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コラム

BIMモデルの属性と思いやり

2016.06.21

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

BIMが広く使われ始めていると実感する今日この頃だが、その利用が“Building Model”に留まっ
ていて、“Information Modeling”の活用はこれから拡大するぞ!、と思っている方は小生だけで
はないだろう。しかし、この“Information”をどう考えれば良いのかは、そう簡単に結論付けら
れない気がしている。例えば、National BIM Standard(NBS)のNational BIM Library(NBL
からダウンロードした「窓」のオブジェクトを見ると、148項目の属性が定義され、その内112
項目に情報が入力されていた。それらが何らかの業務に対して十分なのか不足なのか、十分に吟
味して整理する必要がある。その検討の担い手として期待されているのが、BIMライブラリー
コンソーシアム
であろう。

少し前に、小生の研究室で住宅の移築プロジェクトのBIMモデル構築を支援した。このプロジェ
クトでは、再利用する部材と新規の部材が混在し、さらにモデルの構築中に設計変更が生じたり
して、少々ややこしいものであった。この支援では、BIMソフトの集計機能を用いて再利用率を
算出するという目的があったため、全てのオブジェクトに再利用・新規・変更というコメントを
属性として入力していた。支援も終盤に近付いたころ、構築したBIMモデルのオブジェクトを再
利用・新規・変更で色分けしたいという話が急に持ち上がったが、我々は、入力していた属性を
用いて楽々と対処できた。この時ばかりは属性を入れておいて良かったと胸をなでおろした。

確かに、モデリングしながら属性を追記するのは面倒だ。しかし、一度入れた属性でいくつもの
リクエストに応えることができたとしたら「入れておいて良かった」と思うだろう。属性を入れ
る人と使う人が異なる場合でも、使った人から感謝されれば「次も入れよう」と嬉しくなるので
はないだろうか。建築生産プロセスの各段階で、技術者は様々なことを検討したり考えたりする。
その結果がメモのように属性に入力されていれば、沢山のありがたいことに出会えそうである。

オブジェクトに予め埋め込まれている属性の標準化は、色々な業務の効率化を期待できる。それ
に加え、アイデアベースで標準化できないプラスアルファの属性が役に立つ場面は、思いのほか
多いかもしれない。では、プラスアルファの属性とは何か、私は「思いやり」ではないかと考え
ている。この情報を入れておいたらきっと便利に使えることがあるだろう、恩恵を授かった人は
感謝しよう、こうした日本人らしい献身的な思いやりが、建築産業の生産性向上に僅かながらも
寄与するのではないかと夢想している。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授