BIMデータを手軽に自動で変換しAR/MRを
身近にする「mixpace」<SB C&S>
2019.04.15
BIMデータや3D CADデータをアップロードするとAR/MR向けにデータを自動変換、クラウド
ストレージのデータをダウンロードしHoloLensで3D化できる建設業・製造業向け可視化ソ
リューション「mixpace(ミクスペース)」が2月にリリースされた。開発の背景から建設業
に重点を置くようになった経緯、サービスの詳細に加え、近い将来の活用方法まで、開発者の
一人であるSB C&S(旧ソフトバンク コマース&サービス)の遠藤文昭氏に伺った。
建設業を主軸に再度開発し機能を向上
2016年3月に米国とカナダの開発者および法人向けに出荷を開始したMicrosoft HoloLens (ホ
ロレンズ/以下、HoloLens) を用い、BIMモデルや3D CADモデルを可視化することはできな
いか。SB C&Sがホロラボと共同で開発した「mixpace」は、好奇心と柔軟な発想を源にして
いる。mixpaceの前身である「AR CAD Cloud」から開発に携わるSB C&Sの遠藤文昭氏は、
日本では未発売のHoloLensを2016年5月に体験して「時代が変わるインパクトを持っている」
と確信。HoloLensはOSがインストールされ、赤外線センサー、マイクとスピーカー、ネット
ワークモジュールを備え、Wi-Fiがつながればスタンドアローンで作動する。「この機動力を
活かすため、クラウドでやるべきだと考え、クラウドを介してCADデータをやり取りし、AR/
MRにするスキームに至りました」と遠藤氏は振り返る。
遠藤氏はアイデアをもとに、後のホロラボ代表の中村 薫氏とともに制作を開始。同年の10月
にはアプリケーションとクラウドの仕組みで動くプロトタイプをつくり、展示会などで関係者
に見せながら広範囲で具体的な要望を聞いていった。
遠藤氏は当初、主に製造業を想定したソリューションを検討していたという。しかし、クラウ
ドサービスを利用する点がハードルとなった。「製造業の企業では自社のCADデータをパブ
リッククラウドで扱う前例が極めて少なく、クラウドの利用については後向きな状況でした」
と遠藤氏。一方で、建築や土木の設計や施工に携わる建設業界の企業では、すでにASP型のク
ラウドサービスが活用されていたほか、複数の企業で連携しながらプロジェクトを進めるため
にクラウドサービスが用いられている土壌があった。そこで遠藤氏は、製造業向けのファイル
に加えてBIMフォーマットのファイルや建設業向けの中間ファイルであるIFCなどに対応する
ように改修。法人化したホロラボと共に機能の向上を図るさまざまな開発を行い、2019年2月
のmixpaceリリースに至った。
「すべての人にMR技術を」をコンセプトに開発
mixpace最大の特長は、手軽であることだ。BIMデータや3D CADデータをブラウザの専用
ページにアップロードすると、AR/MRに適した形式にデータを自動変換。HoloLensとノート
PC (またはスマートフォン) があれば、その場ですぐにBIMモデルや3Dモデルをクラウド経由
で可視化することができる。
「BIMのデータがあってもARやVRで見たい時、これまではファイルのフォーマットに応じて
変換ツールや別のソフトウェアを使っていました。またHoloLensではほとんどがUnityでプロ
ラミングするため、データをさらにインポートしてアプリケーションにして初めて、HoloLens
で見えるようになります。モデリングもプログラミングも社外に発注するとなると、時間とコ
ストが膨大にかかってきます。データ変換の工数や手間をかけず、最短10分というスピードで
自動的に変換作業が完了するmixpaceは、“いますぐに見たい”という希望を叶えます」と大幅
な作業時間の短縮もメリットと語る遠藤氏。PCにRevitなどのBIMソフトやUnityが入っていな
くても、ファイルをブラウザでアップロードすれば自動的に変換され、そのモデルをHoloLens
でダウンロードして見ることができる。
遠藤氏は「すべての人にMR技術を」というスローガンを掲げているといい、出先でアップロー
ドして見るなどの気軽な活用が想定されている。「リアルなスケールでも見えますし、ミニチュ
アのモデルにしてテーブルの上に落とし、さまざまな角度から見たり、建物の中を見ることも
できるようになります」。
ファイルの対応フォーマットが多いことが、2番目の特長である。数十種類に対応しているの
は、APIに建設、製造、エンターテイメントの3分野に対応するAutodesk社のForgeを採用して
いるためだ。「Autodesk社以外のソフトでモデリングしている場合でも中間フォーマットで書
