BIMマネジメントのトレーニング
2023.11.07
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
BIMマネジメントの手腕を高める有効な取り組みとして、BIMソフトウェアを用いたワーク
ショップを推したい。ワークショップを繰り返すことで、BIMを導入したプロセスにおける分
業やデータのマネジメントの勘所を掴むことができる。
小職の研究室では、3年次後期開講の演習で、「有名住宅はいくらで建てられるのか」と題し
たBIMを利用した見積りのゼミを10年前から開催している。このゼミは、2〜3人のグループ
で、工事仕様の検討、モデリング、数量拾い、積算、見積書作成に約4ヶ月かけて取り組む
ワークショップ形式である。その中で、目的に応じたLOD、オブジェクトデータの分類、分業
による作業の進め方、BIMデータから取得した情報の利用など、BIMマネジメントのノウハウ
に触れる。このゼミはBIMの基礎的な考え方を習得する初期教育と言える。
小職の研究室と蟹澤研究室は共同で、8年前からマレーシアのトゥンク・アブドゥル・ラーマ
ン大学(UTAR)と建築生産系のワークショップを実施している。2023年度からは、マレーシ
アのトゥンク・アブドゥル・ラーマン・マネジメント&テクノロジー大学(TAR UMT)、ベト
ナムの交通運輸大学(UTC)との取り組みが始まり、昨年度末からワークショップが立て込ん
でいる。それらの全てでBIMマネジメントを実践していたのは研究室の学生達である。
3月は、UTARと共同で、UTARのキャンパスにある講堂を実測してモデリングするワーク
ショップを開催した。テクニックが必要な寄棟屋根や中国格子などのモデリングは、事前に作
成方法を実験し、そのやり方の動画を作成していた。6月は、TAR UMTが来校し、ファンズ
ワース邸のモデリングや4Dシミュレーションなどを当学の学生がレクチャーするワークショッ
プを実施した。そのために、当学の授業で使用している自作テキストを英訳していた。9月に
は、ベトナムの交通運輸大学(UTC)と共同で、ハノイに建設中の都市鉄道3号線のカウザイ
駅周辺を視察して、10年後・20年後にどのような開発が進んでいてほしいかをBIMで計画する
ワークショップを開催した。計画の中心地となるカウザイ駅舎はどのチームも共通のため事前
に日本でモデリングをしていた。10月には、UTARが来校し、モジュラーコンストラクション
によるホテルをBIMソフトウェアを用いて計画するワークショップを開催した。モジュラーコ
ンストラクションの説明、計画の諸条件などワークショップに必要なナレッジは、Notionを用
いたポータルサイトに用意していた。
どのワークショップも提携校のコンストラクション・マネジメント学科とのコラボレーション
である。マレーシアやベトナムはBIMの普及が拡大期に差しかかったというものの、BIMを
ガッツリ学ぶカリキュラムがなく、BIMソフトウェアの操作を習った事があるというレベルの
学部生である。そのため、ワークショップのリーダーシップは小職の研究室で取らざるを得な
い。また、いずれのプログラムも、10日前後の日程で、オリエンテーション、工事現場見学、
特別講義、建物見学、ワークショップで構成される。そのため、実際に作業ができるのは4〜
5日程度である。その日程で参加学生が満足できる成果を残せるようにするためには、オブ
ジェクトを用意したり、既存施設を作成したり、配置プログラムを作成したり、テクニカルな
操作の動画を作成したりする事前準備が必要である。学生たちは、テーマにあわせてそれらの
準備を考えて、約1週間で終わらせるようにWBSを計画し、リソース、タスク、スケジュール
をNotionで管理していた。
ワークショップでは、先方の学生と当学の学生の混成チームを5つ程度つくる。混成チームの
メンバ-は、当学の参加学生のBIMの力量を勘案してチーム間で進捗に差が出ないように振り
分けている。チームリーダーは、ワークシェアリング機能の利用を前提にメンバーにタスクを
配分する。各チームリーダーや中央監視チームは、チャット、Web翻訳、オンラインストレー
ジ、Notionなどを駆使してチームや全体のコミュニケーションの活性化や進捗調整を図る。
チームリーダーを集めた定期的な進捗確認も中央監視チームのミッションである。
相手先の学生から、「BIMをもっと知りたいと思った」「BIMの重要性を理解できた」などの
言葉や感想が出てくれば、ワークショップは成功だろう。
このような、短期間でテーマを完遂させるための様々な工夫は、当学の学生達が自発的に実践
している。昨年度末からワークショップを繰り返すたびに標準化、進化していくのを目の当た
りにした。また、8年前の初回以来、これまでに実施した全てのワークショップの情報はオン
ラインストレージにアーカイブされている。成果を設定し、タスクの実行計画を立て、デジタ
ルの情報共有環境を駆使してプレゼンテーションを完成させ、それらの過程の情報をアーカイ
ブするという、このワークショップの流れは、ISO19650のプロセスに通じるところがある。
BIMソフトウェアを利用したワークショップの運営は、BIMのスキルに加えて求められるBIM
マネジメントのノウハウに似ていると思う。
プロジェクトにBIMを導入するということは、デジタルネイティブなプロジェクトマネジメン
トを実践するということである。当学の参加学生は、学部3年生から大学院生まで幅広い。自
発的工夫の精神は、ワークショップを繰り返す中で下の世代に継承されていく。このような経
験を実際のプロジェクトで積み重ねるのは並大抵のことではない。そうであれば、BIMソフト
ウェアを用いたワークショップを企業のBIM教育にぜひ取り入れてはどうかと思う。