ARCHICADにより停滞期を抜け地域密着型の
BIMエキスパートへ<亦野建築設計事務所>
2019.11.27
群馬県前橋市の亦野建築設計事務所は、2019年に創立50周年を迎えた、この地域屈指の実力
派建築士事務所である。庁舎や学校、病院などの公共建築から各種の民間建築まで幅広い建築
設計のほか、耐震補強や耐震診断なども手がけるなど、その高度な技術により群馬全域で豊富
な実績を蓄積してきた。それだけに新技術導入の意欲も高く、いち早くGRAPHISOFTの
ARCHICADを導入して、BIMの活用・普及を推進してきた。そんな同社のBIM普及活動を牽引
する相場副社長と設計室次長の木村氏に、その取り組みの詳細について伺った。
2次元汎用CADからBIM100パーセントへ
「実は私は転職組で、ここへ来る前、あるゼネコンの住宅設計部にいました。建築設計をもっ
と深く学びたくて当社へ転職を決めたんですが、いざ入社して愕然としました。設計者たちが
2次元汎用CADを使っていたんです」。20数年前のことですが、と苦笑いする相場副社長によ
れば、当時、業界ではすでに3D CADの普及が始まっており、若かった相場氏は同社のような
設計に特化したプロ集団なら、当然、最新の3D CADを使っていると思い込んでいたのである。
とはいえ転職したての身では何かできるはずもない。入社後すぐ構造設計を担当することに
なったこともあって、相場氏の3次元化への思いは当面「お預け」となった。そんな思いが再
起動したのは2010年のことだった。
「この年、私は取締役副社長として経営の一端を担うことになったのです」。折しも業界では
公共事業が縮減され、それまで公共建築中心に展開してきた同社には厳しい環境となっていた。
「となれば、私たちも今まで経験の少なかった民間の仕事を取るしかありません。そのために
何が必要か、考えると、やはりお客様の要望に応えた質の高い設計を“よりわかりやすく”提供
するしかない、と思いました」。こうして相場氏が打ち出したいくつかの改革の一つが、CAD
の見直しだった。
「必ず3Dの時代が来ると、ずっとそう思っていました。というか、そうなることは明らかなの
に、なぜ設計事務所が導入しないのか不思議で仕方なくて……だから取締役になった時、いち
早くCADの見直しを決めたのです。私にとって、それは必然でした」。この頃、日本の建築業
界にBIMの概念が紹介され、徐々に新たなムーブメントとして業界を席巻し始めしていた。し
かし、実際にBIMを導入し、試用をしていたのは大手ゼネコンと大手組織設計事務所ばかりで、
大半の設計者にとってそれは「いずれ到来するが、まだまだ先」の話だったのである。だが、
そんな中にあって、相場氏はこの時すでにBIMの全面導入を明確に意識していた。
「パースの品質だけが目的なら、SketchUpとPhotoshopで十分でした。でも、私は設計業務
をトータルに効率化しクオリティアップしたかった。だから当初から目標を100パーセントの
BIM化に置いて、BIMソフトの情報収集と導入検討を始めたのです」。実は相場氏は、前職の
ゼネコン社員時代に自社オリジナルのCAD開発を任され、外注システム会社と共にCADカス
タマイズを指揮した経験がある。今回のBIMソフトの選定にあたっても、自ら各社の話を聞き、
実際に製品に触れて選び抜いたのである。その結論がGRAPHISOFTのARCHICADだった。
日常業務とBIM普及を両立させるために
「ARCHICADを選んだのは、まず、その設計思想が私のシステムの考え方に近かったこと。
そして、さまざまな機能はもちろん、当時の主力ツールだったJw_cadや構造計算で使ってい
た構造ソフトとの互換性、またユーザーサポートも大いに重視しました」。なぜなら当時、
相場氏の目から見て設計者たちのBIMへの意識は高いとはいえず、BIM教育も含めてトータル
サポートが可能な製品を選びたかったのだという。
「当初の計画では導入後は一気に全社へ普及させ、BIM設計のエキスパートへひた走る予定で
した。ところが、みんな全然走ってくれない……」。BIM導入時によくあるケースだが、同時
