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コラム

「プロジェクト・マネジメント」が必要な
日本のBIMの行く末

2023.12.21

パラメトリック・ボイス
              スターツコーポレーション /
Unique Works 関戸博高

経営者として自問して来たことは、「そのプロジェクトの目指すゴールは何なのか?」 だっ
た。技術者は技術に走り、往々にしてゴールを忘れる。ゴールの意味が分からない人もいる。
ゴールが分からなければプロジェクト・マネジメントは始められない。では今、日本のBIM
の行く末を考えている人、そのゴールを念頭に置いてプロジェクト・マネジメントを考えて
いる人はいるのだろうか。

何かの拍子に繰り返し思い出される場面がいくつかある。その中のひとつ、カンボジアでホ
テル開発をしていた時だ。プノンペンの蒸し暑い空気と共にひとりのフランス人学生が事務
所に現れた。訪問の目的は、フランスの大学で「プロジェクト・マネジメント」を研究中で、
人を通じて我々のプロジェクトをヒアリングすることだった。今も記憶に残り続けているは、
彼の大学には「プロジェクト・マネジメント」の専門学部があり、その道の専門家を育成し
ている話を聞き、すごく羨ましい気持ちがしたことが原因だと思う。
もう一つ、このプロジェクトで貴重な経験をした。施工は日本から現場所長や所員を派遣し
直営で行った。理由は社員に海外で仕事をさせたかったことと日本の建設会社を使うと建設
費が3割以上高くなるからだった。そこで問題になったのは、現地業者に分離発注をするた
めの契約約款だ。最終的に国際的に使われているFIDIC (International Federation of
Consulting Engineers:注1)の発行する約款を使うことにした。これは日本の通常の契約
約款と比べて曖昧さの無い内容だったからだ。実際にはカンボジアは過去にフランスの植民
地であったので、現地業者は当然のごとくFIDICを使い、個々の専門業者の工事の遅延など
もこの約款に従い問題解決することができた。
これら一連のことから気付いたことは、普段の仕事で身につけた自分たちの知識や思考が極
めて日本的商習慣の上に成り立っているということだ。他方海外では発展途上国においても、
契約約款をはじめ国際的なルールが、しっかりと存在しており、FIDICに代表されるような
戦略的・エンジニアリング的思考、すなわちプロジェクト・マネジメントに通底する思考が、
欧米で蓄積された一つの文化のように存在していることだ。
(注1:FIDIC: 国際コンサルティング・エンジニア連盟、1913年に設立され、本部は
ジュネーブ、加盟国は100カ国超。国際建設契約のデファクトスタンダードとしての約款な
どを発行している)

「プロジェクト・マネジメント」について違う角度で話を続けたい。
BimDAO(教育コミュニティ)によるBIMの初級者向け教科書作りをしようとしているが、
友人のYさんから米国のペンシルバニア大学が発行している「BIM Project Execution
Planning Guide, Version3 .0
」をみておくと良いとアドバイスをもらった。
当初、このガイドは中上級者向けのテキストと位置付けし、それによって我々の教科書の狙
いを明確にしようと思った。しかし読み始めて直ぐにこのガイドがBIMを使った「プロジェ
クト・マネジメント」のガイドにもなっていることが分かった。以下は、それを示している
エゼクティブ・サマリーからの引用である(若干の超訳あり)。

「BIMを成功させるためには、プロジェクトチームが詳細で包括的な計画を立てる必要があ
ります。的確に文書化されたBIMプロジェクト実行計画(BEP)は、プロジェクトのワーク
フローにBIMを取り入れ、それによって全ての関係者は、その機会(なすべきこと)や責任
を明確に理解できるようになります。完成したBEPには、プロジェクトに適したモデルの使
用(例えば、設計者による設計モデル、設計レビュー、3Dコーディネーションなど)が明示
され、施設のライフサイクル全体にわたるBIMの実行プロセスが詳細に計画され、文書化さ
れている事が重要です。BEPが作成されれば、チームはこの計画に従って進捗を追跡し、
BIM導入による最大限の利益を得ることができます。」

更に、添付図が示すように、BEPを作成し実行するためにシステム化された手順が示され、
そのステップは次の5段階であるとしている。
1.Goals:  B I Mを実装する上での目標を明確にする(関戸注:5段階において先ずGoals
  ありきに注目!)
2.Model Uses: プロジェクトの企画、設計、施工、維持管理の各フェーズを通し、有益
  な(BIM)モデルの利用法を明確にする
3.Process: プロセスマップを作り、BIM実行プロセス上、全員が一致してプロセス内での
   役割を理解できるようにする
4.Information Exchange:  情報成果物(プロジェクトの各段階でいつ必要になるかなど)
   を明確にする
5.Infrastructure:  BIMの実装をサポートするために、契約、コミュニケーション手順、
   技術、品質管理などの形でインフラを整備する
 



今回タイトルを「プロジェクト・マネジメントが必要な日本のB I Mの行く末」としたのは、
今や産官学を見渡して百花繚乱を呈している日本のB I M状況ではあるが、どのようなマネジ
メント思想でゴールを目指しているのか見えないことに対する懸念からである。米国の大学
の発行するガイドブックを見るにつけ、英国にルーツのあるNBSの事業や他にも調べると大
学や公的機関から発行されている多くの関連テキストがあり、その質の高さに驚く。今やそ
れらが関連し合いながら、B I Mをベースに「プロジェクト・マネジメント」の体系へ至ろう
とする段階に入っているのではないかと推測した次第である。
では日本の状況はどうか?言い換えれば、FIDICを通じて感じた欧米の国々が持つ戦略的・
エンジニアリング的意志、それの表れである今回のガイドから感じられる「ゴールを見据え
たプロジェクト・マネジメント」への志向が、日本のBIMの行く末に果たして存在するのか
という投げかけで、今回は終わろうと思う。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長