BIMデータを読もう
2024.01.30
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
BIMは構造化されたデータである。端的に言えば、建物の要素/機能の実態として設置する物理
的構成物(ここではシステムと呼ぶ)の仮想表現であるBIMオブジェクトを組み上げて建物や
構造物を表現するのがBIMである。そして、サイバー側のBIMオブジェクトの対となるフィジ
カル側のシステムは、資機材という製品で構成されている。
RC柱のシステムは、鉄筋とコンクリートという製品分類で構成される。窓のシステムは、窓
枠、ガラス、ガスケット、シーリングという製品分類で構成される。軽鉄間仕切り壁は、LGS
と石膏ボードという製品分類で構成される。そこに遮音性能が要求される場合にはグラスウー
ルという製品分類が追加される。アスファルト防水のシステムは、アスファルトルーフィング、
アスファルト、プライマーという製品分類で構成される。
システムを構成する製品分類は、BIMオブジェクトを構成するパーツや層でモデリングしても
良いし(高LOD)、BIMオブジェクトの属性情報で定義しても良い(高LOI)。あるいは、BIM
オブジェクトにリンクさせた外部データとしても良い(低LOD & 低LOI)。いずれにしても、
建物の要素/機能を具現化するシステムは、建物要素の選択肢であり、システムを構成する製品
分類の組み合わせたパッケージはシステムの選択肢である。
メーカーが提供する固有の製品は、製品分類に対する選択肢である。製品の価格、施工歩掛、
物流などの経費がわかれば、製品の工事費と施工時間を算定できる。これがBIM-4D・5D、す
なわちプロジェクトマネジメントの基本的な考え方である。しかし、日本では、価格、労務費、
経費を統合した複合単価を使うことが多い。その複合単価は、サッシ枠やガラスのように製品
に対する単価だけでなく、屋上防水のようにシステムに対する単価である場合もある。また、
鉄筋のように製品価格以外の複合単価(加工費や組立費)と製品(資材)価格を別に計算して
合算する場合、コンクリートのように製品(資材)価格に打設手間とポンプ車の料金など労務
費と経費を加える場合もある。それらの項目を細目として、中科目、科目へと再集計したもの
が工種別工事費見積書の内訳である。
それに対してBIMオブジェクトの属性はどのように表現されるのだろうか。例えば、「間仕切
壁」という名称のBIMオブジェクトに、UniclassのSystems(Ss)、面積、高さ、厚さ、耐火
等級の属性が入力されているとしよう(なお、耐火等級は「FireRating」というIFCのProperty
Setを使う)。この場合、「Ss_25_10_30_35 Gypsum board partition systems(石膏ボー
ド間仕切り壁システム)」に分類された「間仕切壁」というオブジェクトは、10m2の面積、
4000mmの高さ、120mmの厚さ、2時間耐火の等級というデータを保持して集計表やcsvファ
イルに出力される。それらのデータを用いて、表計算ソフトウエアや積算ソフトウエアでLGS
や石膏ボードなど個々の製品(資材)の数量を拾うわけである。
これらのことからも、オブジェクトにどれだけ多くの属性情報を付与しても、BIMオブジェク
トから直接、工種別内訳を作成することは不可能であることがわかる(もっとも、全ての製品
のモデリングをしていればその限りでない)。BIMオブジェクトから直接得られるデータを元
にして、細目レベルの項目で製品の数量を拾う手続きが不可欠で、そのためには、BIMオブ
ジェクトが保持している情報から細目レベルの数量を計算する計算式が必要である(計算式が
ライブラリ化されると、それがアウトプットデータとなる)。
また、属性情報は、製品分類の名称のように直接引用できる情報だけでなく、耐火等級や遮音
等級(AcousticRating)のように製品の構成を推測できる情報、コンクリート数量のようにリ
ソース分類(建設機械や仮設物など)の必要数量を計算できる情報などを完備しておく必要が
ある。それらは個々の製品(資材)を算定するためのインプットデータである。なお、耐火等
級や遮音等級の値は、建築基準法の適合自動判定プログラムや空間の用途の定義から自動入力
できるようになるだろう。
加えて、製品分類やリソース分類の番号(Uniclassで言えばProductsやTool and equipment
のテーブル)、細目の計算結果、工種別内訳の細目を相互にマッピングする仕組みが必要とな
る。その機能として「bSDD(buildingSMART Data Dictionary)」が期待されている。
製品分類やリソース分類を利用できる業務は積算だけに留まらない。温室効果ガス(GHG)の
原単位のデータとマッピングすればエンボディードカーボン算出に利用できるし、修繕周期の
データとマッピングすれば中長期修繕計画を算出できる。それら3つの目標値を概算し、目標値
以下に収めるように設計をコントロールするターゲットバリューデザイン(Target Value
Design:TVD)がBIMを導入する目的のひとつであろう。しかるに、BIMを導入する最も大き
なメリットが、施設オーナー、発注者、設計者、施工者の誰にあるのかは自明であろう。