期に多数のプロジェクトが動いていたため、設計室全体が切羽詰まっていたのだ。そうなると
誰もがつい新導入のBIMツールを敬遠し、使い慣れた2D CADに戻ってしまうのである。「一時
はJw_cadの使用を全面禁止しようかとまで思いましたが、いっぱいいっぱいの仕事状況を見
て思いとどまりました。さすがにそれをやったら会社が潰れる、と」。
思い直した相場氏は、あの手この手でBIMとARCHICADの普及に取り組み始める。例えば
ARCHICADの機能を細部まで知り尽くす建築家・横松邦明氏に直接BIMプロジェクトを依頼。
ARCHICADの達人によるBIM設計を社員が間近に見る機会を作り、さまざまな講演会や勉強会
への参加を推進するなど、あらゆる手を尽くして普及を図っていった。
その地道な積み重ねにより、ARCHICADを実務で使う設計スタッフも徐々に増えていった。
「もともとBIMのことは気になっていたんです」。そう語るのは設計室で次長を務める
木村敬義氏である。
「日々の忙しさに追われがちでしたが、一方で“もう2Dの時代ではないのでは?”という思い
がありました。ARCHICADも基本的なモデリングまではできたので、パースを作るようにし
てみたのです」。それまではJw_cadで描いた図面からSketchUpで3Dを立ち上げ、
Photoshopでパースを仕上げていた。外注は使わずに自ら作っていたのだという。木村氏は
「ARCHICADで作ってみると、こちらの方がはるかに早いし仕上りも美しい。で、これは使
わなきゃもったいないな、と」。こうしていくつかのプロジェクトをとおして、ARCHICAD
は徐々に設計室にユーザーを増やしていったのである。
地元を代表するBIMのエキスパートへ
「皆がARCHICADでパースを描くようになって作業効率は大きく向上しました。ただBIM化
への次のステップ、図面化へのハードルが高くて……正直この3年はパース制作までで停滞し
ていました」。むろんARCHICADで統一した方が良いのはわかっていたが、それでも躊躇す
るほど木村氏にとって高いハードルだった。
「苦手意識はなかなか消えませんでしたが、パース作りで日常的にARCHICADに触れ、さら
にVIPサービスのサポートで疑問を一つ一つ潰すうち“こうすればいい”という気づきが増え
て……。ようやく図面化に挑戦してみようと思ったのです。副社長にもはっぱをかけられま
したし」。そう言って木村氏が見せてくれたのは、特徴的な螺旋階段を持つ2階建て1400㎡
ほどの保育教育施設の図面だった。
「時間がなくてこれも最終的にはJw_cadで仕上げましたが、ARCHICADで壁や階段、サッ
シ回りなど、複合構造を使って書くことができたのです」。
複雑な螺旋階段のモデリングと初めて複合構造を活用した図面作成初挑戦の成功は、木村氏
に大きな自信を与えた。実際、木村氏はすでに次のプロジェクトでもARCHICADによる図面
化に取り組んでいるという。「3階建て鉄骨造2500㎡ほどの老人福祉施設です。ARCHICAD
で図面化もフルにやりきるのは当然として、今回は他メンバーも巻き込んでチームワーク機
能も試す計画です。個人的には断面形状をもっと使いこなしたいですね」と語る木村氏の笑
顔も自信に溢れている。ようやく念願がかない始めた相場氏は、しかしまだまだ満足しては
いない。
「こうして木村君がBIMを通じて新しい“価値”を産み出し、やる気を見せてくれたことは本
当に嬉しいですね。会社としてもどんどん注力し、バックアップしていきますよ。すでに
木村君を講師に勉強会を定期的に開催。メンバーへのBIMとARCHICADの普及を進めていま
す。また、他方では群馬県内のARCHICADユーザーとの交流も推進しながら、全社のレベル
アップを図っていきます。そうして“群馬でBIMなら亦野設計!”といわれることが最低限の
目標です。だから、ここからウチは走りますよ!」
「ARCHICAD」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。