「建築情報学会」設立に向けた“キックオフ公開会議”開催レポート
2017.11.22
「建築情報学会」キックオフ公開企画会議が、11月17日(金)にImpact HUB Tokyo イベント
スペース(東京・目黒区)で開催された。
「建築情報学」は、単に情報通信技術を応用して建築学の課題を解くのではなく、「建築」を
情報体系の広がりの先に、より広義に再定義する試みであり、その建設的展開のためのプラッ
トフォームとなる「建築情報学会」の立ち上げを目指すものだ。
今回の会議は、この建設的展開のためのプラットフォームとなる「建築情報学会」の立ち上げ
に向けて、キックオフグループのメンバーが中心となり、専門家や一般から広く意見を募るた
め、さまざまな立場からの建設的討論の機会として設定した。
キックオフグループのメンバーは、池田靖史氏(慶應義塾大学大学院SFC 教授)、
豊田啓介氏(ノイズ パートナー)、角田大輔氏(日建設計 デジタルデザインラボ 室長代理)、
木内俊克氏(東京大学大学院 助教)、新井崇俊氏(東京大学生産技術研究所 特任助教)、
堀川淳一郎氏(Orange Jellies)、石澤宰氏(竹中工務店 東京本店設計部 課長)の7名。
今回の公開企画会議には、松村秀一氏(東京大学大学院 教授/一般社団法人HEAD研究会副理
事長) をゲストとして招聘し、池田靖史氏(慶應義塾大学大学院)、豊田啓介氏(ノイズ)、
角田大輔氏(日建設計)、木内俊克氏(東京大学大学院)、石澤宰氏(竹中工務店)の6名が登壇し
た。そして、会場には、建築業界をはじめ、異分野の業界も含む建築情報学に興味を持つ参加
者が多数集まり、定員100名を大幅に超え、立ち見も出る盛況ぶりで会場全体が熱気に溢れて
いた。
最初に、豊田氏から簡潔にキックオフ公開企画会議の主旨や概要の説明がされたあと、キック
オフグループのメンバーのトップである池田氏の「建築情報学会の設立に向けて、登壇者と参
加者とともに、オープンな議論をしていきたい」との挨拶により、会議はスタートした。
会議は、まずキックオフグループのメンバーである角田氏から、石澤氏、木内氏、そして
池田氏の順番で、それぞれが異なった立場や視点から考える「建築情報学の価値」についての
発表がされた。ここでは、大手組織設計事務所、大手ゼネコン、大学というそれぞれの立場か
ら、それぞれの視点で捉えた建築情報学についての考えが話された。
4人の発表を受けて、ご意見番の立場でゲストとして招かれた松村秀一氏から、「そもそも建
築情報学という名前で、建築という枠を作ってしまうのはどうなのか?」などといった、議論
を巻き起こすような質問が投げかけられた。
それに応える形で、それまで進行役に徹していた豊田氏が、建築情報学というものが必要だと
考え始めたきっかけや、日本の建築業界の現状と将来を踏まえた上での建築情報学が不可欠と
なる今後の建築教育に対する想いなどを語った。続いて池田氏が、「建築とは、人間と人間が
創る人工物のことで、その関係に“情報”が入ってくることで、社会や我々の意識が変わりつつ
ある。そのため、何が建築であり、何が建築ではないのかということを再定義する必要性が高
まっている」と、池田氏も「建築情報学」というフレームの重要性を語った。
豊田氏と池田氏の発言を受けて、新たに松村氏から「既存の業界構造を変えないことが前提と
なった情報化の動きよりも、情報技術によって“建築が新しく生まれ変わる”など、未来的なお
もしろい方向性はあるのか?」という問題提起がなされた。
それに対して、豊田氏をはじめ、大手組織設計事務所の立場から角田氏、ゼネコンとしての立
場から石澤氏、アカデミックでは池田氏が発言。「これまでの建物は、その価値を正しく評価
する指標を持っていなかった。建築情報学ではさまざまな指標によって、建物に対しての価値
を評価して、価値を高めることが可能になるはずだ」や、「建築界は、建築の価値をさらに高
めるために、いままでのフレームから脱線する必要がある。できそうなことだけに取り組むの
ではなく、わからないけどやってみるという文化が欠けているので、そのスタンスも重要だ」、
「建築関係者も、今後は情報技術を身に着けることが大切で、そのさらなる促進の意味でも建
築情報学会を作ることは重要である」などの意見が語られ、建築情報学の必要性に対する議論
が深まっていった。
また、参加者からの質問に対して、登壇者たちが回答する時間帯も設けられた。参加者からは、
自分が取り組んでいることが建築情報学会の範疇に入るのかという質問が複数人からあり、建
築情報学への関心の高さが伺われた。その各質問者に対し、「これまでの建築学の取り組みに
は納まらない幅広い取り組みが建築情報学会には含まれるので、質問者の取り組みも含まれる」
とそれぞれに対して回答され、建築情報学の奥の深さが垣間見えた。
最後に、今回の会議のまとめとして、豊田氏から2018年2月から隔月で全6回に渡り、テーマ別
に分科会を開催していく予定であることが発表された。来年は、建築情報学会の立ち上げに向
けての積み上げ期間と想定し、さまざまな公開議論の場を設けるとともに、多様な立場・意見
の人々の参加を促しつつ、新しい社会のための「建築情報学」の早期構築と学会の立ち上げに
向けての活動を本格化していくという。
建築情報学会キックオフグループは、暫定的なボランティアグループであり、今後は、まだ多
数あるカバーのできていない、設備、環境、構造、歴史、メディア、ファブリケーション、数
学などのサブカテゴリーごとの分科会の活動についても活性化していきたいとのことだ。
建築情報学会のWebサイトの公開も予定しており、Webサイトがオープンしたあと、広く情報
発信を始めることや分科会のテーマ募集なども行っていく予定だという。
すでに、このキックオフ公開会議の開催直後からTwitterの#建築情報学会で、すでに熱い議論
が交わされているので、ぜひ覗いてみてほしい。
会議は、2時間半の予定で途中に休憩も入れる予定だったが、議論が白熱し休憩はカットされ、
結局予定を20分オーバーして終了した。その間、帰る人は皆無で、会議が終了後も何十分間も
登壇者と参加者、参加者同士などで、熱い議論が続いていた。今後の建築情報学会への注目は
ますます高まっていきそうだ。