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コラム

建築BIMの時代29 BIMの理想と現実

2024.09.20

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

7月20日発の「昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ」に乗船した。通常、夜に大阪を出航、瀬戸
内海を航行し翌朝に別府に到着する定期便を、昼に大阪を出て日のあるうちに瀬戸内海を航行
し日付が変わるころに別府に到着するよう、時間をずらして運行するものだ。日中に瀬戸内海
を航海するので、明石海峡大橋や瀬戸大橋、来島海峡大橋や淡路島、小豆島を始めとした大小
さまざまな島を海から眺めることが出来る。夕暮れ時に来島海峡大橋を通過した。夕焼けを背
景にした橋に向かって進み、くぐった後は小望月の下の雄大なつり橋から遠ざかっていくとい
う船ならではの景色を堪能した豪華客船ではなくフリーなので気軽に「『東洋のエーゲ海』
と称される瀬戸内海の多島美」を楽しむことができた。
 
いよいよ来年度から、BIMから出力されたデータ(IFCとPDF)が建築確認申請に利用できる
ようになる。画期的なことだと思う。BIMは設計および施工のプロセスの中でさまざまな目的
で利用され、少しずつその用途や利用者を増やしてきた訳だが、建築確認申請という建物を建
てる前には必ず通過しなければいけないプロセスで、BIMのデータが利用できるようになるこ
との意義は大きい。BIMモデル自体が審査で利用されるという訳ではないので、「BIMで確認
申請ができる」とは言えないが、BIM活用にとって大きな一歩といえる。

国土交通省の建築BIM推進会議のHPで公開されているようにBIM活用の土台づくりが進んで
いる。その目指すところは、都市・建築のデジタル情報を活用し、さまざまな社会課題を解決
することである。BIMは都市・建築のデジタル情報をつくり出す大切な一翼を担っている。建
築の生産段階でBIMが活用され、都市・建築のデジタル情報が蓄積されていくことは喜ばしい
ことである。しかし、デジタル情報を活用するためには、つくり出すだけではなく実体の変化
に追随して、更新され続けなければならないのだが、ここに大きな課題がある。

現在、私が所属する日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)のBIM・FM研究部会では、
ファシリティマネジメントでBIMを活用するためのEIR(Employer Information
Requirements:発注者情報要件)のひな形のようなものを作ろうと議論している。その中で
「BIMの理想と現実」が明らかになっている。一つは、建築の生産段階で作成されたBIMモデ
ルは、そのままでは維持管理や運用では使えないので、使えるように調整する必要があり、
その手間やコストが想定以上であるということ。もう一つは、建物の運用段階では必ずしも
BIMモデルが更新されるわけではないということである。BIMおよびBIMを活用するさまざま
なプロセスが発展途上段階であるので、いずれこの「理想と現実」の差が小さくなると思っ
ているし、BIM・FM研究部会の活動はその差を小さくするものだと思っている。特に前者は
EIRを整備することで、手間やコストを相当削減できると考えている。しかし、BIMモデルの
更新については、今のところ妙案はない。皆さんと一緒に考えたいと思う。

建物の維持管理や運用の最前線でBIMを活用するために活動されている皆さんの経験や意見は
大変参考になり、勉強になる。竣工後のBIM活用に興味のある方は是非、JFMAのBIM・FM研
究部会にご参加いただきたい。

 夕焼けを背景にした来島海峡大橋

 夕焼けを背景にした来島海峡大橋


 小望月の下の来島海峡大橋

 小望月の下の来島海峡大橋

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長