建築BIMの時代35
ファシリティマネジメントのためのEIR
2025.09.17
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
8月16日(土)、自宅近くで開催されていた「士郎正宗の世界展 〜『攻殻機動隊』と創造の
軌跡〜」を訪れた。今年のArchi Future 基調セッションでは、映画監督の押井守氏を迎え「あ
の頃のSFアニメの未来に我々は立っているか」というテーマが掲げられることもあり、気に
なって覗いてみたのである。私は「攻殻機動隊」はあまり詳しくなくて、士郎正宗氏について
もよく知らなかった。それでも同じ昭和36年生まれ、今年で64歳と知り、勝手に親近感を覚
える。今年が昭和100年だと実感し、頭には直角三角形が浮かんだ。作品に触れるのは初めて
であったが、SFの想像力と先見性の力を改めて感じ取る展示であった。特に円城塔氏による
論考「ハイパーホロニクスとしての士郎正宗」は、士郎作品の世界観を的確に言い表しており
大いに参考になった。この展覧会は10月5日(日)まで大阪・心斎橋PARCOで開催中である
ので、興味のある方は足を運んでいただきたい。
私が部会長を務める日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)のBIM・FM研究部会で企
画・執筆を進めていた『ファシリティマネジメントのためのBIM要件定義 EIR(発注者情報
要件)作成ガイド』が、9月16日に発行されることになった。前回のコラムでも触れたよう
に、設計・施工段階におけるBIM活用は着実に進んでいるが、竣工後の運用や維持管理におけ
る活用は十分とは言い難い。その理由のひとつが、建物を「使う側」が必要とする情報と、建
物を「つくる側」が生成する情報の間に大きなギャップがある点にある。
設計者や施工者が作成するBIMデータのうち、FMに有用な情報だけを効率的に引き継ぐため
には、オーナーやFM担当者自身が「どのような情報を求めるのか」を明確にし、それを相手
に伝える必要がある。ここで活躍するのがEIR(Employer’s Information Requirements/発
注者情報要件)である。EIRとは、発注者がBIMにより取得したい情報を体系的に示したもの
であり、それに応じて設計・施工側が作成するのがBEP(BIM実行計画)である。両者の連携
によって、BIMのデータは建築ライフサイクル全体で活かされることになる。
今回のガイドでは、EIRの考え方や構成要素、作成手順を実務目線で整理した。さらに、FM
の観点からデジタル情報を活用することの新しい可能性についても提示している。紙版・電子
版の両形式で刊行し、価格はともに税込3,300円である。BIM・FM研究部会のメンバーが総力
を挙げて執筆した一冊である。BIMやFMの実務に携わる方々に手に取っていただき、それぞ
れの業務で活用していただきたい。
士郎正宗展
「ファシリティマネジメントのためのBIM要件定義 EIR(発注者情報要件)
作成ガイド」表紙