高性能なGPUが実現する建築ビジュアライ
ゼーションの世界<Twinmotion>
2019.08.26
建築業界でもフォトリアルなビジュアルやVR/ARへの関心が高まりつつあるが、BIMソフトか
らビジュアライゼーションソフトへの反映に障壁を感じるユーザーはまだまだ多い。そのよう
な中で、ゲームエンジンである「Unreal Engine」を開発するEpic Gamesは、ジャンルの枠
を超え、リアルタイム3D没入型建築ビジュアライゼーションツール「Twinmotion」の展開を
スタートした。
このTwinmotionでは、BIMソフトとどのようにリンクしてモデルを扱い、高精度のビジュア
ルが得られるのか。Epic Games Japanの杉山明氏、パフォーマンスの鍵を握るGPUを開発す
るNVIDIAの田中秀明氏、高性能ワークステーションを提供する日本HPの島﨑さくら氏の3人
にお話を伺った。
ダイレクトリンクでBIMソフトから高速にビジュアライズ
建築やインテリア業界では、クライアントへのプレゼンテーションの機会にお互いにイメージ
を共有するため、フォトリアルなビジュアルを提供することへのニーズが高まっている。また
VRについても同様に、クライアントへの説得や承認をはじめ、設計の検討段階でも役立つこと
の認知が高まっている。そのような中で、リアルタイム3D没入型建築ビジュアライゼーション
ツール「Twinmotion」が注目を集めている。Twinmotionを提供するEpic Gamesは1991年
に設立され、アメリカのノースキャロライナ州に本社を置き、ワールドワイドに拠点を持つ
グローバル企業である。世界中で大人気のオンラインゲーム「Fortnite」を筆頭としたゲーム
開発やパブリッシングのほか、ゲームエンジンを活用してゲーム以外のさまざまなビジュアラ
イゼーションやコンテンツをサポートするエンタープライズ部門を擁する。建築分野では、外
観やインテリアのビジュアライゼーションのほか、静止画や動画のVRコンテンツ、そして、VR
で床や壁の材料を変えて反応を見るといった、インタラクティブなツールの開発支援などを手
掛けている。
Epic Games Japanのセールスマネージャーの杉山明氏は「当社では、BIMデータを変換して
リアルタイムレンダリングなどを可能にするUnreal Studioというパッケージを提供している
のですが、Unreal Engine自体が建築分野の方々にはまだハードルが高いようです。そこで簡
単で初心者でも直感的に使えるツールとしてTwinmotionをAbventから2019年5月に買収し、
展開することになりました。TwinmotionはもともとUnreal Engineをベースに開発されてい
たことも、買収を決定した大きな要素です」と説明する。同社ではプロモーションとして、
2019年11月までTwinmotionを無料でダウンロードして使用できるようにしており、11月以
降にローンチされる有償版バージョンの開発を現在進めている。
Epic Games版Twinmotionでは、グローバルイルミネーションに伴うグロー効果による表現力
の向上、プレイバックやシーンの開始、ビデオ出力の速度向上、共有ライブラリへのアクセス
によるチームでのコラボレーションが可能になったことなどの機能強化が施されている。
さらに、ダイレクトリンクがより速く簡単になったことを杉山氏は強調する。
「機能面での最大の特長は、ARCHICADやRevitといったBIMソフトとダイレクトリンクし、
BIMモデルをTwinmotionに簡単に取り込めることができる点です。BIMソフトで変更を加え
ると、即座にTwinmotion側のデータに反映できます。さらにSketchUp、CINEMA 4Dの
フォーマットをサポートし、3Dソフトのデータを即座に読み込むことができます」。
Twinmotionは、Windows版とMac版が用意されており、幅広いソフトに対応しているため、
企業の規模を問わず、アトリエ系の設計事務所からの関心も高いという。また、今後は建築の
ほか、土木やランドスケープ分野など、幅広いジャンルの利用者も一層増えることだろう。な
お、8月中旬にリリースされたアップデート版では、SketchUpとのダイレクトリンクもサポー
トしている。
直感的に使えるUIとストレスを感じさせない高性能のGPU
そして、なにより高品質なリアルタイムのビジュアライゼーションが、シンプルなユーザーイ
ンターフェイス(UI)で簡単に扱えることは大きな特長だ。「これまで、建築業界ではCGやVR
の制作については設計チームから離れ、ビジュアライズ専門のチームが担当していたケースが
多いようですが、設計部門の方々から、ストレスなく使いやすいという声をいただいています。Twinmotionでは特にARCHICADやRevitとの相性がよく、設計者自身が簡単に操作しながら
