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コラム

BIMを導入したプロジェクトを上手く進めるためのEIRの勉強

2024.06.06

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

近年、外資系企業のプロジェクトの影響もあってか、EIRの提示があるプロジェクトが少なく
ないようである。国土交通省も2023年度から官庁営繕事業にて延べ面積3,000㎡以上の新営
設計業務にEIRを適用しているし、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)においてもパ
ビリオンタイプA(敷地渡し方式)でBIM要件が提示されているように、発注組織の国内外を
問わずEIRを提示するプロジクトが増えていくように思われるEIRは英国のBIM Level 2
ガイドラインであったPAS 1192シリーズでは「Employer Information Requirements(発
注組織情報要件)」と記載されていたが、PAS 1192シリーズをベースとした国際規格「ISO
19650シリーズでは「Exchange  Information Requirements(情報交換要求事項)」と改
名されたその経緯には欧州標準化委員会(CEN)の駆け引きがあると想像されるが、日本
語訳を聞いたままに受け止める限りISO 19650シリーズの名称の方がしっくりくる。そこで、
情報交換要求事項(Exchange  Information RequirementsEIR)にはどのような内容が書
かれるべきとされているのかを知りたいと思った。
 
参考にしたのはCenter for Digital Built Britain (CDBB)が無償で公開しているEIRのテン
プレートである。
英国のケンブリッジ大学に2017年~2022年の5年間設置されていたCDBBは、英国 BIM プロ
グラムと国家デジタル ツインプログラムなど英国の建設業界のアプロチの変革を目指した
組織であった。CDBBはその活動の中で、ラテンアメリカや東南アジアのパートナーシップ国
と協力をしてISO 19650シリズの規格に沿った各種ガイダンスとテンプレートのコンテン
ツ群である「International BIM Toolkit」を英国政府の資金援助を受けて作成し、CDBBの活
動をアーカイブしたWebサイトで公開している。International BIM Toolkitの構成は、ISO
19650シリズで作成が要求されている各種の文書についてテンプレートとテンプレート記
入の説明を記述したガイダンスがセトになっているテンプレートはISO 19650シリーズ
の最小限の要件についてその内容を記述する形式となっている。
International BIM Toolkitの概要説明書に、EIRはプロジェクトへの情報要件(Project
Information Requirements:PIR)を満たすために、各プロジェ クトのデリバリー
チーム(設計、施工、維持管理・運営など各段階の元請受託組織を頂点とした一群のチーム)
の任命に必要な情報を規定する文書と記述されている。なお、PIRとは施設資産の視点から発
注組織の経営目標の達成に必要な組織の情報要求事項(Organisational Information
Requirements :OIR)と施設資産の維持管理・運用に必要な資産情報要求事項(Asset
Information Requirements:AIR)を満たし、プロジェクトからそれらに必要な情報を首尾
よく提供するために規定した文書とされているつまり発注組織の内部におけるプロジェク
トへの情報要求事項を規定したPIRを満たすために発注組織が元請受託組織の選定時に情報交
換要求事項を伝える文書がEIRということである。
 
International BIM ToolkitのEIRテンプレトは「一般事項(Introduction)」「情報要求
事項(Information requirements)」「情報標準作成方法、手順(Information standards,
information production methods and procedures)の3章構成となっている1章一般事
項は、EIRをどのように使用すべきか理解することを目的に記載されるセクションである。
2章:情報要求事項は各マイルストーンを確実に達成するために遵守すべき各情報要件の仕
様を記述するセクションである。3章:情報標準、作成方法、手順は、プロジェクトのEIRを満
たすための情報標準、作成方法、手順の目的を概説するセクションである。
テンプレートに用意されている項目は、ISO 19650シリーズに記載されている項目が網羅され
ている。それらの項目は要求事項ばかりでなく、発注組織が詳細を明示しなくてはならないこ
とも多い。これらを全て発注組織自身で記述するのは難しいかもしれない。しかし、このテン
プレートは、BIMを導入したプロジェクトを上手く進めるために必要な事前検討事項のリスト
と見ることもできる基本計画段階にEIRテンプレトの項目を用いたコンサルテンも有
効ではないかと思う。
また、内容を見ていくと、BIMに限らずデジタルデータを使用して建築生産プロセスが進めら
れていく現代において発注組織が求めるべきデジタル情報の要件が、まことに良く整理されて
いる。発注組織はこのテンプレートに沿って、自らが扱う建物情報の整理を試みることもお勧
めである。未来永劫、印刷物で建物情報を受け取るのでない限り、多数の施設の様々なデータ
が統一された命名規則もないままに保管されていては、あまりに非効率である。
BIMやデジタルデータを用いるだけでなく、基本設計、実施設計1、実施設計2の段階ごとに、
確認や承認の頻度や方法、確定事項などを指定しておくことは、発注組織、受託組織双方で業
務の効率化が期待できる。建築生産プロセスの改革で重要なことは、発注組織が受託組織から
の提案を待つだけではなく、発注組織から提示すべきことがかなりあるということであろう。
このことに対してCDBBが提供しているEIRのテンプレートは示唆に富んでいる以下に、テ
ンプレートの目次とガイダンスの記載内容の超要約を意訳して書いたファイルのリンクを記載
しておく。
CDBB 情報交換要求事項(EIR)目次の概略
これを見て興味を持った方はぜひ原本をご覧いただきたい。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授