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宮大工の技とデジタル技術を融合させ
伝統建築を未来に継承へ<吉匠建築工藝>
2026.06.12
鹿島神宮や東郷神社など、日本を代表する社寺建築の修繕・復元を手がける吉匠建築工藝(東
京・八王子)は、熟練の職人技と最先端デジタル技術を融合させた「デジタル宮大工」として
注目を集めている。
同社の代表取締役社長 吉川宗太朗氏は、数年前にTrimble社の3Dレーザースキャナーを導入
し、測量から図面化までのワークフローを根本から変えた。
さらに、スキャンデータを和紙に出力する「群拓」という独自プロダクトを開発し、千年単位
でのデータ保存という壮大な構想にも挑む。デジタル技術を伝統建築に持ち込んだ
吉匠建築工藝 吉川宗太朗氏の実践について、詳しく聞いた。
20倍以上の効率化が達成された衝撃
吉匠建築工藝は、昭和50年に東京・八王子で創業。社寺建築、文化財、山車、祭り屋台、古民
家など日本の伝統建築の設計・施工・修理を主な事業としている。鹿島神宮や東郷神社などの
有名な神社仏閣から個人の古民家まで、専門技術を用いて日本の伝統建築に関する案件を幅広
く手掛ける。その使命について、吉川氏は語る。「現代的な要求や課題に対応しながら、日本
建築が持つ洗練された技術と美を次の世代に継承することが目的です。この日本の伝統建築の
設計と施工に携われるのは、幸せなことだと思っています」。
社寺建築で扱う部材は複雑な形状が多く、市販の道具では対応できないことも多い。例えば寺
院の丸い柱を仕上げるための丸鉋は、柱の形状に合わせて台と刃のRを一から仕立てる必要が
あるという。道具を作るところから始まる、手仕事の世界だ。一方で吉川氏は早くからデジタ
ルへの関心も持ち続け、ニコン・トリンブルの招待でラスベガス開催のユーザー・カンファレ
ンス & オフサイト・エキスポ “Trimble Dimensions”に5年連続登壇するなど、国際的な発信
も続ける「デジタル宮大工」の第一人者である。

株式会社吉匠建築工藝 代表取締役社長 吉川 宗太朗 氏
吉川氏は約25年前にインテリアデザイナーというデザインソフトを使用していたが、20年前
から、SketchUpを使用しているパワーユーザーだ。そして、「4年前に3Dレーザースキャ
ナーを導入したいと思い、YouTubeを閲覧していたところ、なんだかすごそうだと見ていると、
ニコン・トリンブルという社名を見つけました。SketchUpがトリンブルのソフトなので親近
感を感じて、すぐその日にアポイントもなくニコン・トリンブルの本社に駆けつけました」と
振り返る。そして、「Trimble X7」のデモを見た瞬間、「目の前で空間が一気に3D化される」
ことへの衝撃を受け、その場で購入を決断。すぐに現場に導入した。
最初の本格使用は、吉匠建築工藝の地元の山上に鎮座する八王子神社の改修工事であった。
周囲を一度解体してつくり直す工事のため、精密な現況計測が欠かせない。しかし、山頂まで
従来の測量機材を運んで手計測を繰り返すのは、膨大な手間と時間を要する。「社寺建築は複
雑な形状をしているので、現況調査での測量期間がとても長くかかります。それが初日の約
5時間でだいたい終わり、正確な形状とすべての寸法が手に入ったのです。本当に驚きました」
と吉川氏は語る。

Trimble X7による3Dスキャンデータ
その後は「Trimble X7」での測量が定着し、大規模な社寺であっても測量は6〜7時間程度で
完了するのが一般的になった。「今まで1ヵ月かかっていた作業が6〜7時間で終わってしまい
ます。時間でみると、20倍以上の効率化が実現しています。これは革命です」と吉川氏は言
いきる。精度についても「人が測るよりはるかに正確」といい、予想を上回る成果が得られた
という。小屋裏や床下など、従来の計測方法では目視さえ困難であった箇所も、安全かつ高精
度に測量できるようになった。

