地方の建設会社とBIMを使うメリットを考える
2024.04.25
ArchiFuture's Eye 広島工業大学 杉田 宗
広島では2017年から『ヒロシマBIMゼミ』、2020年~2022年には『ヒロシマBIMプロジェ
クト』を通して、地方のBIMのコミュニティづくりや中小企業における実践的なBIMの活用に
ついて検証してきました。これらの活動を通して、改めて建設会社のBIM導入のハードルの高
さと、そのメリットの明確化が重要と考えるようになり、昨年度から建設会社におけるBIM活
用を検証するための新たな枠組み『ヒロシマBIM研究会』を作り活動をスタートさせました。
この枠組みには、中国地方を中心に建築や土木工事を行う今井産業、増岡組、加藤組に入って
もらい、各社でのBIM推進を進めながら、どういった部分に建設会社ならではのBIMのメリッ
トを見出していくかについて議論を重ねました。メディア等で見る建設BIMのベストプラク
ティスは、BIMを理解した現場所長が現場を指揮し、そこに各業種のBIMユーザーが関わるこ
とで、様々なやり取りにおいてBIMを活用しながら建物を完成させているケースだと思います。
しかし、地方の建設会社がBIMを導入したところで、このような環境がすぐに作れる訳でもな
く、多くの企業ではBIMを購入したけれど通常の仕事に追われ実践的な運用に至っていない状
態ではないでしょうか。昨年度から始まった国交省の建築BIM加速化事業もこういった企業の
バックアップを目指していると考えます。
我々がまず注目したのは、建設会社がBIMを導入してすぐに業務に生かせる部分はどこか?で
した。数回のBIM講習でできることは限られていますが、基本計画くらいの簡単なモデルであ
ればすぐ作れそう。一方、私が想像している以上に、建設会社では建物のボリューム出しや概
算の依頼が多く、そういった業務にかなりの時間が割かれていることも分かりました。そこで
「基本計画段階におけるBIMを活用した概算」をテーマに検証を行うことにしました。
基本計画段階のシンプルなモデルから得られる数量は、精算見積で使われる工種別の内訳数量
とは大きく異なり、非常にざっくりとした解像度の粗い数量です。我々はこれを「超概算数
量」と呼ぶこととし、どのような要素のどういった属性情報を集計するかについて議論しなが
ら、BIMから自動的に超概算数量を算出する仕組みをつくりました。従来の概算や見積が工種
別なのに対し、BIMから得られる超概算数量は部位別(カテゴリー別)になります。部位別か
ら工種別へ変換し従来の概算の方法に乗せることも考えましたが、「BIMを活用した概算」で
あることを優先し、部位別の数量を使う概算手法を検討することにしました。具体的には、
BIMから算出された超概算数量と複数の複合単価を合わせた「超合成単価」を組み合わせるこ
とで、坪単価計算よりも精度の高い積み上げ式の概算を行うことを目指しました。
結論から言うと、超合成単価を設定することに苦労しました。例えば、工種別に出てくる単価
から、壁に関連する部分を抜き出し壁の超合成単価を設定しますが、壁の構成が不明確だと超
合成単価を決めることができません。また、この基本計画段階のモデルの中には含まれていな
い要素もあり、超概算数量として出てこない項目も含めて全体を考える必要があります。この
手法を使っていくつもの物件の概算を行っていけば、超合成単価の情報が蓄積されていくと思
いますが、そこに行くまでにはまだ時間がかかるであろうという見解に至りました。
一方、超概算数量については概算以外の業務を含め、活用できる場面があるのではないかと考
えています。例えば、協力会社への見積依頼の際に、図面と合わせて見積に必要な情報をBIM
から取得して共有することで協力会社での手拾い作業を簡素化したり、施工工程の検討の参考
にしたりと、いろいろな活用可能性が見えてきました。また、これらの情報は建設会社の中で
留めていく情報ではなく、協力会社やメーカーと共有することで、建設プロセス全体での効率
化を図ることに繋がるのではないかと考えています。様々な要望に対して、BIMから的確かつ
正確に情報を引き出すことが可能になれば、簡単なモデルであっても活用の幅は広がると考え
ます。
そのような経緯から、今年度の『ヒロシマBIM研究会』は、既述の施工会社3社に加え、それ
ぞれの協力会社(足場、外壁・屋根、間仕切り)計3社に参加してもらい、より広い領域で
BIMのメリットを検証していくことになりました。早速、各社とのヒヤリングを行いました
が、通常の仕事の進め方や、どういうところにBIMの可能性を感じているのかなど、三者三様
で非常に興味深い。設計でBIMを使っているだけでは到底知ることはなかったであろう様々な
現実を知ることになっています。また、その節々にBIMを含めた情報技術で改善できそうな部
分があり、『ヒロシマBIM研究会』のメンバーとともにいろいろと新しい試みに挑戦してみよ
うと考えています。