BIMと技術計算を自動連携させ設計の品質・施工
の精度を向上<三機工業>
2024.09.19
建築設備やプラント設備をメインに顧客の課題解決を図る総合エンジニアリング企業の
三機工業。同社は、DX推進やICTを活用した新しい技術開発・研究を進めており、生産性を
高める新しい取り組みに積極的だ。
その中で、本年3月にBIMを活用して技術計算プロセスを大幅に効率化する「BIM計算連携プ
ラットフォーム」を発表した。これは、膨大な手間と時間がかかっていた高度な技術計算を自
動化するとともに、設計施工の品質を上げる新しいシステム。同社の技術や知見をもとに開発
が行われたが、この開発を支えたのは技術コンサルティングを行う、構造計画研究所である。
今回、どのような背景で新たなプラットフォーム開発に着手したのか、また開発のプロセスや
特長などを三機工業 R&Dセンターの建築設備開発部長 新村 浩一氏、建築設備開発部 建築DX
開発課 研究員の柳 一生氏にお伺いした。
品質に関わる技術計算の効率化を求めて
「弊社のR&Dセンター 建設設備開発部では、お客様向けに利便性が高いサービスや省エネル
ギーのシステムなどを開発するほか、社内での業務効率化に寄与する新技術の開発を行ってい
ます」。こう語るのは、三機工業 R&Dセンターの建築設備開発部長の新村浩一氏である。建築
設備やプラント設備に至る幅広い事業を展開する三機工業。R&Dセンターは研究活動や技術開
発を行うとともに、ICTを用いた新技術も生み出すセクションだ。その中に新村氏の率いる建設
設備開発部があり、日々新たな技術の開発に邁進している。
その一環として同部署で開発し、三機工業が本年発表したのが「BIM計算連携プラットフォー
ム」だ。
これは、BIMやCADデータの属性情報を、熱流体解析や騒音・振動、省エネルギー計算などの
建設プロジェクトに必要な技術計算ソフトウェアと自動連携する方法で、計算結果の確認まで
サポートするもの。
そして、この開発の主担当が建築DX開発課 研究員の柳一生氏である。柳氏は2018年まで設計
部に所属。その時から熱負荷計算やダクトや配管の圧損計算などの技術計算に携わる業務での
課題を感じていたという。「図面があっても、部材毎に改めて長さを追って選んだり、圧損係
数などを決めたりしながら計算ソフトへの入力をしていました。また、熱負荷の再計算なども
頻繁でした」と当時を振り返る。
同時に三機工業では毎年、開発テーマを社内募集しており、“技術計算をBIMデータを使って効
率化したい”や“熱流体解析をさらに簡易に実施したい”などの意見があり、その結果2020年度
に今回のプラットフォーム構築をテーマとして決定した。
その後、柳氏が熱流体解析計算、ダクトや配管内の圧損計算、省エネルギーの解析、騒音計算
など、社内ニーズが高い計算項目をピックアップし優先順位を設定。また、「全国の支社・支
店の現場から熱流体解析のシミュレーションをして欲しいという依頼が毎年20~30件程あり、
R&Dセンター研究員が担当します。しかし、解析業務は通常の開発業務と併行して行うため、
依頼を頂いてから解析結果をお返しするまでに、どうしても長めのリードタイムをいただくこ
とになります。そこで、現場の担当者自らシミュレーションを簡易に実施できるようになるこ
とで、R&Dへ依頼するよりも早く課題解決の合意形成につながることが期待されたため、第一
弾として熱流体解析の計算機能を実装することに決めました」と経緯を語る。
その上で、以前からやり取りがあり、技術力と多様なシステムを持つと評価する構造計画研究
所に声を掛け、プラットフォームの開発が行われた。
BIMデータと技術計算ソフトを3つのプログラムで統合連携
開発を始めて3年程かけてリリースとなったBIM計算連携プラットフォームだが、最初は具体
的な仕組みについて構造計画研究所と密に話し合ったという。柳氏は「特に従来のソフトでの
操作方法のフローをシステムに落とし込むことで、どれだけ熱流体解析の計算の手間を減らせ
るかを詰めていきました」と振り返る。
なぜならこれまで目的に応じた市販の技術計算ソフトを用いて結果を出し、それらをまとめプ
