ込めることで自然の
驚異から守り、その箱の内側だけを快適に保つことを進めてきたものの、それが気候変動を
もたらし、さらには感染症を蔓延させる原因にもなったことで、箱の中ですら自然を制御で
きていないのではないか」という問いを投げかけました。
そして、建築という「コンクリートの箱を基本とした社会システム」を「地球のOS」と解
釈し、そのスタンダードを少し変えてあげることで、地球の持続可能性に大きなインパクト
を与えることができるのではないかという提案を行いました。別の言い方をすると建築家自
身が建築(ハコ)をこのままの形で作り続けるのを考え直そう、と言っているようなもので
なかなかに過激!?な内容とも言えます。

このインタビューに共鳴したのがグリーンインフラをリードする企業として知られている東
邦レオの吉川稔社長でした。吉川社長の声掛けにより、建築家だけでなく、エネルギーや
ウェルネス、VRの研究者など様々な分野の専門家が集まり、新しいライフスタイルを探る
学際的社会実験として「地球OS書き換えプロジェクト」が立ち上がりました。私にとって
もこの日からは設計事務所にいながら、建築ではないものついてあれこれ考えるという不思
議な日々が始まりました。

このプロジェクトの最初の実証実験は、2021年の秋に行われました。大都市のハコからの
脱出を目的として、北海道東川町、大阪市中津、香川県三豊市父母ヶ浜と東京の大手町をつ
なぎ、リアルとバーチャルをフラットに繋いだネットワークを構築するという試みを行いま
した。
メンブレンと幅5cm~15cmの板を縫い合わせ、やわらかさと堅牢性とを両立させたロング
テーブルというエレメントをデザインしこれを組み合わせることで、屋外でもインスタント
にワーキング/ミーティング/ダイニングスペースを構築できるポータブルシステムを提案し
ました。
そしてこのロングテーブルの両端に大きなモニタを設置し、あたかも画面越しにテーブルが
繋がっているかのようなリアルとバーチャルが混ざり合った空間を作ることで、遠くの場所
にいる仲間が、オンライン会議では表現できない臨場感と遠近感の中でテーブルを囲み、同
じ時間を過ごすことを実現しました。
地方やその土地ならではの魅力は様々ですが、その一つに「人」があると思います。もちろ
ん人は移動することができる訳で、その土地に縛られているとは限りませんが、やはりその
人を中心としたコミュニティはその地域に根ざしたものであることを改めて知ることができ
ました。この人と人の繋がりを最大限に拡張し、都市と地方の間の結びつきを強化すること
で、地域の活性化と持続可能な発展の方向性を示せたと思います。

建築に変わるOSなんて見つかるのだろうか、、、とまだまだ答えは先かも知れませんが、
このプロジェクトをきっかけに本当に多くの繋がりが生まれています。現在も秋のイベント
に向けて新しいエレメントを仕込んでいます。

 ©Kengo Kuma & Associates

 ©Kengo Kuma & Associates


 ©Kengo Kuma & Associates

 ©Kengo Kuma & Associates

松長 知宏 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長