竹をつかうということ
2024.11.14
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹
基本計画からプロジェクトに関わってきた明治記念大磯邸園が一部竣工し、近く開園する。
今回開園するのは旧大隈重信邸、旧陸奥宗光邸跡がある邸園の東側のエリアであり、2年前の
コラムで触れた四阿も同敷地内に建っているが、今回はそちらの敷地の工事が全て終わり、全
面的に開園する。
我々はこのエリアのインフォメーションとトイレを担当した。
四阿を設計した際には海水浴発祥の地である大磯という敷地の特性から、パラソルをイメージ
した休憩所としてデザインしたが、今回もその敷地の特性を考慮して、海の家等の海辺の仮設
建築物でよく使われる竹を主要素材として採用した。
自然素材を採用する際には色々と配慮が必要になるが、特に丸竹を使用する場合は元と先の太
さの違い、節の入り方、将来的な割れへの対応など、考えるべきことが格段に増える。本件に
おいては、建物の特性、キャラクターを考慮しつつ、最近では建築物に採用されることの少な
くなった女竹、一般的によく使用する真竹の晒竹を採用した。何れの材料も長尺での使用を前
提とし、かなりの数量を使用することから、調達には時間を要した。
まずは3Dモデルでシリンダーを並べて竹の割り付けを行い、バランスを確認したうえで竹の数
量を確定した。そのため、できるだけ元と先の寸法が変わらないよう、竹の取扱業者に伺って
材料選定を行ったが、その際に拝見した竹をまっすぐにするための炙りには驚かされた。藪に
生えている竹は、一見まっすぐ生えているように見えるが、実は少しねじれながら伸びていた
り、ある節から曲がっていたりしている。そういった竹を建築や什器等に使うためには、ある
程度まっすぐさせる必要があり、その際に熱を加える。機械を使って熱をかけてまっすぐさせ
るのだと思っていたが、どちらの竹も一本一本職人さんが炙りを入れてまっすぐさせていた。
竹が焦げないように最新の注意を払いながら補正を行っていく姿は当に名人芸といえ、茶室等
の繊細な空間に使われてきた竹という素材のバックグラウンドを改めて体感できた。ただ、そ
ういった材料でも竹の径には若干のばらつきが発生することから、現場において更に選別を行
い、本数が揃うように調整が行われている。これは現場で施工されている大工さんの感覚で調
整されており、出来上がったものは全く違和感なく自然な並びになっていた。ここでも職人技
が発揮されている。
また、本件では竹の耐候性を上げつつ、割れに対してどのような対策を行うかについても慎重
に検討を行っている。公共物件ということもあり、民間の茶室のように短いスパンで竹垣を入
れ替えていくような対応が難しいことから、竹にシリコン系の保護剤を塗布し、長寿命化を
図った。保護剤自体には様々な実績があるが、竹に塗布された事例はまだなかった。工事中に
暴露試験を行い、経過を確認したところでは良好であったので採用したが、こちらについては
今後も継続的に確認しながら、塗替えのタイミング等を図っていきたいと考えている。
今回の竹はほとんど片面からしか見ることが出来ない納まりになっていることから、あらかじ
め背割れを入れて想定外の割れを起こしにくいようにしており、竹を固定するビスの選定や
フェールセーフを考慮したSUSワイヤの採用等で、仮に割れが起こったとしても脱落させない
ように対応している。竹に細かい横穴を開け、ワイヤを通していくという作業も非常に緻密で、
一朝一夕で出来るものではない。
今回竣工した2棟の建物はかなり小規模なものであるが、このように様々な職人技が駆使され
た建物をぜひ多くの方にご覧頂きたい。