き出すことで対応が可能です。また、Revitでモデリングした建物のデータと、CADソフトでモ
デリングした設備データのそれぞれをmixpaceでフィッティングし、空間に設備を置いてシミュ
レーションするといったことが可能です」。見える個所や見え方はデータのつくり方が反映さ
れ、アップロードするファイルはコンバートの時間も加味して100MBが推奨されている。
3番目の特長は、クラウドのセキュリティを重視した設計であること。遠藤氏はクラウドサービ
スを利用することのメリットを次のように語る。「ビッグプラットフォーマーのクラウドサー
ビスでは、セキュリティ事故が起きないようにコストをかけて対策され、高い信頼性を保って
います。また、ゲームではクラウドでレンダリングされたデータを多くの人が遅延なく扱える
ようになるなど、最新技術が投入され続けています。サービスが充実すると体感できる人の数
が圧倒的に増え、展開や共有がしやすくなり、利便性も向上する。そして機能に対して低価格
化も進みますから、先行投資が抑えられます」。変換されたデータは、日本マイクロソフトが
提供するクラウドプラットホーム「Microsoft Azure」に保存。ユーザー認証はMicrosoftアカ
ウントで行い、セキュリティはMicrosoftに準拠する。「BIMデータやCADデータをアップロー
ドするときには、クラウド側では元データを保持せずに削除されます。Autodeskのビューア
フォーマットに変換されたデータは残りますが、mixpace専用のHoloLensアプリケーションだ
けに接続し、例えばデータファイルを自分のPCにエクスポートするといったことは認めていな
い作りになっています」と遠藤氏は高い安全性を強調する。
施工現場などの生産性を高め、新たな活用の発想も促すmixpace
建設業では企画、設計から施工、FMまでBIMデータの活用が見込まれているが、現在のところ
最もニーズが高いのは、施工の現場で生産性の向上を図ることだという。例えば、建設現場で
の墨出しや、複数人で設計変更などの確認や検査を行うなどの用途が想定される。遠藤氏は
「図面データや寸法を見ることができますが、重要なのはBIMの “I” の部分。形状データだけ
でなく、情報を合わせて見られるようにしたいと思います。また、複数人でのモデル共有も早
めにアップデートしたいと考えています」と語る。
複数人でAR/MRデータを見ながら会議で意見を調整する、クライアントのコンセンサスを得る
などの場面では、力を発揮するに違いない。「これまでは2D画面上のビューアやCGパースな
どが使用されてきましたが、図面を見慣れていない方々へのプレゼンテーションにAR/MRは有
効です。AutodeskのBIM 360との連携も近く行う予定で、BIM 360を採用している企業では
利便性がより向上するでしょう」。そのほかにもARCHICADへの対応など、優先順位を見極め
ながら四半期に一度の頻度でアップデートしていく予定だという。
そして、2019年内に発売とされているHoloLens 2にも、mixpaceはホロラボと連携して真っ
先に対応し実装する予定だ。現在のHoloLensに比べて視野角が2倍になるほか、両手のすべて
の指の動きを認識しオブジェクトをつかむことができるようになる。「例えば、3Dレーザース
キャナで計測した点群データをミニチュア化した地形にし、橋梁を持ち上げて移動しながら架
けて確認するようなことができます」と遠藤氏は近い将来の姿を語る。また特にインパクトが
大きいと予想されるのは、iPhoneなどスマートフォンへの適用だ。HoloLens 2を装着して赤外
線センサーでスキャンしたデータをクラウドで共有し、数工程先の様子を重ね合わせたイメー
ジを各自のiPhoneで共有することができるようになる。
ただし、遠藤氏は用途を詳細に描くことはあえてしていない。「ユーザーの先入観のない意見
に委ねながら取り入れたいと考えています。幅広い業務の方々に興味を持っていただくなかで、
驚くような用途が出てくるでしょう」と期待を寄せる。
価格は、年間契約サブスクリプション形式で「mixpace standard」が1,164,000円(税別)/年
からで、1契約につき5ユーザーまで登録可能なため、1ユーザーで月に20,000円以下とみれば
リーズナブルな設定といえる。複数の企業によるプロジェクトチームでも、利用可能としてい
る。コストも含め、建設業におけるAR/MRの本格的かつ手軽な活用の姿が、いよいよ現実のも
のになってきた。
「mixpace」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。