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コラム

地道に進んで変革する

2023.11.02

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

昨年のArchi Future 2022 基調講演でHeatherwick StudioのNeil Hubbard氏が紹介していた
麻布台ヒルズが11/24開業との発表がありましたが、既に東京メトロ日比谷線の神谷町駅とつ
ながる部分が出入口として使われており、建物の中の一部が見られるようになっています。
Heatherwick Studio特有の曲面形状や細かい納まりの一旦が確認できますので、開業を待て
ない方は神谷町駅から桜麻通りを歩いてみると良いと思います。
 
このような曲面を納める時には、一般的に仕上面の形状から追い出していって構造体との調整
をすることになります。
ところが、建設の順番としては構造体を建てた後に仕上げを取り付けることになるため、工程
として先に決めなければいけないのは構造体となります。理想としては仕上げが既に決まって
いて構造体との調整もできていると良いのですが、ほとんどの場合そうはならず、調整代だけ
を残した状態で先に構造体を決め、仕上げはそれに合わせて何とかすることが多いでしょう。
特に曲面形状の場合は基準納まり以外の特殊な納まりが増えることが多いため、調整しなけれ
ばいけない数も多くなりますが、調整手間を減らしたいときがコンピューターの力が活きると
きでもあったりします。
 
BIMの話で良く出てくるフロントローディングとは、簡単に行ってしまえば、このような後工
程での手間を減らすためにできる限りコンピューターの中で検討を済ませてしまおう、という
やり方ですが、各部材を作る専門業者ごとにそれぞれのノウハウを持っており、正しく検討を
するためには設計者、施工者だけではなく専門工事業者も集まる必要があります。
ここで問題になるのが、工事工程が建設の順番に合わせて決まっていくため、フロントロー
ディングで検討している段階では工事業者との契約ができていない(工事業者が決まっていな
い)ことも珍しくない事です。
近年ニュースにもなっている2024年問題も見えてきていますが、そもそも人手不足の現在に
おいて、工事が始まっているプロジェクトに時間を割かなければいけない中で、契約前の検討
に割ける時間がどれほどあるかと言われると難しいのではないでしょうか。
 
つまり、フロントローディングされる前のプロジェクトの検討とフロントローディングされた
プロジェクトの検討時期が重なると、結局はフロントローディングに割ける時間が減り、工事
開始後の検討項目が残ったままという悪循環が起きているのではないでしょうか。
これは大雑把にとらえた考え方ですが、ワークフローのような考え方そのものを変革する過渡
期に以前よりも手間(費用)が増えてしまうのは、ある意味ではしょうがないことなのかもし
れません。
それでも諦めずに目指すべき姿へ一歩ずつでも進んでいく胆力が変革には大事だと思います。
BIMへの取組も手間ばかり増えると言われることが多いですが、過渡期を乗り越え変革するた
めには新しい技術への取組みだけではなく、地道に進んでいく事も大事だと思っています。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長