建築の情報教育
2017.09.21
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
建築学会の大会に参加した。今年の会場は広島工業大学。広島の中心部からは少し離れてい
るが、キャンパスからは瀬戸内海を望むことができ、校舎・施設も充実していて素晴らしい
環境だった。会場へは広島電鉄(広電)で通った。JRとシャトルバスを利用する方が所要時
間は短いが、市街地を穏やかに走る路面電車に魅力を感じ、少し早起きして広電を利用した。
さながら広島の街をめぐる小旅行あった。Wikipediaによると日本で路面電車が営業している
都市は札幌市、函館市、東京都、富山市、高岡市・射水市、豊橋市、大津市、大阪市・堺市、
岡山市、広島市、高知市・南国市・吾川郡いの町、松山市、長崎市、熊本市、鹿児島市との
ことである。LRT(Light Rail Transit)は世界的に再評価されているが、モータリゼーショ
ンと高度成長期を生き残った日本の路面電車も、単に市民の足としてだけではなく、都市に
魅力を高める装置として立派に機能していると感じた。
大会に参加した成果は情報システム技術部門の研究協議会「建築学びのイノベーション
-情報がつなぐ教育の未来-」であった。情報技術の活用によって「進化している建築の学
びのイノベーションを紹介」し、「建築の学びの仕組みと変化」とその変化がもたらす影響
を示そうという企画である。熊本大学の大西先生が中心となってまとめられ、建築教育の中
で情報教育に積極的に取り組んでいる先生方やコラム仲間の豊田さんと竹中さんがパネリス
トとして発表されていた。皆さんの発表と議論は、示唆に富み共感する点も多かった。現在
の建築教育への危機感とそれを変えていこうとしている様子、その成果が実を結びつつある
ことがよく分かった。中でも千葉大学の平沢先生の取り組みが印象に残った。平沢研究室の
研究成果はさまざまなところで発表されているので、ご存知の方も多いと思う。特に、素晴
らしいと思ったのは、建築学科の学部3年後期に「建築情報処理」という講義でC言語を教
えているということであった。教養課程でも情報処理やプログラミングについて学ぶ機会は
あるだろうが、専門課程で建築を学んでいるときに、あらためて情報処理やプログラミング
を学ぶ価値は大きい。平沢研究室に進まない学生にとっても、この講義で学んだことは大き
な基礎力になるだろう。将来が楽しみである。もう一つの成果は、広島工業大学のデジタル・
ファブリケーションラボを見学できたことである。杉田宗先生が中心となって系統だった情
報教育が実践されていることが分かった。ここから育つ人材にも期待が持てる。
今年のArchi Futureのセミナーでは、長島氏(インフォマティクス)・木内氏(東京大学)・
石澤氏(竹中工務店)とご一緒させていただく。デジタル・デザイン、デジタル・ファブリ
ケーションで最も活躍している世代は、なぜか30代後半である。黄金世代といわれている。
木内氏や石澤氏はこの黄金世代の代表である。一方、長島氏は建築でのコンピュータ利用の
草分け的存在、パイオニアである。ご自身がコラムでお書きになっているように、建築の中
で情報を学ぶ道を自ら切り拓いてこられた。私は彼らのほぼ中間の世代である。学んだ時代、
環境は異なるが建築と情報を共通言語に議論したいと思う。パイオニアはかつてどんな夢を
思い描いたのか、それはどこまで実現しているのか、黄金世代はどんな未来を見ているのか、
建築の情報教育を考える上でもとても興味がある。建築教育の場で系統だった情報教育がな
されている大学はそう多くない。さまざま立場の方にご参加いただき、建築の情報教育につ
いて考える機会として欲しい。