BIMを駆使して多様なプロジェクトに挑戦しニーズ
を捉えた提案を行う<峰設計>
2024.07.08
BIMの導入や運用に関するコンサルティングなど、BIMを中心とした最新技術を用いて顧客の
サポートを幅広く行う峰設計。BIMモデルの作成やビジュアライズだけでなく、BIMが持つ情
報の部分を活かした業務や提案を積極的に行い、“インフラとしてのBIM”の活用を掲げる企業
である。
官民を問わず、多岐にわたる課題を解決へと導く中で、峰設計がプロジェクト推進のためのメ
インとして活用しているのが、Graphisoftの「Archicad」だ。企業としては若いと言える同社
だが、Archicadを駆使し多くの成果を挙げており顧客からの信頼は高い。
同社は、BIMデータをどのように各種のプロジェクトで扱い活用し効果を上げているのか。
今回、峰設計の代表取締役 崔 峰云(サイ ホウウン)氏に、最近の案件や実績をとおして詳しい
話をお伺いした。
官民の幅広い課題に対するBIMを用いた効果的な提案
“最先端技術を用いて建築業界の仕事をより効率的に”をミッションに掲げる峰設計。同社は、
2018年創業と比較的に若い企業だが、代表取締役の崔 峰云氏は「我々は、BIMを用いて建築
に関連する多種多様な課題に対して提案を行い、すでに大小200件以上の案件に関わり解決し
てきました」と実績を語る。
最近の実績の1つに、東京都が2023年度に公募した「現場対話型スタートアップ協働プロジェ
クト」がある。これは、東京都庁の都政現場における課題に対し、優れたスキルや技術を有す
るスタートアップとの対話を通じて共に解決を図るというもの。採択された11件のプロジェク
トのうち2件に峰設計が関わり、同年度内に実施された。
1件は、建設局の総務部企画課との協働のプロジェクトだ。これは「測量データからスピーディ
に3Dモデルを作って、住民などの関係者にわかりやすく道路整備の完成イメージを伝えたい」
という課題を受けたもの。道路の新設や拡幅の整備を行う際には、現況の地盤高と道路の高さ
が異なる場合が多く、完成イメージを近隣住民に共有することのハードルが高かったという。
2次元の設計データから3Dモデルやイメージパースなどの制作作業は行われていたが、時間を
要し、イメージパースでは任意の場所の完成像を示すまでに至っていなかったという。
その課題から「我々は、ビジュアルに特化したアプローチとパッケージを検討しました」と
崔氏。具体的には、ある橋梁の建設プロジェクトの現況を3Dで測量し、そのデータと設計デー
タから3DのBIMモデルを制作することで任意の場所で現況と計画の比較が容易にできる3D完
成イメージを作成するというもの。3Dモデルの制作に使用したのはArchicadだ。制作過程で
はBIMxを3Dモデルの確認用ビューアとして使用し担当者に3Dの中をウォークスルーで見ても
らい確認を取りながら調整、最終的にはArchicadのデータをUnreal Engineに入れ、よりリア
ルな表現に仕上げウォークスルー機能を盛り込んだシステムを構築した。
「このように橋梁を車で通るときに高低差があり、上がっていくと運転席からの景色も一目瞭
然です。また、橋梁の下の歩行者用通路は階段が入り組んでいましたが、ドローンの視点と
ウォークモードを切り替えられるので理解しやすくなりました。近隣住民への説明などで、誰
でも容易に動かせるシステムで使いやすくしています」と崔氏。
発注者の持続的なニーズに答えるBIMモデル
同プロジェクトで採択されたもう1件は、東京消防庁(消防学校)の「庁舎図面をデジタル化し
て、修繕工事の設計や工事業者との打ち合わせなど、建物管理のDXを進めたい」という要望を
受けたもの。消防学校庁舎では経年による修繕案件が多いものの、施工業者との打ち合わせや
起工事務に際しては紙の図面が使われているという。大きな紙の図面は取り扱いにくく、現況
調査の結果や、過去の修繕履歴等のデータを図面上に蓄積できていないという課題があった。