ロジェクトに関わるさまざまな仕様や計画の合意形成の根拠としていた。「このプロセスでは、
各ソフトに合わせた解析モデルを作ることが必要です。技術計算ソフトを操作し条件設定や計
算実行を行い、計算結果をさらに処理して資料として出力するという、多大な時間と労力を要
していました」と柳氏。そのため、BIMやCADデータと技術計算ソフトを統合連携させ、設計・
施工の技術計算プロセスを自動化・省力化することに重きをおいて開発を進めていったのであ
る。
さて、試行錯誤を凝らして開発したBIM計算連携プラットフォームは、大きく3つのプログラム
で構成されている。1つ目の「モデル連携プログラム」は、目的の技術計算に応じて1つひとつ
考えながらモデル化していたものを、自動化したり省力化を行う。「条件設定・計算実行用プ
ログラム」は、後段で使う技術計算ソフトにモデルを引き渡して自動で計算することを実行さ
せるもの。そして「計算結果処理用プログラム」では、計算結果を受け取り、さまざまな定型
処理を行って計算結果を出力する。これらをAPIで技術計算ソフト側と繋ぎ、技術計算連携プ
ラットフォームとの連携を最適化させた。これにより、計算の自動化を実現し、大幅な時間ロ
スや計算ミスを減らし設計の品質や施工の精度を高めることができるのだ。
BIM計算連携プラットフォームが加速されるDX
今回、具体的な操作の一例を説明してくれた。まずRebroで作成した設備BIMモデルを中間
ファイルIFCとして出力し、データをWeb上のプラットフォームにアップロードする。すると、
BIMモデルから熱流体解析用のモデルに自動変換される。また、熱流体解析の条件設定では、
K値や風量、吹き出し温度などをユーザーが簡単に設定でき、計算実行ボタンを押すと裏で熱
流体解析ソフトに自動で計算させ、出力結果を再びプラットフォームに読み込み計算結果を表
示する仕組みだ。さらに、断面で輪切りするように温度分布図を出力し、色の違いで温度を表
現したものを画像データとしてダウンロードできる。
柳氏は「このように各ソフトの操作を覚える必要はありませんし、ソフトをPCにインストール
せずにWebブラウザ上で誰もが容易に実行できる点も特長です。また画像をダウンロードする
機能は当初なかったのですが、資料に根拠として結果を貼り付けるためにこの機能を追加しま
した」とポイントを説明する。さらに温度分布図の出力で、画像のサイズをブラウザの画面に
収まるように調整するなど、細かい点にもこだわったという。
また、「IFCファイルを取り込む際、そのままでなく形状を問題のない範囲でいかにプラット
フォーム上で自動で簡易化させる点も工夫しました。このあたりは、特に構造計画研究所と密
に話し、継続的にブラッシュアップして実装を実現できました。また、実装できそうな機能を
構造計画研究所の担当者から提案してもらったり、お互いに認識を共有することで、やり取り
も早まったように思います」と柳氏。
新村氏も「社内のニーズも見ながら、構造計画研究所といろいろと相談して今後の展開につい
てもすでに検討中です。ICTや構造だけでなく環境工学分野の知識も高く、幅広い情報や提案
が出てくるのはかなり助かりました」と信頼を寄せる。
すでに、このプラットフォームはR&Dのメンバーが使い始め、順次使い方を説明しながら社内
でも広がりを見せている。柳氏は「社内で使う中でよりニーズの高い機能を拾い上げながら、
我々の知見を基に拡張や実装を続けていく予定です」と前向きだ。
そして、新村氏は「BIMに集約されていく情報をできるだけ簡便に、かつ高度に使っていく流
れはさらに進むでしょう。我々は、建築に関わる技術計算をBIMモデルと紐づけてより高い生
産性を生み出したいと考えています。同時に開発したプラットフォームを通じて社内のDXのさ
らなる加速を図り、当社の生産性や品質の向上に一層の貢献をすることを目指しています」と
力を込める。その先にはデジタルツインの活用なども見据える。さまざまな技術やシステム開
発を推進する三機工業。今後のさらなる展開が期待できるだろう。
構造計画研究所の提供するサービスの詳しい情報は、こちらのWebサイトで。