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コラム

BIMとソフトウェア・イノベーション

2018.11.15

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

BIG-Data Analysisで建物の光熱費を推測できるプログラムがあったとしよう*1。そのプログ
ラムは、空間を表すモデルさえあれば、屋根、外壁、開口部、設備機器、創エネ装置など、エ
ネルギー消費に関わるさまざまなビルディング・エレメントの性能をパラメトリックに変動さ
せてモンテカルロ・シミュレーション的に最善な組み合わせを提示することができるだろう。
それが設計に対する要件定義となるならば、設計者はスペックインの段階でそのプログラムが
示すビルディング・エレメントの性能に見合う資機材を選択すれば良いことになる。コスト面
でも同様に、調達価格のデータを蓄積しておけば、それらを統計処理した単価データと基本計
画段階のBIMモデルや要求性能の情報を用い、地下躯体、地上躯体、内装、設備、装置・機械、
外構などの部分に対するコスト・プランニングのシミュレーションが可能となる。その結果を
目標価格として要件定義に加えれば、部分を構成するビルディング・エレメントの仕様を定義
する設計行為はVEと表裏の関係になろう。

大量の蓄積データを活用する時代では、“計画思考”の設計が可能となる。今までのシミュレー
ションは、設計の結果をCFDや見積りで確認していたが、BIG-Dataパラダイムでは、性能を
評価指標としたシミュレーションを経由して要件定義を纏めてから設計業務を委託するルート
が開けてくる。例えば、光熱費や建設費の目標からビルディング・エレメントの性能を逆算的
に推測できる。推測結果にあるレンジを持たせて自由度を担保すれば、そこから先の設計が設
計者の力量を発揮するところとなる。このような勘所を押さえることを誰でもできるようにす
るプログラムの開発がベンチャー主体で行われていくことを、建設業界における“ソフトウェ
ア・イノベーション”と呼んでも良いかもしれない。

こうした“計画思考”のプロセスと、建物の部分別分類体系として米国で利用されている
UniFormatの構造は、似ているところが案外とある。UniFormatのLevel 2に列記されている、
地下躯体、地上躯体、内装、設備、装置・機械、外構などに対してシミュレーションし、
Level 3のビルディング・エレメントに対する性能的な要件を提示し、ビルディング・エレメン
トの構成を示すLevel 4に対する資機材の種類の選択は、設計者に一存される。UniFormatの
Level 4とBIMオブジェクトが対応すると考えれば、“計画思考”のプロセスとBIMは、性能仕様
の部分においてIFC Common Property Setsの属性で強力なつながりを見せるのかもしれない

米国の設計事務所では、実務でUniFormatを利用しているという例をあまり聞かないが、コン
ポーネント型のBIMオブジェクトであろうと、フリーフォームのようなBIMオブジェクトであ
ろうと、それがどこに位置するのかを建築の言葉で仕分けるためにUniFormatがあると考えれ
ばよい。人は、図面を見ればその建具がどこについているかを認識できるし、AW(アルミ建
具)は外装資材、WD(木製ドア)は内装資材というように、略称を見ただけでそれが取り付
く“場”を経験則で推測できる。しかし、そうした“場”の判断を自動でBIMソフトウェアにさせ
るにはひと手間かかる。BIMソフトウェアは「建具は壁に付く」ことを認識しても、その壁が
外壁(Shell)か内壁(Interior)かの区別は、その情報を誰かが壁か窓に与えなければ認識で
きない。言い換えれば、そうした簡単な情報を与えることがBIMの標準として建築業界に広ま
れば、建設プロジェクトの“計画思考”への変革をサポートするソフトウェア・イノベーション
が期待できる。
 
*1 例えば、Whole-Building Energy Modelingなどと呼ばれている分野。


志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授