Trimble X7によって取得した点群データと3Dモデリングデータの重ね合わせ
SketchUpとの連携が生む一貫ワークフロー
「最大のメリットはスピードです。この3Dスキャナーを導入して時間が手に入りました。手に
入った時間は他の作業に回せますし、社員にいろいろな形で還元できます」と吉川氏は強調す
る。効率化の恩恵は、計測作業にとどまらない。「事業を進めるかどうするか、という判断材
料を施主と早期に共有できるようになった」と吉川氏は指摘する。正確な測量にもとづいた見
積もり概算を早く出すことができるため、発注判断までのリードタイムが劇的に縮まったので
ある。もし受注に至らなかったとしても、必要な時間とコストは最小限に抑えられる。そして、
受注につながる場合も、見積もり段階の初回訪問で工事に耐えうる密度のデータを取得してお
くことで、再訪し追加で計測する手間やコストを丸ごとなくすことができるという。
また、先進技術の活用は施主からの信頼にも直結している。「最先端の3Dスキャナーのような
先進技術を使いこなしている会社ということで、お客様の安心感にもつながってきています。
打ち合わせもデータをもとに展開することで、問題がある箇所の把握を共有でき、既存の活か
し方のアイデアがお互いから出るなど、新しい見方が可能になりました」とメリットを挙げる。

Trimble X7を用いてスキャン中の吉川氏
もともと吉川氏は以前から社寺建築のデジタルツインを意識しており、現況データをそのまま
設計図に反映したいと考えていた。スキャナーで得た点群データは、Trimble RealWorksで処
理した後、以前から使用しているSketchUpへと引き継がれる。吉川氏は、現況スキャン
→SketchUpでの3Dモデル化→SketchUp Proの付属するアプリケーション「LayOut(レイア
ウト)」での図面出力というフローを確立。モデルから断面を切り出して寸法を入れた図面を
即座に生成し、現場での設計変更にも素早く対応する。

SketchUpによるモデリングの例
特筆すべきは、吉匠建築工藝の大工もSketchUpを「見るだけ」ではなく、自ら操作する体制に
あることだ。「閲覧だけでは設計変更に追従できなくなるので、使う前提で扱ってもらってい
ます」。社員の半数以上がSketchUpを扱い、腕利きのメンバーがチームを牽引する。
「デジタル技術と社寺建築の職人は結びつかないとよく思われますが、実際に使ってみると操
作自体がとても簡単なので、若手は教えるとすぐに取り掛かることができます」という。
さらに吉川氏は、AIを活用してSketchUp用の自作プラグイン開発にも乗り出している。オブ
ジェクトのXYZ座標・数量・ビュー別集計をExcelに書き出すプラグインがその一例で、見積も
り・加工指示・工程管理へのデータ連携を効率化している。
デジタルデータを千年先に届ける挑戦
一方で吉川氏は、デジタルデータの長期保存に問題意識を持ち続けてきた。「一昔前の記録メ
ディアのデータを読み込むパソコンさえなくなり、データが失われる危惧を抱いています」。
しかも、復原工事では図面が不足していると推定に頼る場面が多く、苦労する。
そこで吉川氏が考案したのが「群拓(ぐんたく)」だ。点群の「群」と魚拓の「拓」を組み合
わせた造語で、取得した3Dスキャンデータを和紙などのアナログ媒体に出力したプロダクトを
指す。「自分が残したいのは何十年単位ではなく、何百年、何千年という単位です。それであ
れば、保存性と格調を兼ね備えた和紙で残したい」。すでに商標登録と特許取得を済ませ、現
在普及活動を進めている。吉川氏はさらに、神社を訪れた参拝者が御朱印のように「群拓の写
し」を受け取る新しい参拝体験も構想している」。

群拓:那珂湊天満宮本殿現況保存図面
3Dスキャンは、伝統建築の姿をありのままに残す「生きた図面」として実物の形状まで忠実に
記録するため、修復だけでなく継承や研究にも有用であると吉川氏は考えている。「日本の伝
統建築を先進の技術でデジタルデータ化し、次世代に残していけるのは意義のある仕事です」。
スキャンから図面化を高速化するツール、維持管理にも役立つサービス、そして、群拓による
千年保存。伝統の技と最先端デジタルが融合した吉川氏の挑戦は、日本の建築文化を未来へ橋
渡しするプロジェクトとして、着実に広がり続けている。
上記の3Dレーザースキャナーの最新製品情報はこちらのWebサイトで。
※本事例紹介に登場する「Trimble X7」は、機能向上モデル「Trimble X9」へ移行しました。

























