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コラム

下町BIM

2016.03.17

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

いまさら、という感が無いでもないが、書き記しておきたいことがある。
大学に籍を置く仕事柄、比較的小ぶりな企業から、BIMの導入に対するアドバイスを求められ
ることがたまにある。そのような時は、可視化や干渉チェックなど、一般的に知られている使
い方を説明するのだが、決まって返ってくる言葉がある。「小規模な企業(組織)では1人で
何でもこなさなくてはならず、BIMの活用はハードルが高い」。

最近、とある目的があり、小さな戸建住宅のBIMモデル入力を小生の研究室の学生が手伝った。
二次元図面を読み解いてBIMモデルを入力するのだが、平面図・軸組図・断面図・展開図で、
まぐさの高さが違っていたり、小屋組みの寸法の押さえが読み取れなかったりした。このよう
なところは「質疑」をしたためて確認をするのだが、先方も多忙であり、こちらの都合の良い
タイミングで回答が返ってくることはさほど多くない。そんなやり取りを数回繰り返している
内に、気が付けば、1か月が過ぎていた。

仮に、BIM化をしなかったとしても、加工や施工の際に、同じ質疑がやり取りされたであろう。
どんなに優秀な設計者でも、1つの部材の情報を、平面図・軸組図・断面図・展開図に繰り返
して描くのだから、図面相互に書き違いが生じる確率はゼロではない。確率がゼロでない故に、
人は、描かれた図面をチェックし、間違いを発見した時は訂正の手続きを踏み、いわゆる凡ミ
スを解決するための時間と手間を積み重ねる。これは、人の能力の問題ではなく、確率の問題
である。その発生確率は、製図の道具を二次元CADからBIMソフトウエアに持ち替えることで
ゼロになる。

BIMを導入するメリットに、複雑な架構や納まりを可視化して誰でも瞬時に理解できることが
ある。その反対に、「単純な架構や納まりは、建築を学んだ人間であれば、二次元図面を見る
だけで頭の中にイメージできるので、BIMモデルを構築する必要が無い」という意見も多く聞
く。しかし、複雑な架構や納まりの設計をいきなりBIMソフトウエアで入力するのは意外と難
しく、図面など、頭の中に立体形をイメージできる資料を用意してからBIMモデル入力に取り
組むことが多いと思う。これが単純な架構や納まりであれば、いきなりBIMソフトウエアで設
計できるはずである。ほとんどのBIMソフトウエアは、平面でオブジェクトを配置する、すな
わち二次元CADで図面を描くのとほとんど違わない思考で入力できるのだから。

BIMソフトウエアで平面図・軸組図・断面図・展開図を作図すれば、図面相互の書き違いは生
じ得ないので、書き違いを発見・解決するためのチェックや手続きの手間と時間を省略できる。
つまり、生産性が向上する。このような効果は、複雑でない建物を取り扱う機会が多く、1人
で何でもこなさなくてはならない小規模な企業(組織)であるほど得られやすいはずである。
その場合、BIMを導入する目的が「作図」でも良いと思う(安価なBIMソフトウエアさえあれ
ば!)。別に、高尚な目的を立てずとも、便利なものはどんどん使えばよい。繰り返し使って
いる内に「BIMとは何か」という難しいことは、おのずとわかる。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授