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コラム

3Dデータ継承の悩み

2026.06.11

パラメトリック・ボイス         隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹

ここ数年、過去に担当した物件の改修依頼を頂くことが増えている。隈事務所に入って最初に
担当した物件のお引渡しからすでに21年経っており、そういった物件の改修を担当できること
にはある種の感慨を覚える。

しかし、改めて当時のデータを紐解くと困ることが多い。大学院生の頃から社会人になって数
年目まではformZを使用してモデル検討を行い、3ds Maxとfinal Renderを使ってレンダリン
グを行っていたが検討用モデラーがRhinocerosに変わりレンダリングエンジンについても
final RenderからV-Ray、Enscape等のリアルタイムレンダラーに変わってきている。20年前
のデータを活用するとなると、この変遷を辿って、今はあまり使っていないソフトを使う必要
が出てきているが、すでにライセンスの購入を停止しているソフトがあったり、古いデータ形
式故にうまく開けない部分があったりと、当時の意図や検討の経緯を読み取ることが難しい
ケースも生じている。

ソフトウェアの世代交代は、単に使い勝手の問題にとどまらない。2D図面の場合、dwg、dxf
という業界のスタンダードが確立されており、30年前のデータでもネイティブに近い状態で活
用できる。一方、3Dデータの場合はどうしてもこういった汎用性の高いデータ形式に変換して
しまうと失われてしまう情報が多く、同じようにはいかない現状がある。マテリアルの設定や
オブジェクトの階層構造、パラメトリックな関係性といった、設計の思考プロセスが宿った情
報が、変換の過程で消失してしまう。また、3Dソフトはそれなりに高額であり、使わないソフ
トの使用権を維持し続けることが難しいという経済的な事情も発生している。個人事務所や小
規模なアトリエ系事務所にとっては、なおさら切実な問題であるといえる。

こうした流れの中で、改めてデータの長期的な保存と継承という課題が、設計業務においてい
かに重要であるかを痛感している。利用者、設計者は変わっても建物は存在し続けるというの
は古くからの事実であるが、紙で資料が保管されていた時代のほうがむしろ直感的に設計意図
を感じられて良かったということすら感じている。BIMの汎用拡張子としてのifcがより良い形
で整備され、様々な3Dソフトの変換用拡張子としてネイティブに実装されることを願わずに
はいられない。

名城 俊樹 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長