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コラム

物理的なオフィスではない、PC内に情報の泉を

2018.08.09

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

ICT時代の働き方とは何か、時代に沿った社会から求められる働き方とは何か、この議論は
毎日耳する話題です。「大きなキッチンがあるオフィスがいい」「おいしいコーヒーが飲み
たい」「早く帰って趣味に没頭したい」「カフェのような会話が生まれるようなオフィスレ
イアウトにしたい」等、オフィスの在り方について色々な意見を耳にします。BIMが本当の
意味で取り入れられて、「効率化」が進めば「品質向上」と共に「働き方改革」も達成され
るだろうと耳障りのいい話も聞こえてきます。

しかしどうでしょうか「Facebook」の例を挙げる必要もなく従来のボーダーであった
「年齢職歴国籍性別国境」を超えてICT技術で「サービス」が作れます。それによっ
て新しい「ビジネス」を生み出すことも可能なことも明らかです。今やもう懐かしい携帯
メールなどの利用が無くなり、メッセージ題目をつけるという習慣もなくなりました。

BIMやコンピュテーショナルデザインを取りいれる時の最大の障壁は、組織を構成する上で
構築された「ボーダー」の存在です情報ベースに取り扱うこの分野は基本的にボーダーレ
スと深く関わりがあります例えば14歳の天才がオープンになったBIMデータからAIをつ
くりビルを一棟設計してしまうことも技術的にはそれほど非現実的ではありません。
「14歳が建物を設計する」この言葉を聞いて不快に感じた方も多くいるかもしれません
れが「心のボーダー」です。ここで不快になった方は、その気持ちを抱きつつAIをつくる工
程を思い浮かべてみてください。この少年は、どの設計が良いと判断されるかその評価基準
をつくるために各専門の経験豊富な技術者からヒアリングを繰り返し、彼らの業務を数値化
しシステムにすることで、建物を作り上げたというストーリーを思い浮かべてください。そ
うすると、どうでしょうか。この少年に対する「ボーダー」は薄れ、「各専門の経験豊富な
技術者」に対して何を基準に経験豊富とするのかと「心のボーダー」の矛先が変わります。
話は移りますが、ロボット工学専門の方からお話を伺ったときに印象的だった言葉がありま
す。
 
「ロボットにある業務を学ばせるためにはその業務のエキスパートを呼ばないといけない
職人であろうと、技術者であろうと、自動化やAIはその業務を一番よく知る人がいないと自
動化やAIを作る人、ロボットをつくる人が最良でも決して良いロボットは完成しない。」
それはロボット工学に限らず、BIMやコンピュテーショナルデザインも同じです。ある業務
の効率化を図るならその業務のエキスパートから方法を学びシステムにするのが一番です
専門性のある人たちを検索し、直接個人へ仕事を頼める時代です。

先端技術を担うプレーヤーは従来の階層構造では能力を発揮することができません例えば
コミュニケーション向上のためにBIM上で意見交換のチャットができるシステム開発がなさ
れ企業がそれを採用したとします。しかし、その意見を評価する役割であるBIMの管理人及
びプロジェクトマネージャーがチャットに参加しているかどうかで効果的かどうかが変わり
ます。判断を下す立場の人がチャットに参加せず、礼儀を重んじるあまり議題をまとめ資料
作成してから会議にかけるという従来の同意形成の在り方をそのまま採用するとシステム導
入したのにも関わらずコミュニケーションは改善されません。会議時間の短縮どころか資料
作りの時間が増え、仕事が増えてしまいます。そうではなく、BIMの管理人もプロジェクト
マネージャーもこのチャットに加わるというフラットなスタイルに変えないと、このシステ
ムの本来の目的が達成されません。このように何かを新しい方法を取り入れるということは、
何か古い方法を捨てることでもあります。ICT技術を業務に取り込むということは、構造背
景も大きく起因するため大きな革命ともいえます。

BIMやコンピュテーショナルデザインは日進月歩で常に触れているプレーヤーが一番技術の
内容を知っています。プレーヤーは調査や調達部隊とは異なります自らが業務をこなす上
で問題に直面し、その問題解決の手段を技術として蓄えます。その行為を通して技術は人に
宿ります。技術を宿した人をいかに育てるか、どのようにその宿した技術を他の人へと受け
継ぐのか、これは先端技術でも一般的な教育の話でも全く同じです。BIMやコンピュテー
ショナルデザインのプレーヤーになりたい人を「ボーダーレス」に受け入れるその意識革
命が必要です。それは、信頼関係を構築する前の「信用」関係性が構築できるかという問題
です。新しい技術に対して、新な試みをする際は、誰も皆「未経験」です誰かの試みをな
ぞった時点で二番煎じだからです。「未経験」を「信用」して任せてみる、この姿勢が先端
技術の分野で一番重要なのかもしれません。そのような寛容な姿勢で任せてみると、自ずと
物理的なオフィス以外のPC内環境に潤いが溢れることでしょう。先端の技術者を集めたいの
ならば、PC内の情報の泉をいかに作れるかです。

社会が変われば、働き方が変わります。内部が変われば外見であるオフィスの様相も自然と
変わります。確実に社会は動き始めています。組織の大小に関わらず、管理ではなく信用を
築ける組織がこれからは強い組織なのかもしれません。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役