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コラム

模型の力

2024.02.15

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

現在基本設計を行っている、新福岡県立美術館の第二回デザインワークショップが昨年
11月23日に開催された。
第一回のワークショップでは我々からプロジェクトの概要について説明を行い、その内容を
スに市民の皆様と質疑応答を行うという形式であったが今回はそこから更に踏み込み、
5つのグループに別れてグループディスカッシンを行い発表質疑応答を行う形式を取っ
た。

このワークショップに合わせ、最新の設計情報を反映した1/100スケールの模型を製作して
持参したが、この模型に対する各グループ及び会場の傍聴者の反応は極めて大きかった。模
型の周りの人が集まることで自然に会話が生まれ、ディスカッションが始まっていった。
設計を行っている我々は画面内で建物の中を自由に歩き回り、そのスケールを感覚的に理解
できるが、不特定多数の人間に対して、一斉にかつ直感的に情報を伝えるという点において
は、物体が存在しているということには敵わない。
設計者である我々でさえ、模型を製作した事で初めて分かることも多く、現場で製作する
モックアップ同様、我々には不可欠なツールとなっている。

なお、我々の事務所ではこの模型を専門的に製作するチームが存在しており、それぞれが高
いスキルを持っているが、そのスキルの一端に3Dモデルの調整能力も含まれる。
木材、スタイロフォーム、スチレンボード等の今まで長く使われてきた模型材料に加えて、
最近では3Dプリンタで造型されたパツやレカッタから切り出されたアクリル材等
のパーツが組み合わされて、精度の高い模型がスピーディーに製作されている。
実際の建設現場同様、物理的な存在を組み立てるためのデジタル的なバックボーンの必要性
をここでも強く感じている。

一方、つい最近発売されたApple Vision Proに見られるように、VR、ARの世界もここに来
て飛躍的にレゾリューションが上がってきている。さらに触覚や嗅覚を刺激するような装置
まで開発されるに至り、物理的な体験をデジタル化できる下地が急速に整ってきている感も
ある。
最終的には物理的に建築物が組み立てられる以上、我々は体を使って感じるアナログ的な部
分と、頭を使って考え、感じるデジタル的な部分をいつまでも反復し続けていくのであろう
か。これからの流れが楽しみになるとともに、まだまだ模型の存在意義、力の大きさを感じ
た数ヶ月であった。


 

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長