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コラム

RobArch2018 コミュニティの力と
コラボレーションから生まれる熱量

2018.09.27

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

9月9日から15日まで母校のスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)で開催された
「ROB|ARCH 2018 Robotic Fabrication in Architecture, Art, and Design」(建築アー
デザインにおけるロボット施工)というカンフレンスに参加してきました35か国から
合計400人以上が参加し5種類の1日限りのプレワクショップ11種類の3日間に及ぶワ
クショップが開催され、40個のプレゼンテーションが聴講できる6日間の大イベントでした。

私自身は、昨年の夏、慶應義塾大学SFCで主催したインシヴオープンワークショップを基
にした「Chainsawed wood joinery」(チェンソで継手仕口をつくる)というテーマで
ワークショップリーダー(講師)を務めることができました。

パラメトリックデザインとロボット施工、この組み合わせに魅了されたのは遡ること7年前、
ワシントン大学留学中にゲストレクチャーシリーズの中でETHZのMatthias Kohler氏のプレ
ゼンテーションの聴講がきっかけでした。当時の私は、初めてパラメトリックデザインやデ
ジタルファブリケーションという概念に触れ始めた頃でものづくりの民主化という意味で
DIY的な何か小さなスケール、例えば家具や小さなパビリオンなどがこの手法で実現でき
そうだと感じていましたが、果たして一般的な建築スケールではどのような文脈なのか
ビジョンが見えずにいました。なぜなら複雑な形状をジオメトリデザインしその各パー
ツをレーザーカッターやCNC切削機で切り出したものの、その組み立て作業が非常に複雑
で労力がかかり、設計課題ですら部材は切り出したが模型が完成しなかった苦い経験もあっ
たからです一握りのスターアーキテクトが設計した特殊な建築だけに適応できる手法とい
う印象すらありましたしかしMatthias Kohler氏のレクチャはそのような私の固定観念
を壊しました。発表された動画では産業用ロボットやドローンといったロボットたちが無数
のパーツを疲れることなくかつ正確に複雑な形状を組み立てていく光景は非常に衝撃を受け
ました。その生産性を併せ持ったパラメトリックデザインに当時かなり衝撃を受けました。
その姿に未来像としてのデザインビルドに対して憧れを強く抱きました。

「新しいデザイン手法や新しい生産技術に何の意味があるのか」これは良く問われる質問で
ある。「複雑性は必要なのか」これも同義の質問だと捉えます。それに対しての意見は、
「どの時代でも一般的な建物という概念は常に変わります」。建物はその時代に生きる人々
が生み出す限り、時代を映し出します。人類の文化的活動の中で技術が発展し続ける限り、
一般と呼ばれる建物を変わり続ける、それは自明です。パラダイムシフトだといわれている
今、どのような形であれ一般的と呼ばれる建物も変わるでしょう。いまや見慣れたそびえ建
つ高層ビル群も以前は一般的ではなかったのと同じように。

インターネット通信、データベース、AI、その時代背景の中で建物をデザインする人は誰
なのか、アーキテクトは存在し続けるのか。その未来はまだわかりません。ただし、アーキ
テクトとしての教育を受けてきた立場から、未来の建物もアーキテクトのデザインの対象と
して存在してほしいという自分の欲望としての未来像がありますただし確実に言えるのは
例えば優れた50~60歳代のアーキテクトや技術者がいたとして、彼らと同じような努力を
すれば同じ成功を得られるかというとそうではないということ。彼ら自身も20~30年前に
その時代に応じた努力をしてきた結果、優れた技能を手に入れたのです。

ちなみにワークショップでは講師を担当しましたがどのワークショップ参加者よりも私が優
れた能力があるかというとそうではありません。このカンファレンスの参加者は、世界でも
トップクラスの人達ばかりでした。講師(Tutor)ではなく、リーダー(Leader)という単
語を使われていたのも参加者も講師もお互いを刺激し合う関係性、各自の技術の優劣性を表
現しないことを示しています。誰もが皆、探求心や好奇心を持ち学び続ける、それを共有す
ることでコミュニティとともに未来をつくる、そういう精神を持った人たちが集まっていま
した。技術が高度化したことで個々の技能がより専門的になり細分化されました。しかし、
その個々が得意な技能を通してお互いに補いながらコラボレーションしています。その実現
がなぜできるのか、現在はコラボレーションをするためのコミュニケーション手段が整って
いるのです。今回、私たちのワークショップは3人で教えましたが3人とも所属も住んでいる
国も異なり準備は直前までほとんど遠隔で行いクショップ前日にようやく3人が顔を
合わせるというものでした。それでも上手く準備ができたのは、テレビ電話に加え、ビジネ
ス用のチャットサービスなど、ファイル同期など、今のICT技術の恩恵だと確信していま
す。もちろん、同じプログラミング言語や3DCADを使っていたことは言及する必要もな
いでしょう。最新のコミュニケーション手段を使わず、従来のメールだけの打ち合わせだと
したらスピード感が合わず、確実に実現できていないでしょう。

もしかしたら、デジタルファブリケーションを含むロボット施工が一般的になることはない
のかもしれません。ただ、私にはこの未来があまりにも説得力がありすぎますし、パラメト
リックデザインの優位性を示す一番の効力だと信じています。カンファレンスでは、現存の
生産技術を効率化、デジタル化するのではなく、道具が変わったことで全く新しいデザイン
を創造していこうという研究者、探求者たちのエネルギーが凄まじい熱量がありました。未
来を想い描くのは誰だ、自分たち自身だ、こうした強い意志が感じられました。この素晴ら
しいコミュニティに少しでも貢献することができたことは非常に感慨深いものでした。パラ
メトリックデザイン、コンピュテーショナルデザインを担う人の空席の数は少ないです。な
ぜならたった一人の優秀な人が、初級者の何十倍、いや何百倍もの速度で仕事をすることが
当たり前だからです。ただ空席を探すのではなく、とにかく長く続ける、楽しむことを目標
に得意を伸ばすそんな構え方が良いのなのではないかと強く感じました。続ける勇気、それ
が私自身に今一番必要なもので今回一番の収穫でした。

 RobArch2018の会場風景
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のRobArch2018のinstagramへ
  リンクします。

 RobArch2018の会場風景
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のRobArch2018のinstagramへ
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 workshopの様子

 workshopの様子

石津 優子 氏

GEL 代表取締役