パラメトリックデザインの春
2024.03.07
パラメトリック・ボイス GEL 石津優子
AIと建築プログラミング
生成AIが建築業界に与える影響は計り知れません。設計者、エンジニア、研究者は、従来の
データ分析技術に縛られない新たなAIサービスを用い、建築情報の取り扱い方を革新していま
す。データ分析に特化していない建築情報の専門家にとって、専門知識がなくても使用可能な
AIサービスの登場は、新たな可能性を開いています。
普段の業務は、建築関連のプログラミングが主な仕事の私にとって、この変化はプログラミン
グという創造行為と、ツールという創造対象の2つに大きな影響を与えていると感じます。
AIを使って起きる大きな変化としては、自分1人から出せないアウトプットを出せるというと
ころが大きいのですが、AIの非専門家としての私たちは、これらのツールを理解し活用するた
めのアプローチも検討し、データドリブン設計を通じて建築分野におけるAIの潜在能力を最大
限に引き出す方法を日々模索します。単にデータを入力して結果を得るだけでなく、その「意
味」を深く理解し、効果的に利用するための方法論や体系立てた学習法についてもまだ確立さ
れているわけではなく、手探りの中進んでいます。AIと建築プログラミングの融合点を探る中
で、パラメトリックプログラミング、データモデル化、パラメータの最適化といった技術に着
目し、これらが建築設計にどのように貢献するかを考えてみたいと思います。
プログラミングアシストとしてのAI(創造行為)
ChatGPT、CursorやGitHub Copilotといったコーディングを支援するAIを普段どのようにつ
かっているのか、使いながら変わったこと、変わらないと感じること、アウトプットや自身の
スキルの影響に関して、最近感じていることを書きたいと思います。ChatGPTに質問するとそ
の意図を汲み取りながら、質問の答えとしてプログラムを提供してくれます。新しく学ぶ分野
もこのChatGPTを利用すると壁打ちのようにプログラムが出されてくるので、ある程度の基本
を抑えれば、あとは生成されたコードをコピペで組み合わせてもある程度は動くというプログ
ラミングの知識が最低限で動くアウトプットが出せるという驚異的な変化が生まれました。そ
れによって、自分自身も不慣れな言語で何かを書くことに挑戦するハードルが下がりました。
それと同時にCursorやGitHub Copilotというプログラムを書くエディターの環境の中で、コー
ドを書いているのと同時に間違いをしてくれたり、関数名からコードを予測して自動で生成さ
れたコードを利用できるようになりました。これは、とても気が利く先生がいつでも見守って
くれるような安心感と、ベタ打ちで文字を書くことがなくなり、ほとんどサジェスト機能を
使って選ぶだけというプログラミング行為に変わり、1文字1文字タイプできるという能力が
まるで手書きで文字を書くような行為に思えるほど、なくてはならない存在になりました。こ
れによって、多くの人の学習コストを下げ、参入障壁を少なくしており、今後建築情報系エン
ジニアやツールづくりを担う人たちが増えていくという期待ができます。また、組織やチーム
規模の開発は専門家がするけど、自分のためのワンタイプのプログラムなどは本人が内容は理
解できていないが、ChatGPTで生成したコードをとりあえず実行するという変化は起きてくる
と思います。
AIサービスとの連携(創造対象)
Azure Open AI、ChatGPTのAPI、Stable Diffusion APIなど、大規模言語モデルや画像生成
モデルを活用することで、建築分野におけるプログラミング、特にパラメトリックモデリング
を行う専門家に新たな可能性が開かれています。これらの技術により、ユーザーインターフェ
イスがより直感的に、ユーザーのニーズに応えやすい形へと進化しているのを感じます。今ま
で、パラメトリックデザインといえば、スライダーでした。スライダーを用いて数値を変化さ
せて、形を変えたり、解析条件を変えることで、パラメトリックにデザインしてきました。そ
れが、現在は言語や画像からそのパラメータを読み取って、その数値から結果を得ることがで
きます。これは話し言葉から理解できる、手がきの画像から意図を読み取ってくれるというよ
うな、人間同士のコミュニケーションにより近くなったことを意味します。インターフェース
がキーボードとマウスだったものが、声だったりチャットだったり添付した画像などマルチメ
ディアに指示ができるようになるので、これまでデジタルツールに対して利用するハードルが
あった方々からのデータを集め、ツールに生かしていくことができます。
パラメトリックデザイナやツールの作り手の強み
これらの変化の中で、今までプログラムを書いていた人やパラメトリックモデルをつくってい
た人たちが職を失うのかという議論をよく耳にしますが、私個人としてはその逆だと考えてお
り、よりニーズが高まると考えています。先ほど述べたように簡単にコードを生成できますが、
組み合わせが複雑になったときや、設計が複雑になったときには、ChatGPTからのコードだ
けでは完成できません。また技術的な選択肢から選びとるのは経験からしかできません。
ChatGPTは選択肢を示してくれますが、プロジェクトにかかわる人や目的などゆるやかな条件
というものを考慮できないため、技術選定の基準は与えてくれても、最終判断を下してくれる
わけではありません。それはケースバイケースです、というような内容を返されるのが限界で
す。またパラメトリックモデルをつくることで学習用のデータを作れたり、今まで作っていた
ツールにAIを載せることでインターフェイスをより人に近くして、ユーザーの拡大が狙えた
りと、建築ツールを作ってきた経験は活かしながら、そこにAI技術をのせていくという仕事
が増えてきています。パラメトリックデザインやモデリングにおけるAIサービスの活用は、よ
り直感的でユーザーフレンドリーなインターフェイスの実現を可能にし、設計者やエンジニア
が直面する課題に対してより柔軟で創造的な解決策を提供することができます。
結論としては、可能性が広がっている感覚やできることが拡張されている感覚、そして界隈が
劇的に成長しているのを感じています。ここからの5~10年でどのような変化がおきるか大
変楽しみです。プログラミングのアシストから、設計プロセスの最適化、さらにはユーザーイ
ンターフェースの改革に至るまで、様々な面で建築業界に新たな風を吹き込まれている今はま
さにパラメトリックデザインの春の時代なのかもしれません。