適宜確認できます」。VRコンテンツの制作でもドラッグアンドドロップで、複雑な操作なしで
静止画、またウォークスルーやフライスルーの動画をつくることができる。「またBIMmotion
という機能を使うことで、独立した実行形式に変換し他のパソコンに簡単に持っていくことが
できます。これまではVRのアプリケーションで、手順がワンステップ多く必要でした。しかも
実行形式に変換されていれば、Twinmotionがインストールされていないマシンでも、VR機器
を接続してVR体験が可能です」。
3DモデルのビジュアライズではGPU性能が高ければ、作業やデータの書き出し時などに快適で、
より高いパフォーマンスが得られる。NVIDIAが今年になって出荷を開始した「Quadro RTX」
シリーズは、最新のTuring アーキテクチャを採用し、Twinmotionとの相性がよい最新のGPU
として、注目されている。
NVIDIAの田中秀明氏は「RTXシリーズの開発段階からEpic Gamesと協働し、Unreal Engine
との相性も最も良くできています。とりわけQuadro RTX 4000は、価格と性能のバランスが
とれたGPUで、BIMソフトとTwinmotionを組み合わせた利用で最も推奨できるものです」と
太鼓判を押す。
RTX 4000は前世代の同クラスと比べると、最大2倍以上の大幅な性能向上を果たし、圧倒的
に性能が上がっている。BIMと共存する環境でも余裕ある対応ができるグラフィックス性能を
持つ。「Turningアーキテクチャの特長でもある“RTコア”を新たに搭載することで、リアルタ
イムのレイトレーシングが可能になり、できることの範囲が広がりました」と田中氏は説明す
る。今春の発売開始後、RTX 4000への引き合いは非常に多く、建築業界をはじめ幅広いユー
ザーにすでに使われているという。
高性能GPUを搭載したワークステーションでTwinmotionを操る
そして、このQuadro RTXシリーズを搭載し、BIMソフトとTwinmotionをストレスなく使い
こなすことのできるハイエンドのモバイルワークステーションが、8月より販売を開始した
日本HPの「ZBook 17 G6」シリーズである。日本HPの島﨑さくら氏は「高度なレンダリング
やVR、さらにAIにも適したQuadro RTXを搭載し、幅広い用途で使え得るハイエンドのモバイ
ルワークステーションです。高性能のGPUや最新のCPUの能力を最大限引き出す優れた排熱構
造を搭載し長時間でも安定稼働するのも大きな特徴です。BIM標準機として多くの採用実績の
ある15インチのZBook15シリーズに加えてVRやリアルタイムグラフィック、CIMや点群デー
タ解析用途として、この17インチのモバイルワークステーションも売れています」という。
グラフィック以外にも、17.3インチモデルでは4K高解像度で広色域ディスプレイを備え、無線
LANは次世代規格のWi-Fi6対応、耐久性の指標となる米軍調達基準への幅広い達成など、快適
に使用できる環境が整えられている。また、セキュリティに力を入れている日本HPではZBook
17 G6シリーズに、コンピュータのBIOSを不正な改ざんから保護し、万が一の破損時にも自動
回復させる「HP Sure Start」、ブラウザやオフィスアプリなどから侵入するマルウェアから
保護する「HP Sure Click」など最先端の技術を取り入れていることも、日常的に使用するマシ
ンに対して信頼を置ける材料となっている。
そしてZBook 17 G6では、RTX 3000より上位のGPUでVRにも対応する。日本HPとEpic Games
はパートナーシップの歴史が長く、日本HPの「VR Launch Kit」は、もとはEpic Gamesが
Unreal Engineで開発したプラグインを日本HPがマシンに実装して検証したもの。加えて、
日本HPでは独自にVR用のヘッドマウントディスプレイ「Reverb」を開発し、9月中旬より出
荷する予定だ。
「外部センサーが不要のインサイドアウト方式で498グラムと軽く、持ち運びがラクです。
ディスプレイは片目2K×2の2,160×2,160で、他社製品に比べて高解像度で視野角に近い見
え方です。そして63,500円(税別)と低価格なのも大きな特徴です」と島﨑氏はいう。
簡単に操作できる3Dビジュアライゼーションソフト、高性能のGPUを搭載して高精細でリア
ルなVRができるマシン、ヘッドマウントディスプレイが身近になってきたことで、一層3Dビ
ジュアライズの世界が広がり、ますますVRが加速していくことに疑問の余地はない。
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