崔氏は、現況調査をして数量を出す際に、担当者たちが行う部分で、労力がかかり過ぎていた
ことに着目。峰設計とともに採択されたもう1社と協働し3Dスキャンで既存建物の配管などを
スキャンし、取得した点群データをデジタル化した庁舎図面に入れ込み、IFCを用いたブラウ
ザベースの維持管理システムを納品した。
システム上でモデルをクリックすると修繕記録が確認できるほか、検索機能を持たせた点も特
長だ。例えば、給排水関連設備の数量をすぐに調べ、Excel形式で書き出せるので管理台帳へ
と役立てることなどが可能となる。
「もちろん、このBIMモデルもArchicadで作成し、IFCに書き出しシステムと連携しました。
維持管理が効率的になり、ご担当の方々はかなり喜んでくれました」。今回、期間の関係で実
現できなかったが、崔氏にはデータを軽くしてタブレットでの操作なども可能とする構想も
あったと意欲的だ。
さらに2つのプロジェクトで共通して、崔氏が提案したことは、「これからBIMがスタンダー
ドになっていく中で、各部署ではEIR(発注者情報要件)が必要となることが予想されます。
そこで、EIRの策定までサポートすることを提案し実行ました」。
つまり、崔氏は今後のBIMでの納品依頼に向けた要件整理を行ったのだ。「管理を紙で行うシ
ステムでは記録がある程度の年数を経過すると削除されてしまうこともあり、担当が引き継が
れた後には情報が不透明になる場合があったようです。それに対し、BIMモデルが最新の状態
であれば、引き継いだ担当者はBIMの情報を見ることで間違いがなくなります」と、崔氏は
BIMを活用するメリットを語る。
BIMによる建築業界の活性化を目指して
このように、さまざまなプロジェクトに関わる崔氏がArchicadに触れたのは、学生時代に遡
る。幼少期から日本で育ち、いったん中国の大学に進学。建築の知見をより深めるため東京
大学大学院に入学し日本に戻ってきた崔氏。在学中に設計事務所でアルバイトをした際に
Archicadを習得し、その時すでにBIMの将来性を感じていたという。そしてそのバイト先で
お世話になった建築家の勧めもあり、博士課程に進むと同時にBIMで起業を決意したのだ。
「組織設計事務所への就職も当時検討していましたが、BIMの波は確実に来るので、将来起業
するのであれば早いほうがいいと考えました」と振り返る。
Archicadを長らく使用する崔氏は、Archicadの良さとして操作性が良く直観的なモデリング
ができる点などを評価する。例えば、数年前、既存の顧客から大型ホテルの新築案件で、敷地
造成費用の見積金額が高く収支が合わずに計画が停滞していると崔氏に相談があったという。
「切土と盛土についてArchicadで数量化し、盛り土の高さを調整するなどの改善案を提出しま
した。その後、再度の見積りで大幅な減額となり計画は再始動し、その顧客からは高い評価を
いただきました。この時も実感しましたがArchicadは直観的で、顧客への説明も視覚的に可能
ですし、大規模案件でもスムーズにやり取りできました」と、Archicadを評価する。
また、崔氏は、今後の展開にも積極的だ。Archicadを用いて開発した不動産業界向けのサービ
ス“MINECLE”を2023年にリリースし、さらに環境シミュレーションのサービスも開発してい
る。また、業界全体のBIMのさらなる普及のために一般社団法人日本BIM協会を立ち上げ、
BIM資格の試験や人材育成なども開始した。
「現時点をBIMというインフラを整えているフェーズと考えています。我々はさまざまな面で
チャレンジしながら建築業界を全体的に盛り上げたい」と崔氏。Archicadを用いたBIMのエキ
スパート集団として、峰設計は今後さらなる飛躍を遂げるだろう。
「Archicad」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。